不思議な寺と、知らない場所
「う~ん」
うねり声をあげると、深い眠りから目覚めた少年。松林広大。
しばらく横になっていた為だろうか、自身の身体の調子を確かめるように首を左右に振る。
すると、周りの変化に気づいたのか、口を開けつつ、突然動きを停止してしまった。
なぜならば、広大の目の前には沢山の木があったからである。
正確に言えば、林の中ーー。
最悪の場合、森の中である。
「えーと……。なんで、ここにいるんだっけ?」
腕を組み、頭を傾げた広大は、必死に記憶を探りだす。
原因は、すぐに突き止められた。
広大という男は、大胆な性格の人物である。
昨日、小学校から密かに想いを寄せていた同い年の高校一年、水島薫に、勇気をだして告白したのだが……。
即座にフラれた。
理由は、単純であった。
「松林くんって、いい加減な感じがするんだよね」
その言葉をきくやすぐに、広大は走って逃げた。
自分の欠点など、百も承知だったのだが、他人にーー。しかも好きだった人に言われたことで、精神的なダメージは深刻であった。
学校をとびだし、息がきれるぐらい走ってから、ハテと気がついた広大。
まずいことに、気づいてしまったのだ。
初めてのサボりである。
家に帰れるはずもない広大は、町をうろつく事にしたのだが……。
「知らない内に、寝ていたのか」
ある程度の記憶を思い出すことができた広大だが、何故か寝てしまった場面の記憶がない。
まるで、欠落しているかのように……
普通なら、この場面で頑張って思いだそうとするのが、大半の一般人の行動だろう。
しかし、この男は違う。
生きてるなら、それでいいか。と考える男なのだ。
「とりあえず、ここから出るかな」
独り言を呟き、木々の中を歩き続けていると、数メートル先に壁が見える。
しかし、少し近づくとわかったことだが、上の方は、瓦でできており、壁というよりは、塀であった。
「おぉ。人の家か。少し話しかけてみるかな」
左右を見回すと、まるで城を囲うように、塀はどこまでも広がっていた。
正面玄関に行くのは、どうも大変そうだと考えた広大。
「すいませーん。道に迷ってしまったんですがー!」
声が届けばいいと判断した広大は、大声で呼び掛けるが、しばらく待っても応答がない。
よくよく耳をすませると、微かに、笑い声が聞こえるのだが、広大の声には、反応してくれないらしい。
(無視されてるのかな? 感じ悪い家だな)
その場で短くため息をついた広大は、仕方なく、侵入することにした。
入ってから、理由を話して許してもらえばいいか。と考えての行動であった。
高さ的には、よじ登れそうだった為、容易く侵入することに成功。
塀から地面に着地した広大は、驚きに目を見開く。
何故なら、家と思っていた場所が、寺であったからだ。
しかも、寺といっても、住宅街にあるような普通の寺ではない。
まるで、奈良の寺を全て集めたかのような、大きな寺である。
「すげー。どこかの、世界遺産か?」
周りを観察しつつ、土の地面を歩きながら、声のする方にむかう広大。
廊下から襖に近づくと、数人の男の大笑いする声。
どうにも、酒を飲んで酔っている様子である。
(朝から酒を飲んでいるなんて、お坊さんのすることかよ)
イラッとした広大だが、ここで争い事になってしまうと、警察を呼ばれる可能性が高くなってしまう。
既に不法侵入をしているのだ。
ここで、フラれた挙げ句、警察に連行されるなんてことがあれば、学校中の笑い者になるのは、間違いない。
そこまで容易に想像できた広大は、ため息を一度つくと、笑い声の聞こえる障子を開けようする。
「んっ?」
が、渡り廊下の奥の方から、微かに綺麗な声が聞こえた。
引き寄せられるように、広大は、声のする方に歩きだす。
声の聞こえる部屋につくと、何を言っているのか明確に理解できた。
お経である。
どうやら、きちんと禁欲をしているお坊さんもいるらしい。
「この人なら、話をきいてくれるかもな」
小言で、独り言を呟く広大。
障子に手をかけて、ゆっくり開ける。
薄暗い部屋の中。観音様の前に座る小柄な人物は、広大に気づきもせず、お経を唱え続けている。
「……あのー。すいま」
せん。と言う前に、小柄な人物が突然飛び退く。
右に転がり、薙刀を手に持つと、しっかりとした構えをとる小柄な人物。
そして、広大に対してーー。
「何奴!?」
と高い声で、そうつげてきた。
できれば、一ヶ月ごとに更新します。