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今川義元の野望  作者: 高野康木
駿河・遠江・三河統一編
10/32

9話 目には目を

場所は今川館。

広大は、家臣団を集めていた。

いつものように上座に座っているが、顔は真剣だ。


「遠江をとって、しばらくしたからね。そろそろ、三河をとろうと思う」


空気が引き締まった。

ついに三河をとる……。

そんな、家臣達の気合いが高まる。


「殿。三河をとるには、問題があります」


しかし、雪斎は冷静に発言する。

こんな時だからこそ、冷静にならなければいけないと思っているのだろう。


 (本当は、一番三河を取りたいんだろうけど……)


そんなことを思いながら、広大は雪斎に発言を促す視線をおくる。


「三河のくそ狸……。いえ、徳川家康は、尾張のうつけ姫である、織田信長おだのぶながと同盟を結んだようです」

「織田さん!?」


広大の知っている織田信長といえば、あの信長である。

一瞬、何かを思い出しそうだった広大だが、それは、雲のように掴めずにすり抜けてしまう。


(なんだ。なんか、大切なことを忘れてるような……)


「殿、きいてますか?」

「うえっ?悪い、きいてなかった」

「あんたね~。自分で三河をとるっていったんでしょ!きちんときいてなさいよ!」


また、泰能に殴られると思った広大は、腕を胸の前でクロスしてーー。


「ば、バリアー」

「変なことしてんじゃないわよ!」


ゴスン!

防御していない脳天を狙われた。


「泰能!」

「わかってるわよ。これ以上はしないわ!」


怒る雪斎だが、反省した気配がない泰能。

いつもの光景である。

痛さがなくなった広大が起き上がると、雪斎が説明をはじめた。


「まず、同盟を結んでいると、手助けをしてくれるとゆう利点りてんがあります。敵にとっては、面倒なことですが、自身にとっては最高な策です。この時代では同盟は不可欠でしょう」

「その同盟を、徳川さんと織田さんはしているんだよな?」

「そうよ。つまり、私達からしたら面倒なことなの」


世にゆう、清洲同盟きよすどうめいをし終わっているのである。

西に上洛する信長は、徳川家康と同盟をして、家康を東のおさえ役にしたのだ。


「その同盟、どうにかできないの?」


広大は、同盟をどうにかして破棄はきにもってきたいらしい。

しかし、家臣団は難しい顔をする。


「残念ですが……。徳川家康は、織田信長に幼少ようしょうの頃の借りがあるかぎり、破棄はしないでしょう」

「それに、一ヵ国しか所有してない徳川にしたら、誰かの手をかりたいはずだわ」


今川の頭脳派ずのうは二人に言われてしまえば、破棄はできないだろう。


「殿、小生にお任せくだされ!小生なら確実に撃ち取って見せまする!」


気合い十分の元信は、すぐさま出陣しそうな勢いである。


「待ちなさい元信。気合いがあるのはいいけど、そうなると総力戦になるわよ」


そんな元信を、泰能が止めた。


「総力戦?」


広大が、気になる単語を口にすると、雪斎が答えてくれた。


「総力戦というのは、簡単にいいますと、かなりの被害がでます」

「それって、死人が増えるの?」

「ご心配にはおよびません!小生が、千人斬ってしまえば、すむことです!!」


元信は、広大の性格をまだわかってないらしい。

泰能と雪斎は知っているので、苦笑いしている。


「えーと。総力戦は、なしの方向で」

「なぜ!!」

「あんたは、静かにしてなさいよ」


元信が抗議しようとしたが、泰能が肩を叩いて黙らせる。

それならどうすればよいのかと、広大が考えているとーー。


「目には目を、同盟には同盟を……。信長に敵対している斉藤義龍さいとうよしたつと、同盟をしみてはどうでしょう?」


雪斎の頭の中では、すでに対策ができていたらしい。

斉藤義龍は、尾張の上にある美濃みのの大名であり、美濃とは、現在の岐阜県あたりである。


「斉藤さん?」

「そういえば、道三どうさんの頃は友好的だったけど、義龍になると関係は悪くなったんだっけ?」

「うん!道三!?」


突然広大が、通学鞄から教科書をとりだす。

何かの時に役立つと思って、自室から持ってきていたのだ。

きいたことがある名前が、確か、この教科書に書かれてあるからだ。


「あったぞ!斉藤道三って人の子供なんだろ?」

「何よそれ」

「巻物のようなものだよ」


当然の疑問をもらす泰能だが、広大は適当に答えて、教科書を読む。


『斉藤道三とは、織田信長の才能を見抜いた人物であり、信長の理解者でもあった……。しかし、信長に自国を譲ると勝手に決めた道三に、子の義龍は異議を唱えて、謀反を起こす。そして、父親を殺して、美濃の国主になった……』


一通り音読し終えた広大はーー。


「マジで。お父さん殺しちゃったの?」

「今さら何を驚いてんのよ。そんなこと、とっくにみんな知ってるわ」

「にしてもよ。お父さん殺しちゃうかな~」

「それが、今の世です」


雪斎が、悲しそうな表情でそう答えた。

ため息をついた広大は、教科書の次のページをめくる。

もしかしたら、織田信長に敵対している人物の事が書かれているかもしれないと、思っての行動だった。

しかし、その行動が、広大にとって嫌なことを思い出す原因になる。

次のページには、こう書いてあった。


『織田信長は、桶狭間の戦いにより今川義元を倒す。この戦いにより、信長の名前は広くしれわたった』


「っ!?」


バシン!

