表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今川義元の野望  作者: 高野康木
尾張編
17/32

間話 近江の山賊殺し

山道のなか、一人の男が歩いていた。

北近江の山道。ここには、最近になって、山賊殺しがでるという、噂があった。

男は、この時代にはあっていない服を着ていた。

制服のはずなのだが、白のYシャツは、かえり血によって、真っ赤になっている。


「止まりな兄ちゃん」


そんな男の前に、3人ほどの山賊が現れる。

頭をたれ、フラフラ歩いていた男は、山賊達が現れると、歩を止めた。


「珍しい服だな。南蛮人にでも、貰ったのか?」

「……お前たちに、ききたいことがある」


山賊の質問を無視して、男は、重い口を開いた。

質問を無視されたことに腹をたてた山賊だが、一応答えることにしたらしい。


「ここはどこだ?僕は、いつからここにいる?」

「なにいってんだ?頭でもおかしいのか?」

「答えろ。ここはどこだ?」


さすがに切れたのか、山賊が刀を抜く。

その反応にため息をついた男は、静かに、腰の刀に手をかける。


「殺せ!」


3人の山賊が、男に斬りかかった。

顔をあげた男は、とても美しい顔をしていた。





「山道を歩くなど、危険ではございませんか?」

「気分転換じゃよ。この世は、戦ばかりだからな」


身分が高そうな男が、馬に乗りながら、護衛をつけて歩いている。

近江の山道を進んでいると、護衛の一人が、とつぜん刀に手をかけた。


「どうした?」

「血の臭いがします。誰かが、殺されてるはず」


護衛をつとめている二人が、先行して行くと……。

一人の男が、血のついた刀を持って、立っていた。


「おい……」

「わかってる。あの男、かなりの手練れだ」


護衛達が警戒するほど、その男は恐ろしかった。

顔は美形であるが、彼の回りは、地獄絵図のようである。

山賊が斬り殺されているのだが、その数が10人を越えている。


「貴様がやったのか?」


護衛の一人が話しかけると、男は、感情のない瞳をむけてきた。

まるで、殺人マシーンのようである。


「そうだね……。平和的に、話し合いをしたかったんだけど。興奮してたのかな?斬りかかってきたんでね……。反撃させてもらったんだ」


地面に落ちている鞘を拾うと、刀を納めた。


「狂っているな」

「こういうのは、早めに殺したほうがいい!」


護衛の一人が、男に斬りかかる。

男は、刀を納めたばかりなので、反撃できないだろう。

護衛の二人はそう思って、攻撃にでたのだ。

それが、間違いであると知らずに。

男は、だるそうに刀の柄に手をかけた。

しかし、すでに刀は男の頭上まできていた。

斬りかかった護衛は、自らの勝ちに、頬を緩ませる。

が、ここであり得ないことがおきた。

男は、大きく一歩前進すると、刀を掴んでいない手で、斬りかかってきた男の手首を掴んだのだ。

それにより、護衛の刀が、斬ることができずに止まってしまう。


「ば、バカな!?」

「死ぬほど簡単な話だよ。いくら刀を振る速度が速くても、腕が見えなくなるほど速いわけじゃない。それなら、あなたの刀が当たる前に、手首を掴んでしまえば、それ以上振ることはできない」


