表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今川義元の野望  作者: 高野康木
駿河・遠江・三河統一編
12/32

間話 松林広大という男

住宅街から、息を切らして、一人の男子生徒がが走ってきた。

目的地は、学校の校門である。

汗で、黒髪が額についている。

身体は細いが、きちんと筋肉がついている体つきだ。

しかし、この男子はこの学校の生徒ではない。

名門の学校の生徒である。

なので、部活が終わって出てくる生徒達が、不思議そうにみている。

ちなみに、女子生徒は目が合うと、キャキャ騒いでいる。


「ごめ~ん!けんくん、遅れた!」


そんな声とともに、坂道から、女子生徒が走ってくる。

茶色の髪の毛が、腰辺りまである彼女は、あまり息を切らしていない。


「さすが、元陸上部もとりくじょうぶ。息、切れてないね」

「今は、吹奏楽すいそうがくだけどね」


そんな久しぶりの会話をして、二人でクスリと笑う。

本当は、ここにもう一人いたはずなのだ。

ちなみに、この男子生徒の名前は、浅沼健斗あさぬまけんと

そして、女子生徒の名前は、水島薫である。

なぜ、高校が違うこの二人が、こんな夕方に集まっているかというと、ある探し人がいるのだ。

その人物の名前は、松林広大……。

この二人にとっては、大切な親友である。

そんな親友が、ある日、突然行方不明になってしまったのだ。


「まったく。広大は、変なときに勇気があるから困るよ」

「……やっぱり、私が悪かったのかな……」


薫は、悲しそうにうつむく。

健斗も、広大が消える前のことは、薫からきいていたので、薫の肩を叩いてーー。


「心配しなくても、大丈夫だよ!広大なら、何くわぬ顔で、戻ってくるさ!」


と、励ます。

しかし、元気が戻らない薫はーー。


「ううん。広大は、心が意外と弱いのよ……。あーもう!!いくらなんでも、あんな断りかたしなければよかった!!」 

「……ごめん、きつい言葉かもしれないけど……。僕からみたら、二人は相思相愛そうしそうあいだとおもってたけど……間違いだった?」


顔を覗きこんで、健斗が言うと、薫は真っ赤になりながらーー。


「し、嫉妬しちゃたの」

「はい?」

「だって、広大たら、女の子と普通に話してるのよ!私は、男子とあんまり話せないのにさ!それって、せこいじゃん!」


あまりに、幼稚な発言に、言葉がでない健斗。

そんな幼稚な考えでーー。


『なんか、松林くんっていい加減な感じがするんだよね』


と言われたら、自分でも心に傷がつくだろう。

せめて、いつも呼んでるように広大と言えば、まだ良かっただろうと思うが、後の祭りである。


「は、話すくらい良いんじゃない?」

「更に腹立つのは、ほんの少ししか話さないくせに、優しさをだすのよ!そこが、きーにーくーわーなーいー!!」


足踏みをしながら、プンプン怒りだす薫。

そういえば、広大はそういうやつだったと、健斗は思い出した。





健斗が、広大と出会ったのは中学からである。

その頃の広大は、簡単にいうと近寄れない雰囲気をだしていた。

母子家庭で、いつも鋭い目つきをしていたからだ。

なので、当然クラスでも浮いていた。

しかし、不良かというと、そうでもなかった。

休み時間には、イヤホンをいつもしているが、授業前にきちんと予習しているし、先生に当てられれば、きちんと答えていた。

成績は、どちらかというと悪いほうだったが、あまり気にしていない様子で、一人で頷いていた。

そんな広大に、唯一話しかけていたのは、薫だった。


「広大!雰囲気が、暗すぎる!みんな、近づけないでしょ!」

「いきなりなんだよ、お節介せっかい女。暗いのは、生まれつきだ」

「バカいってんじゃないの!いいから、イヤホンを取りなさいよ!」 

「いいでで!やめろ!耳がとれる!」


そんなことをたまにするので、殴ったりしないかと、クラス中が、焦ったりしていた。

