森の中へ(2)
すみません、まだ一連の流れが続きます……
風が出てきた。吹きつける風が頬を撫でる。切り倒した木々を踏みながら見上げた空は曇り始めてきた。
「ったく。随分離されたな」
息を切らしながら秀雄は森の奥を見つめる。既に森に入ってから既に数キロは進んだはずだが、一向に猫耳娘達に追いつける気配がない。
察知の技能の効果範囲には味方はおらず、見知らぬ魔物だけだ。
ゴブリンの狩りに連れて行ってくれるというのならどうして待ってくれないのか。その辺は甘えだと秀雄自身も分かってはいるが、溜息も吐きたくなる。
「まあ猫が待つというのはあんまり考えられないけど」
猫は自由気ままな生き物だ。
待ち伏せならともかく、主人を待つ忠犬というのは良く聞く話だが忠猫というのは聞いたことがない。
主人でもない秀雄を待たないと言うのは当然とも言える。
「アニーに励ましてもらったし、もう少し頑張るか。……風刃!」
風刃は今日使い始めたばかりだが既にレベルが30を超えて37になっている。40にすら手が届きそうな勢いである。
ちなみに初期レベルは1。
他の魔法、技能のレベルの上がり具合を考慮すると尋常ではない。
風刃の最大射程は既に100メートルを超える。
レベルアップによって風刃は一振りで最大37枚までの刃を発生させる。
37枚同時発生を試してみたら自分の腕を動かした方向に一枚、それに重なるように36枚がわずかな数センチ程のわずかな間隔をおいて出現した。
このようにそれぞれの刃に方向性をもたせて発生させることも出来るし、全くランダムに37枚を発生させることも出来る。
腕を振らないで風刃と唱えた時は前後左右上方に37枚の刃が発生したし、前方指定でランダムに刃を37枚発生せる事も出来る。目の前の巨木が細切れになったときには流石に背筋が冷たくなった。
LV:37/100 職業:ニート
経験値:689P
次のレベルまで:6290P
HP:279/279
MP:155/277
SP:200/290
筋力:108
体力:140
早さ:78
賢さ:78
幸運:45
魔力:103
補正:なし
魔法:『髪の毛は友達』L2『明日の本気』『おおきくなーれ』 タイムL7 ポイントL2 ワープ ドロー 風刃L37 加速L11
技能:台バン 床ドンL8 壁ドンL13 壁破壊L4 貧乏ゆすりL11 高速移動L6 自動LVUP(素数)察知L10 跳躍L7
技巧:槍術 魔術
強化ポイント 36
風刃を使っているうちに魔術という技巧が増えた。
魔術:発生速度向上 硬直時間減少
発生速度は魔法を唱えてから魔法が現れるまでの時間の事。硬直時間は魔法を唱えた後に生じる魔法を唱えられない時間の事。分かりにくい。
ザード情報によると、収束、拡散、発散等いろいろあるらしいが。拡散と発散なんて何がどう違うのかすら分からん。
それはともかく風刃を使いながら森の奥へと進んでいく。
途中で見かけた毒々しい色をしたカマキリは風刃で、真っ赤な蜂はトルネードスピアの能力で仕留める。
木々が倒れるので偶然魔物や動物を下敷きにして図らずも倒してしまうことも何回かあった。
死体を回収するのも途中で面倒になったので木の下敷きになった場合は放置し、ようやくアニー達に追いついた。
辺りはゴブリンの血液で汚れていた。だいぶ出遅れてしまったようで、既に生きているゴブリンはいない。首がなかったり、腹から内臓が飛び出ていたり、矢が頭を貫いているゴブリンなら居るのだが。
正直グロい。猫耳娘の前じゃなかったら吐き気を我慢せずに嘔吐していただろう。
「遅いニャー! もう全滅させちゃったニャ! ちょっとは手伝って欲しいニャ!」
「そうは言ってもこれでも急いで来たんだけど」
「まあまあ。ゴブリン達は無事駆除できた事だしいいじゃありませんか」
フェイに宥められたルファはゴブリンの死体を一列に並べている途中だった。
アニーは何やらぶつぶつと集中して詠唱をしているようだ。
本来ゴブリンを依頼で討伐した際は討伐証明部位と言う物を持って帰る必要がある。とザードから聞いていた。
魔法の鞄が普及しているので頭を切り落として魔法の鞄につめて持って帰るのが一般的らしい。
魔法の鞄を持っていない場合は耳でもいいそうだが、頭だと舌、目、歯、脳を利用することができて買い取って貰えるので頭が推奨されている。
「んしょ、運び終わったニャ!」