ギリギリと、手首を掴む男。

護衛の顔が、恐怖に歪む。


「さようなら……」


次の瞬間、掴んでいた腕を真横にふり、刀の軌道をずらすと、逆手抜刀により、護衛の腰が斬られる。

痛さに、バックステップしようとした護衛だが、返す刀により、首を切り落とされた。

もう一人の護衛は、男のあり得ない動きに驚愕して、立ちすくんでいる。

男は、刀を振って血を飛ばすと、その刀を地面に刺して、死体の護衛の腰から刀を奪う。

おそらく、このようにして、刀の刃こぼれから逃れているのだろう。


「僕は、ただお話がしたいだけなんですが?」

「そうか。では、話をしようではないか」


とつぜん、身分の高そうな男が現れた。

護衛の帰りが遅いので、自分からきたのだろう。


「私の名は、浅井久政あさいひさまさ。山賊殺しの男よ。お主の名は?」


久政が、馬を降りて名乗ると、男も重い口を開いて名乗った。


「健斗。浅沼健斗だ」


刀を地面におくと、健斗は疲れたように、その場に座った。

幼少の頃から習っていた居合いや、剣道のおかげで、ここまで生きてきたのだ。

その疲労が、ここにきてあらわれたのだろう。

突然この世界にきて、突然山賊に襲われて。

初めて人を殺して、初めて殺意をむけられて。

健斗の疲労は、莫大なものになっていた。

この状態で刀を振っていたのだから、おそろしいことである。


「ここは、どこですか?」

「北近江。浅井領だ」

「なるほど、戦国時代にきたわけですか。ところで、僕のような不思議な人を知りませんか?」


健斗の質問に、髭をなでる久政。

しばらくして、やっと答えた。


「貴様のような奴は、あまりいないだろう。ただ、数ヵ月前に、京で、おかしな男がいたにはいたぞ」

「……何ですって?どういうやつですか?」

「ふむ。きいた話によると、病をわずらっており、その病で人を殺せるようだ」

「その男はどこへ?」

「さてな。美しい女子と共にいたらしいが、どこに行ったかまではわからん」

「そうですか。他に、おかしなことはありましたか?」


久政は、怪訝そうな顔をしたが、一応答えてはくれるようだ。

この男も、争いごとはあまりしたくないらしい。


「おかしいといえば、駿河の今川義元だな。何ヵ月か前くらいに倒れたはずだが、一月たったら、別人のようになっており、瞬く間に、元の領地を取り戻したようだ」

「……そうですか」


あぐらをかくと、健斗は、考え始めた。

京を騒がせたのは、間違いなく広大である。

健斗の頭の中では、普通の顔でホラをふく広大が浮かぶ。

長年一緒にいたから、わかることである。

次に今川義元。

一月も寝てれば、確実におかしくなる。

しかも、万全になってすぐに、元の領地を取り戻すのはありえないこと。

ここから考えられることは、偽者の義元が、今川にるということだ。

本物は死んでいる。

なら、その偽者は誰か?

京に現れた男ではないだろうか。

ここまで考えた健斗は、軽くため息をつく。

つくづく、おかしなことをする奴だと思ったのだろう。


「ききたいことは、それで全てか?」

「ええ。そうですね」

「ならば、こちらの話に答えてもらう」


自分にきくことなどあるのか疑問に思った健斗だが、一応頷く。


「お前、家族はいるか?」 

「いるといえばいますけど……。今はいません」


自分の家族は、未来にいる。

だから、嘘ではないと、自分なりに解釈する健斗。


「そうか。では、私の養子になるきはないか?」

「……どうして僕なんかを?」


しばらく見つめあっていると、久政が、山賊たちの死体を見ながらーー。


「これほどの武勇があるなら、充分だろうな。あいにく、私は戦が下手くそだ。それに、お前は頭もきれるだろ?」


久政のいうとうり、健斗は、文武両道の人物である。

しばらく、考えていた健斗は、あることに気付く。

久政といえば、北近江の大名である。

大名なら、いずれは今川義元と会うことがあるだろう。

そうすれば、今川義元の正体がわかる。

しかし、この策は危険もある。

大名になるということは、命の危険も増えるだけでなく、多くの人を殺すことにもなる。

そして、嫌でも歴史に介入することになるのだ。


「デメリットはあるけど、メリットの方が多そうだね。僕でよければ、養子になるよ」

「そうか」


健斗の答えをきいて、久政は鼻で笑うと、自らの腰にある刀を、健斗に渡す。


「これから、お前の名前は浅井長政だ。天下に轟く息子になれ!」


その言葉をきくと、健斗は微笑んで答えた。


「お任せください。父上」


この事件の数ヵ月後に、広大は尾張を取るのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