それが、松林広大という人物だと、健斗は思っていた。

その考えが変わったのは、健斗が朝早く学校についたときだった。

日直だった広大と、女子生徒が、言い合いをしていたのだ。


「だから、黒板を掃除してくれてもいいじゃん!それくらいの優しさもないの?」

「何度言わせんだよ。俺は半分掃除したし、日誌だって書いてんだよ。優しさなら、溢れるくらいあるだろうが」


この男は、変わっている。

そう。

近寄りがたいから、変わっているになったのだ。

しかし、この時の健斗でも、まだ、広大の本当の性格を知らなかったのだ。

二年になったある日のこと、健斗の妹が、突然病院に通い始めたのだ。

親にも言わずに、休みの日になると、必ず病院に通っていた。

さすがの健斗も、不思議に思い後をつけると、病院ではなかった。

初めは、本当に病院に通っていたのだろうが、彼氏の家に通うのに、そういう嘘が一番いいと考えたのかもしれない。

しかし、健斗が驚いたのは、その相手が広大だったことだ。

健斗の妹は、どちらかというと、内気な性格のはずである。

それが、あんな男とーー。

半信半疑で、聞き耳をたてていると、二人の会話が聞こえてきた。


「あの!松林先輩、これーー」

「君ねー。いいんだよ、毎日話し相手してくれなくても」

「でも、病院で家が嫌いだってーー」

「だからって、いいんだよ。俺が、好きでやったことなんだから、君が責任を感じることじゃない」


健斗は、そのやり取りでわかった。

今、広大は停学処分をくらっているのだ。

その理由は、かつあげしていた不良三人と、殴りあったからである。

そして、自分の妹のあの態度をみると、かつあげされていたのは、妹だったらしい。


「松林くんーー」

「お兄ちゃん!?」

「おぉ。健斗くんだ」


まさか、広大が自分の名前を覚えているなど、夢にも思っていなかった健斗は、言葉に詰まる。


「僕の妹を、助けてくれてありがとう!」

「おいおい。頭をあげてくれ!俺は、好きでしただけなんだから!」


慌てて広大が、健斗の頭をあげるさせる。

どうやら、広大は頭を下げさせるのが、あまり好きではないらしい。


「でも、そのせいで傷をおったんだろ?」

「まぁな。でも、ケンカなんてするもんじゃねーよ。やっぱり、平和が一番だわ」


そういって、広大は恥ずかしげに笑った。

その瞬間、健斗はやっと広大のすべてをしったのだ。

この男は、お人好し並みに優しくて、そして、誰よりも人のことが好きなのだと。




「健くん!きいてますか!?」

「うん?ごめん、きいてなかった」


頬を膨らまして、怒る薫に、苦笑いする健斗。


「考えごとしてたの?」

「いや、昔のことをね」


あの後から、この三人組になったのだ。

チャランポランな広大と、それを叱る薫。

そして、二人の間をとりもつ健斗。

中学でも、散々暴れたもである。

その一人が、失恋した次の日に消えた。

まったくもって、信じられない健斗は、薫と放課後に探し回っているのだ。


「あと、探してない場所はどこ?」

「ほとんど探したよね。警察も、目撃者がいないことを不思議に思ってたけど、本当に、何もないなんて」


せめて、通学鞄くらいあるだろうと思っていた健斗だが、それすら見つからない。

駅の防犯カメラには、広大の姿がなかったので、この地域内のはずと、二人で心当たりを探しているのだがーー。


「まるで、神隠しにあったみたいに、何にも見つからないなんて!」

「薫ちゃん。今日は、これくらいにしょう。日も沈み始めてることだし……」


健斗は、剣道を習っているので、もしものときはなんとかなるが、薫は女の子である。

夜は危険だと判断して、解散することにした。

健斗は、自分の長くなる影を見つめながらーー。


「まだ、借りは返してないんだぞ……。広大、どこにいるんだ……」


そう、独り言を呟いた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