ドカッとゴブリンの死体を蹴飛ばして胸を張るルファ。
せっせとルファが長いダガーを取り出して頭を切り落としていく。切り落とされた頭をフェイが魔法の鞄に詰める。
全部で53匹。多いのか少ないのかは秀雄には分からないが、フェイ曰くまあまあです、とのことだ。
「詠唱完了。いつでもいい」
アニーはフェイとルファに声を掛ける。ルファとフェイは首のない死体から離れた。
「……火葬」
アニーは手に持った杖で首のない死体の列を指し、一瞬遅れて魔法が発動した。
地面に赤い光が出現したかと思うと光が移動して死体を囲む長方形が出現。図形が完成したのを確認してアニーが空中を指して再度赤い光が出現。
赤い長方形と空中の赤い光で真っ赤な四角錐を形成したかと思うと、内部の空間内に炎が巻き起こる。
10秒も続いた後、魔法が解除され四角錐の存在した場所には灰しか残らなかった。
その灰の中には無傷の物体が5つ残されている。
猫耳娘達がそれを拾った。
「……ん、こっちは『繁殖』、『精力』のオーブです」
「『HP』」
「『筋力』と『体力』だニャ」
五つのオーブを検める猫耳娘達。どうやら基礎能力を上げるオーブが3つ。それから繁殖と精力のオーブ。
ゴブリンは秀雄がプレイしていたゲームでも雑魚として有名だったが、知能が低い事と爆発的繁殖力で有名な魔物だったはずだ。
繁殖と精力のオーブはそれを反映しているのだろう。
「まずまずの戦果ですね。ベーシックオーブ系は私達で使いましょう。『繁殖』のオーブ……は必要ないかもしれないですし、『精力』のオーブをヒデオさんに御譲りします」
コホン、と咳払いをしたフェイはそういって秀雄に精力のオーブを差しだした。アニー、ルファもそれに異論はないようだ。
「え? 俺は何もしてないし悪いよ」
「……っ! いいえ、全く問題ないです。着いてきてくれるだけで有難いんですから」
一瞬フェイが不味いという顔をしたのは気のせいだろうか。目の錯覚だろうか。
「ええ、大丈夫です。むしろヒデオさんに使ってほしいです」
そういってフェイはニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「いいの? アニー、ルファもそれでいいの?」
「むしろ使って」
「どんどん使うべきニャ」
ルファとアニーもコクコクと頷いた。アニーはこっちを見ていないが。
精力のオーブを使った。
補正『精力』を得た! 最大HPが3上がった!
ん? 今一瞬フェイが黒い笑みを浮かべたような……。気のせいか?
「じゃあ私達もオーブを使いましょう。アニーはHP、私は体力、ルファは筋力でいいですか?」
コクンと頷く二人。貴重品の取り合いもないようだ。それぞれオーブを使用する。
「さあ皆。無事『目的』も果たしましたし、巣穴の中身を持ち帰りましょうか」
フェイは晴れ晴れとしている。
そんなにゴブリンを討伐したことでスッキリしたんだろうか。
「了解」
「分かったニャ」
「どうぞヒデオさんもいらっしゃって下さい」
フェイの誘い通り巣穴へと踏み入った。
巣穴の中は暗く狭い。饐えた臭いがする。そういうものだと覚悟しておかないと一瞬でゲロの海に呑まれそうだ。
アニーが光源の魔法を唱える。当たっても痛くはない。光源の魔法は光魔法の初級らしい。迷宮や洞窟を探索をするには必須扱いの魔法だ。
「臭いニャー」
「臭い」
「しょうがないです。……それにしても臭いですね」
「消臭。……最初から使うべきだった」
アニーが魔法を唱える。少しは臭うが大分マシになった感じだ。
察知の技能を使って巣穴の様子を窺う。
ゴブリンは一匹残らず殺し尽くしているようだ。
生命反応はない。
ゴブリンの事だから女を拉致して暴行くらいはしていると思ったがそういう事はないようだ。
もし痕跡があったとしても死んでいるのだろう。
巣穴の奥に辿り着く。幾つかの横道が有ったが、たいしたものはなかった。
奥の部屋にも見るべきものはない。女性の死体があるかと内心ビクビクしていたが、一安心だ。
「良かった。何もなくて」
フェイが胸を撫でおろした。
「油断大敵」
そういうアニーもどこか緊張が薄らいでいる。
せいぜい何かの骨が転がっている程度だ。何だったのかは気にしちゃいけない類の問題だろう。
「じゃあさっさと帰りましょう。もうここには用がありませ……」
「待つニャ」