反射的に、教科書を閉じる広大。

あまりの音に、同盟をどうするか考えていた家臣団が、全員広大に注目する。


「い、良いこと思いついた!あれだよ、ほら!斉藤さんと同盟をすればいいんだよ!」

「……それの使者ししゃに、誰を行かすかで考えてんでしょ?」

「そ、そうか……。それなら、氏真と藤吉郎で行ってくれ」


額の汗を腕でふいて、広大が二人に命じる。


「良いのですか兄様!?」

「殿!拙者名を変えて、秀吉ひでよしでござるよ!!」

「あぁ。そういえば、そうだったな……。てか、もう名前変えんの禁止ね」

「がーん!」


広大の発言に、オーバーリアクションをする秀吉。

実は、引馬城の普請の後に、広大は藤吉郎を昇格させていた。

なので、今の藤吉郎は小姓でなく、侍大将である。

そして、侍大将になったとたん、藤吉郎は秀吉に改名したのだ。

なので、今の藤吉郎の名前は、木下秀吉である。


「それじゃ、他の人は訓練しておきましょう!今回は、これで解散!」


勝手に終わらせた広大は、誰にもばれない内に、ここから逃げるように出ていく。

しかし、広大が気づかなかっただけで、ずっと広大を見ていた人物がいた。

それは、太原雪斎だ。


「……元信」

「なんだ雪斎?」


小言で、元信に話しかける雪斎。


「これから、殿と稽古ですよね?」

「あぁ。素振りの練習がある」

「なるべく、殿から目を離さないように……」

「うむ。任せておけ」



ーーーー



場所は変わり、広大の自室ーー。

そこには、雪斎がいた。

広大の制服や、鞄の中にあるものを見たりしている。


「おかしい……。ありませんね……」


1度正座をして、考える雪斎。

彼女の探し物は、日本史の教科書である。

あれほど広大の顔色を変えたからには、何かしら重大なことが書いてあるのだろうと思って、広大が、戦闘訓練をしている内に、忍び込んだのだ。

しかし、目的の物がどこにもないのだ。


「これほど探してないというとーー」


そう言いながら、刀が置いてあるところの畳をめくる。

すると、案の定、日本史の教科書が置いてあった。


「やはり。殿も、まだまだですね」


さっと、目を通す雪斎だが、ここであることに気づいた。

それは、読めない文字があるのだ。

この時代は、くずし字というのを使っている。

当然、雪斎は高い位の僧なので、漢字はほとんど読める。

しかし、カタカナや複雑な意味はわからない。

さらに、漢字の中には雪斎の知る漢字が、簡単化にされてるので、全てはわからない。


「ふむ、暗号のようなものですか……。なかなか、簡単にはいかせてくれませんね」


しかし、雪斎はやはり天才であった。

短時間で、あることに気づいたのだ。

それは、教科書が年代順になっていることである。

奈良時代から、突然江戸時代に跳んだりしないことを、瞬時にわかったらしい。

数字が読める雪斎は、今の時代のページまで、一気にめくる。

しかし、タイムリミットは必ずある。


「元信は、最高何回振れるんだ?」

「小生は、千回以上振れます」 


元信と、広大が廊下を歩いてきたのだ。

ここまでかと言うように、ため息をついて、もとの場所に教科書を戻す雪斎。

ほとんどタイムラグなしに、広大が障子を開けて入ってきた。


「うおっ。迎えにきてくれるなんて、珍しいな雪斎」

「ふふっ。時間がありましたので」 


さすがの雪斎は、慌てる様子もなく微笑む。

実は、微笑みこそ広大の弱点なのだ。

たいがい微笑むと、広大は視線をそらす。

広大は、あまり女性に耐性たいせいがない。

なので、美少女の微笑みなどを直視すると、顔が赤くなってしまうのだ。

それがばれると恥ずかしいので、あえて視線をそらしているのだ。

そのことを、雪斎は知っていたので、たまに利用されているのだが、広大は気づいていない。


「それでは、行きましょうか」

「少しくらい、休ませてくれても……」

「だめです」


最近の広大は、午前中に戦闘訓練をして、午後からは、戦の陣形じんけいなどを学ぶ時間になっている。

つまり、休む時間がないのだ。


「じゃ、行くか」

「はい」


雪斎と共に、学舎まなびやである寺にむかう。

残された元信はーー。


「さて、もう少し素振りをしておくかな」


元気が、あり余っていた。



ーーーー



魚鱗ぎょりんとか、鶴翼かくよくとかわかんねーよ」

人海戦術じんかいせんじゅつは、指揮をとるものなら、覚えるのが普通です」


夕飯を食べながら、広大は文句をこぼす。

最近は、なぜか雪斎と食べることが多い。

一人で食べるよりは、ましと言えばましであるが、なぜ寝巻きでくるのかは、いまだにわからない。


「それより、なんか用でもあるのか?」

「用がないと、一緒に食べてはいけないのですか?」

「いや、そんなことはねーけど」


