眠り姫の爪痕(1)
はじめまして、狩月 玄です。
小説を投稿するのは初めてですので、至らない点が多々あると思いますが、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
※注意
この作品には、後々、自傷・虐待・殺人の描写が出てきます。苦手な方は迂回してください。刺激的なものが好きな方には、物足りないかもしれません。
大丈夫、安心してお眠り。
あなたのことは、全部、全部、
___私が守ってあげるから。
目が覚めたとき、自分のいる場所が、一瞬わからなくなる。
これまで、何度となく感じてきた違和だ。
生徒の喋り声が濁って渦巻く教室の、自分の席に突っ伏していた私は、ゆっくりと上体を起こした。ホームルーム五分前から寝ていたはずだが、既にホームルーム終了時から、これまた五分たっている。合計で20分。少しだけ仮眠をとるつもりが、思ったより深く眠ってしまっていたようだ。頭が透き通るようにくらくらして、現実の地面に足が着く感覚を取り戻すまで、いつもよりも幾分か時間が掛かってしまった。夢現の区別______ここが私の“現”であるという実感を、脳内をまさぐって手繰り寄せる。
それまで残っている、違和感。
ここは、自分があるべき場所でない、という違和感。
それが何を意味するか、私はよく知っていた。
腕______肘の内側に目を向ける。白いワイシャツの袖には、少し皺が寄っていた。それだけ確かめると、私は次の授業の用意をしに立ち上がる。
「そーーなっ」
私を呼ぶ声に振り向くと、私の今の親友が、頬を膨らませて立っていた。
「はぁやくっ! 古典の坂上先生、怒ると怖いんだからさー」
私達の通う市立形原高校は、クラス替えがない。文理選択が済んだ二年生の私達は、クラスとは別の《講座》という括りに振り分けられ、その括りごとに授業を受ける。つまり、いちいち教室移動をしなければならないのだ。
「わぁかってるって! ちょっと待ってて、マホ」
私の今の親友は、いわゆるコギャルだ。髪は長くストレートで、靴下やバッグみたいな小物に凝る、少しだけ個性的で、全く個性のない、典型的な女子高生。実際に頬を膨らませる、だなんて、まるで冗談のようなことをしても違和感のないくらい、可愛い女子高生。私はそんな彼女を素敵だと思うし、友達としてとても好きだし、敬意すら抱いている。
「ねえ聞いて聖南」
「何」
私が教科書を取りにロッカーまで歩いていくと、彼女もゆっくりついてくる。
「あたし、古典苦手じゃん? だからさ、今日は全文訳をコピーしてきたんだよね。んでさ、これ」
私の顔を覗き込むように自分の顔を差し出した彼女は、ニヤニヤしながら、私に一枚の紙を渡した。
紙面に眼を落とすと、そこには赤ペンでみっちりと書き込みがしてあった。文法説明や活用形を説明するその文字群は、全てマホの文字だ。ざっと目を通す。
「へぇ」
私もニヤニヤしながらプリントを指で弾き、くるりと向きを変えてマホに返した。
「100点」
「ぃよっし!!! 昨日頑張ったカイあったわー!」
がに股で雄々しくガッツポーズをとるマホを微笑ましく横目で見て、急かす。
「ほら、そろそろ」
「ん、そーね」
廊下を進む歩は緩めず、私は思いだしたように、ふと考える。思い出せない、ということに思いを馳せる。
私の親友は、努力家で、面白くて、見栄っ張りで、不器用で、だからこそ慎重で、ともすれば臆病だ。
今の親友、マホも。
前の親友______トモも、きっと。
一話目は、ほぼ本題に触れずに終わっています。拙い文章ですが、読んで下さった方がいたとしたらありがとうございました。
更新は亀の歩みとなるとは思いますが、こつこつやらせていただきます。