ルファがそういうと、部屋の奥に落ちていた指輪を拾い上げた。
「『反応』があるニャ。鑑定しないと分からにゃいけど」
ルファが片目を閉じて金色の目で銀色の指輪を見つめた。
その指輪は特に特徴もない古ぼけた指輪だ。
「『反応』ですか」
「見逃せない」
「『反応』?」
「んー、この指輪もしかしたらマジックアイテムかニャ? 持って帰るべきニャ。ルファが貰っていいかニャー?」
他の二人は訳知り顔でルファの言葉を聞いた。流されてしまったが、ルファの金色の目が魔眼だったりするんだろうか。まさかね。
「勿論。ルファがいなければ見逃していましたし」
「当然」
コクンとルファは頷いた。
「ヒデオにも教えておくけどルファの目は魔力を追えるニャ。この指輪も微かな魔力を持っているニャ。後この話は内緒ニャ」
魔眼かよ。
こういうのはあんまり言いふらす類の物ではないな。
「分かった。口が裂けても言わない」
「十分ニャ。引き留めて悪かったニャ。じゃあさっさと帰るニャ!」
ザルーンの街へと戻る。ギルドでゴブリンの頭を引き取ってもらう。ちなみにオーブはしっかりルファが調査している。オーブが生成されると魔力の流れが変わるのでそういう場合はルファが割る。ぐちゃぐちゃになった脳味噌はグロ注意だ。遠慮せずルファは手を突っ込み、オーブを3つ手に入れていた。全部HPのオーブなのだそうだ。ちなみにルファが全部使って他の二人から怒られた。
その後、三人からは森の事で口々に非常識と言われた。どうやら森にあんな『道』を作ってしまった事を言っているらしい。
「過ぎた事は仕方ないですが。それにしてもどうやったんですか。あんな力技」
ヒデオが三人に追いつく為に作った道。それは大量の伐採の跡だった。
「早速ギルド内で噂になってますよ? まあ帰るのは楽でしたけど」
「えっと。風刃の魔法を使ってたらああなってしまいました……」
こういうのは早めに白状した方がいい。詳細を彼女達に話す。
アニーは絶句。ルファはケラケラ笑っていた。フェイは呆然として、すぐにハッと我に返った。
「いいですかヒデオさん。風刃という魔法は、確かに風の刃を作ります。でもですね」
フェイは溜息をついてどうしましょうと掌を頬に当てた。
「作り出すのは武器に、です。剣だったら刃。槍だったら穂先。矢だったら鏃に纏わせる魔法です。風の刃を『飛ばす』だなんて……」
「非常識」
アニーが引き継いだ。
「そんな魔法だったらそもそも風狼が初心者卒業のレベルのわけない。風狼は爪に纏わせる。飛ばしたりなんかしない」
風魔法ってそういうものじゃないんですか? 某RPGではそういう扱いでしたよ!
「とにかく! ヒデオさんは絶対に黙っていて下さい。依頼も受けていないのでバレようがないですし。少なくとも今のうちは」
「今日の夕飯もご招待しようと思ったんですが、ちょっと予定を変えなくちゃいけないですね。アニー、ルファ。帰りましょう。作戦会議です」
はぁ、とフェイが溜息を吐いた。
「確かにちょっと危険ニャ。これは」
「良い事だけど、悪い事」
嫌われたのかと肩を落としたが、アニーはぽんぽんと肩を叩いて気を落とさないことと声をかけ、前の二人の後を追った。
少なくともアニーには嫌われていないようで、秀雄は少しだけ安心した。
「しかし参ったな。便利なんだけど」
ザードの所に寄って蜘蛛、猪、兎の死体を処理してもらう。前回遺跡に行ったときの残りだ。一度に渡さないのは袋の無限性に疑念を持たれない為だ。
素材を買い取って貰っても良かったのだが、素材の剥ぎ方なんて知らないし、だったら丸ごとギルドマスターに食べてもらった方が手っ取り早い。
オーブのあるなしは秀雄自身調査しているが。
それも今度からはルファにお願いしてもいいかもしれない。
「おお。今回もありがとう。着実に腕を上げているね」
ドラゴンの姿でボリボリと死体を貪る。
「蜘蛛は美味しいけどちょっと大きいね。あ、オーブ見つけた。探すの下手だね」
ペッと吐き出したそれを拾うと素早さのオーブだ。いつも有難うございます。
「ベーシック系オーブだね。持っていくといい。スキル系、マジック系と違って無理して強盗を考えるレベルのアイテムじゃないし、持っていてもそこそこ安全だと思う。売れば1万Gくらいにはなるんじゃない?」
「でも……こんな貴重品」
「いいよいいよ。だって僕魔物を食うと強くなる補正があるし」
何!? そんなの初耳だぞ!