急に悲しそうな顔で、雪斎が答えたので、慌てて否定する広大。

これすらも、雪斎の作戦だとわからないあたり、さすがは広大である。


「実はですね。三河攻めについての話を、しようと思っていたんです」

「三河攻め?」


箸をおいて、真剣な顔をする広大。

かなり、気合いが入っている。


「ここに、三河の地図があります」

「あれ?それって、大事な奴じゃん。なんで、雪斎が持ってんの?」


当然のように、懐から三河の地図を取り出した雪斎に、広大が疑問を投げ掛ける。

この時代、敵に地図が渡っていると危険なのだ。

理由は簡単で、自国の地図を敵が持っていると、どこを攻めればよいのかわかってしまうからだ。

なので、厳重に管理されているのが普通なのだが、なぜか雪斎は、三河の地図を持っている。


「簡単なことです。あの狸のことですから、義元様になにかあった時、裏切るかもしれないと思っていたので、ひっそりと、自室から奪っておいたんです」

「よ、用意がいいな……」


悪いことをしていませんよ的な、笑顔を浮かべた雪斎に、若干顔が青白くなる広大。


「まず、引馬城の北にある長篠城ながしのじょうと、北西にある吉田城よしだじょうを落とします」


どうやら、遠江攻めの時と同じく、拠点から潰していくらしい。


「でもさ。俺らは総兵一万五千くらいだろ?一気に攻め落とせるんじゃね?」

「いえ。完全に叩き潰すなら、まずは、この二つから落とした方がいいでしょう」

「り、理由は?」


急に広大がどもったのは、雪斎が、いきなり、肩が触れ合うくらいまで接近してきたからだ。


「どうしました?」


上目づかいで、小悪魔のようにクスリと笑う雪斎。

そんな顔を見た瞬間、広大の心臓の音が、自分自身に聞こえるくらい大きくなる。

顔は、すでに真っ赤である。


「広大、熱でもあるんですか?」


雪斎が、額に触れようとした瞬間、反射的に広大は後ずさる。


「ね、熱なんてねーよ!そ、そ、それより、三河攻めの話だろ!?」


残像が残るんじゃないかと思うくらい、広大が雪斎を人差し指でさして上下に動かす。

しかし雪斎は、小悪魔のような笑みをくずさず、よつんばになりながら、広大に接近する。


「広大は、魅力的ですよ?」


よつんばになってるせいで、襟から胸が見えそうになっているので、広大は慌てて目を反らす。

というより、谷間は、見えてしまった。


「きゅ、急になんだよ!?」

「いえ。最近、私の敵が多くなったような気がしましてね……。まさか、広大から攻めてたりしませんよね?」


さらに後ずさろうとした広大だが、壁による妨害をうける。

そう、これ以上後ずされないのだ。


「クスッ。もう、逃げれませんね?」

「ど、ど、ど、どうしちまったんだよ!?なんで、急に!?」


両手を前にだして、できるだけ接近を拒否する広大だが、雪斎は止まらない。

というより、広大の伸ばされた両手を掴んで、自由を奪ってしまう。


「広大。私は、あなたのことが好きです」


広大の胸に、ゆっくり倒れてくる雪斎。


「ふがっ!?」


突然の告白及び接触せっしょくにより、広大の頭は真っ白になる。

雪斎は、広大の襟を掴む。


「ですから、困るんです。私以外に、広大の魅力に気づいてしまう女子がいると……。嫉妬してしまいます」


頬を膨らまして、上目づかいで広大を見つめる雪斎。

答えたい広大だが、口が開閉するだけだ。


「忘れないでください。広大の全てを知ってるのは、私だけです。つまりーー」


広大の唇を、人差し指で触る雪斎。


「広大は、私だけのものです」


その人差し指を、自分の唇につけて、微笑む雪斎。

それが、広大の限界だった。

頭から湯気が出るくらい真っ赤になった広大は、気を失ってしまったのだ。


「クスッ。ゆっくり休んでくださいね」


頭を撫でて、ゆっくり立ち上がる雪斎。

自分の策通りなら、あの二人が帰ってくる頃だろう。


「その前に、広大に私の策を簡単に説明しないといけませんね」


和紙を取り出して、自信の策についての説明を書く雪斎。

実は、寝巻きを着てきたのは淡い期待からだったのだがーー。


「まぁ。8割がたは、こうなると思っていましたけどね」


気を失っている愛しい人を見て、微笑む雪斎だった。


今川氏真ーー。


この人は、義元の子供です。

しかし、悲しいことに戦国時代にはむいてなかったのかもしれません。

戦などもせずに、鞠などで遊び呆けてたらしいです。

そのためか、自国は武田と徳川に取られてしまいます。

しかし!この人は、生き残ったんですよ!

北条さんに助けてもらったらしいです。



私の物語では、広大の妹になっており、秘めたる才能を持っている女の子です。

これからも、色々なところで働いてもらうつもりです!

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