「びっくりした顔をしているけど、龍族は皆そうだよ。魔物を食って強くなるのはデフォルトさ。兎を100匹食えば素早さ+1、ゴブリンを100匹食えばHP+1って感じで」
それが倍率がいいのかどうか分からないが、とにかく持ち込む度にザードは強くなるらしい。買い取り依頼を出していない魔物まで処理してくれるようになったのはそのせいか。
「だから僕は秀雄に感謝しているのさ。これからもよろしく頼むよ。なんならオーブを少しやろうか? クララ」
いつも代金を渡してくれるちびっこが頷くと三階のギルドマスターの部屋に行くとしばらくして戻ってくる。
「ん」
それからちびっ子が代金5000Gと『治癒』のオーブを握らせる。
「ふっ。それは僕からの気持だ。君にはまだまだ頑張ってもらわないと困るしね。あ、そっちのオーブは今使った方がいいよ」
とにかくこれで総資産は現金で100万Gを超えた。正確には100万7665G。冒険者の財産としては少ないらしいが良い防具、アイテムを購入してもいい。
それで何を買うかだな。
ふらふらと夕暮れの街を歩きだした。
ギルドでドローをしているので制限時間が過ぎるまで道行く人に試すことは何もない。治癒の魔法も覚えたし、割と順調である。カードはアニーから火矢を三枚、ギルドの魔法使いから氷刃を一枚。
屋台を冷やかしてリンゴのような果物を一つもらう。跳躍して屋根の上に登り、一人でリンゴを齧りながら街を見下ろした。
「確かあっちが獣人街。あっちは市場。それからあっちが夜の街。俺も30だし、そろそろDTを捨ててもいいか」
次なる冒険に踏み出すべきではないか。ニートだけどお金稼いでいるしね!
地面に降りると屋台の良い匂いが鼻を刺激する。肉の焼ける音が耳を惹きつける。率直に言って腹が減っては戦も出来ないしね! 仕方ないね!
「おっさん、串焼きを3つくれ」
「あいよ!」
屋台のおっさんは肉串を3つ炙りだした。脂が光って眩しいぜ。ん?
ボロボロの服を着て痩せ細った獣人の少年が両手を鎖に繋がれていた。それが商人と思しき男性に引かれてとぼとぼと後ろを歩いていく。
「おっさん。アレ何?」
少年と商人を指さす。チラッと視線を向けたおっさんは淀みなく奴隷だよ、と答えた。
「へぇ」
興味深げに見ていると、おっさんが串焼きを完成させたようだ。
「出来たぜ。……奴隷に興味があるならこのまま北に進みな。兄ちゃん冒険者みたいだし、奴隷でも揃える気か?」
「そうだねぇ」
串焼きを三本受け取り、街を歩く。奴隷か、夜の街か。
夜の街で綺麗なお姉さんに相手をしてもらうのも吝かではないが、今は奴隷を見てみたい気分だ。自然と足を北へと向けた。
北側の区域に足を踏み入れたのは始めてだ。足を踏み入れなくても十分生活出来たしね。
おっさんからの話によると、スラム街と奴隷市場は丁度境目にある。スラム街から身売りしてくる人もいるらしい。食うに困ってという奴だな。
奴隷というものは金持ちの持ち物であるからスラム街と隣接しているというのは嫌がられると思うのだが、そうでもないらしい。
臭いものは纏めておけというのがこの世界の方針のようだ。
串焼きを一本食べきり、残りの二本は袋の中に突っ込んだ。食べ歩きをしていて当たり屋に因縁をつけられては堪らないからな。
扱っている奴隷は筋骨隆々の男性から線が細く肌が黒い女性、それから年端もいかない少年少女と多種多様だ。気持ち亜人の奴隷が多い気がするが。
物見遊山のつもりで並べられている商品を見ながら歩く。
暇そうにしている奴隷商のおっさんに10G握らせて話を聞くと、この辺は一山幾らの奴隷が専門らしい。路上で扱っている奴隷は皆その区分のようだ。
エルフや物凄いレアな亜人、優秀な技能持ち、超絶美男美女は商館という立派な建物で扱っているという話だ。
そういうと奴隷商のおっさんはちょっと商品でも見ていくかい? と紹介していった。
三人の奴隷が並ぶ。男、男、男。いや、厳ついおっさんは要りませんからと断って逃げ出した。
次に話かけた奴隷商のおっさんは頭のお友達が残念な感じになっていた。
商品を見せてもらう。さっきのおっさんは男ばかりだったが、こっちは女ばかりだ。
そうこなくっちゃね!
分かってるだろう? といわんばかりの顔でおっさんがこっちを見てウインクした。それはしなくていい。
並べられた女性は左からカールした赤髪で背の高い女性。肌は褐色で切れ長の目だ。扇情的な唇に、大きなバスト。腰は引き締まっていて、大人の女性という感じだ。
真中は色白で黒髪の女性。髪を後ろで縛っている。胸は普通。なんで路上に居るのに色白なのかとおっさんに聞いたら入荷したてらしい。潰れた商会のお嬢様だったそうだ。今は見る影もないな。
右の子はちっちゃい獣人だ。ぺちゃっと垂れている犬耳。目は死んでいる。肌も服も一番汚れている。おっさんに聞いてみると両親は共に奴隷で12歳になったから売りに出されたそうだ。
おっさんの耳打ちによると左から非処女、処女、処女、分かってますよ旦那とウインクした。だからそれはしなくていい。
「御値段は左から5万、10万、1万Gとなっております。如何いたしますか?」
どれも手が出せるな。1万Gは大体100万円位の価値だ。財産は100万Gなのでどの女の子でも買える。
しかし、まだ秀雄には秘策があった。
「んー、ちょっと高いな……」
「おや。お気に召しませんでしたか? だったらもう少しランクを下げて……」
「いや、欲しい子は居るんだけどね」
「そうですか。それはそれは。しかしこっちも商売ですので勉強するわけにはいきませんからな。これでもギリギリの値段設定をしているので」
踏んだくれると踏んだのだろう。おっさんは強気の姿勢で答えた。
「そこで提案があるのですが」
「提案? ですか。まあ聞くだけならタダですしお聞きしましょう」
ごにょごにょ。
「そ、それは」
ごにょごにょ。
「……なるほど。わかりました。それならタダで結構です。その代わり……そっちの件もお願いしますよ? ユマ! 良かったな、買い手が付いたぞ! おい、整えておけ」
手近の部下に指令を出すおっさん。ハッと顔を上げた犬耳娘。ユマというのか。
そしておっさんは頭をこっちに向けて頼む、とお辞儀した。
別にお辞儀したのはお礼をする為ではない。いや、後でお礼をしてもらうかもしれないが。
おっさんの頭に触れるか否か程度に手を翳す。脂っぽいなぁもう。あんまり触りたくないのは確かだ。
『髪の毛は友達』の魔法を唱える。おっさんの髪はみるみる元気を取り戻していった。
育毛剤を鼻で笑える位おっさんの髪の毛がふさふさになっていく。明らかにカツラをしたのかどうか疑うレベルで髪が増えていた。
地肌が見えていたおっさんの頭は次第に髪の毛が増え、今や髪で肌が見えない程になっている。ふさふさとは言えないが、禿ともいえないレベルだろう。
「こんなものでどうでしょう」
おっさんは頭に手を当てると、おお! と驚愕の表情を浮かべた。
「髪が、ある! 夢にまで見た髪がある! 鏡を見ずとも、肌触りでわかる!」
おい、これを見てみろ、と手近の部下に話しかける。部下の頷きを確認すると隣の奴隷商にも自慢しに行った。どんだけ嬉しいんだよって感じだな。
「これで妻にも妾にもネタにされずに済む! ああ、1万じゃむしろ安いんじゃないのかね!?」
「まあ特殊な魔法なので安いっちゃ安いですが。ギブアンドテイク。これでいいでしょう?」
そういって俺はニッコリ笑った。向こうが得を感じるくらいで丁度いい。何しろ100秒で1万G=100万円の価値を創造したのだ。1秒1万円。ボロ過ぎて笑いを堪えるのに必死なくらいだ。これがふさふさな商人だったら通じなかっただけに運が良かったと言えるだろう。そして宣伝効果で。……デュフフフフ。
「うむ! ではユマ! こっちに来い! 契約を結ぶ」
目が死んでいる犬耳の女の子、ユマがこっちに歩いてくる。手錠と足枷は外され、首輪だけが残っている。
そういっておっさんはユマの手を取った。
「今これより奴隷と主人の契約を成す」
俺とユマの手を重ねると、そこに黄色い光が現れた。
「これで契約はなった。契約ボーナスも入ったはずだからステータスを確認しておくと良いであろう」
こうして俺は初めての奴隷を手に入れる事になったのである。
秀雄L37
※アニー L12 黒い
※フェイ L12 白い でも性格は… 何か画策している模様
※ルファ L12 魔力を見る魔眼持ち
※ユマ 犬族 なんかレイプ目