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三人目の猫耳

「ええっと、そんなに警戒しなくても」

 地味にショックを受けている秀雄はブルブルと震える少女に声を掛けた。

 金色と銀色のオッドアイ。そして灰色の髪と猫耳。

 両目の色が違うというのは地球の猫でもいると聞く。 

「わあああん! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいなんだニャー!」

 とりあえずとりつく島もないので、秀雄はごそごそと無限の袋を漁った。

 パニックを起こしている猫耳少女……黒いのと白いのに聞いた名前は確か、ルファだったはず。

「ルファだっけ? これ食う?」

 袋の中は時間による劣化がない。それを利用して屋台で買ってきた物を後で食べようと考えていたのだが、仕方ない。

 秀雄はずいっとほかほかの魚の塩焼きを差しだした。

 

 それからの反応は劇的だった。

 ルファは目を輝かせて奪うように魚を受け取り、猛烈な勢いでガツガツと魚を貪り、骨ごと咀嚼して残ったのは魚を刺した串だけだったという有り様だった。

「ご馳走様でしたニャ! ところで何でルファの名前を知っているニャ?」

「さっきアニーとフェイと会って君の事を知ったんだ。もし良かったらそこまで案内するけど、ついてくる?」

 コクコクと頷くルファ。

「おっちゃん名前なんて言うニャ?」

 おっちゃん……。地味に傷ついた秀雄だった。


 それから二人でアニーとフェイの隠れている場所へと向かうことにした。

 それはともかくルファがお腹が減って辛いにゃーとの事なので魚をあげた。

 この遺跡で仕留めたピラニアモドキだ。ザード情報によると毒はない。

 ルファから少しずつ事情を聞き出していく。

 秀雄の察知に引っかからずに尾行出来たことと秀雄を尾行した理由。

 ピラニアをプレゼントしたお返しに教えてくれるそうだ。

 ルファやその他の獣人は生まれつき潜伏の技能を持っているらしく、それのレベルが高いと察知の技能で見つけられないらしい。

 つまり見つけられなかった理由は、ルファの潜伏はレベル9で、秀雄の察知のレベルを上回っているからなのだそうだ。

「川魚は生で食べると危険だニャ。理由は忘れたニャ」

 確か寄生虫を殺さないといけないんじゃなかったか。

 いつの間にやらルファはピラニアをあっという間に捌いて内臓を摘出。しばし見つめた後その辺にぽいっと捨てた。

「勿体無いけど内臓は食べない方がいいニャ」

 湧き出る噴水の水で魚をさっと洗い、良くわからない物体を袋から出すと火を熾してピラニアを串に刺して炙っていた。どうやら火を熾す魔導具のようだ。ファンタジー版コンロか。

 炙りながら秀雄を追っかけた理由を話し出した。

「んー、ルファは風狼に追われて隠れたんだけど、隠れていたら風狼を殺してくれた人がいるニャ」

 それはわかる。何故なら実行犯は秀雄だからだ。

「出て行こうとしたらいきなり狼を槍でグサグサ刺し始めたニャ。ちょっと引いたニャ」

 あれがいけなかったのか。

 あれはオーブを探す必要な行為だったのだが。秀雄はちょっと眉根を寄せた。

「出ていくタイミングは逃したけど、ヒデオが通った後は魔物がいなくて楽ちんだったニャ。とりあえず見つからないようについていけば戦闘ゼロで済んだニャ。遠くから見ると壁や床を何度も思いっきり叩いたり壁を貫いたりして狂人っぽかったけど普通の人みたいで良かったニャー」

 壁ドンや床ドンでビビらせていたのか。

 しかし狂人とは酷い言われようだ、と秀雄は落ち込んだ。



「塩がなくても美味しいニャ。むしろ素材の味がわかるニャ」

 ルファはピラニアも平らげた。

 ご機嫌である。最初の頃の怯えっぷりはなんだったのか。

 流石にお腹が減ったとは言わなくなったので、道中現れた魔物を狩りながら無限の袋に放り込む。

「その袋便利ニャ。ルファのはそんなに入らないニャ。入って五匹くらいかニャ? ルファも欲しいニャー。どこで売ってるニャ?」

 どうやら魔法の袋は沢山あるようだ。

 それに尾行された時点でバレれているので袋のことを秀雄は隠す気がなかった。

「わからん。どっかの大都市なら売ってるんじゃないか? これは貰った奴だし。それから沢山入るってことは内緒ね。内緒にしてくれるならイノシシ肉で焼き肉するとき呼ぶから」

 むしろ猫耳少女と焼き肉をする為の口実である。

 ルファは耳をピーンとたてて万歳した。

「ホントにゃ?」

「ホントホント」

「じゃあイノシシに免じて黙ってるニャ。でもやっぱりいっぱい入る袋は羨ましいニャー。まあヴェルマーのオークションならありそうなアーティファクトな気がするニャ。迷宮都市に潜ればあるかニャー?」

 ヴェルマーのオークション。アーティファクト。迷宮都市。

 異世界に来て一か月は経つが耳慣れない言葉を三つも聞いた。

 何から聞こう。むしろ聞いてもいいのか。こっちの世界では常識的な事だったりすんじゃなかろうか。

 秀雄は迷った。まあイノシシ肉で焼き肉する言質取ったし、その時にでも聞けばいいか。質問ばかりするのも問題あるし、ヴェルマーのオークションについてだけ聞いてみることにした。

「ヴェルマーのオークションって初めて聞いたけど。何?」

「ん? 秀雄は随分田舎から来たんだニャー? ルファでも知っているのに。まあいいニャ。ヴェルマーっていうのは王都ヴェルマーっていうのは勿論知っているはずニャ? 実は! ヴェルマーではオークションというのがあるにゃ!」

 むしろオークションは知っている。この世界に来る前はネットオークションには随分秀雄はお世話になっていた。

 オークションの制度も地球とそんなに代わりはないだろう。

「オークションっていうのは出品されたレアアイテムを皆で値段をつけていって、一番高い値段をつけた人が買えるシステムなんだニャ。いろんな会場があるはずだからヒデオの欲しいものもきっとあるニャ」

「王都のオークションか……。オークション……。デュフフフ」

「ヒデオ……その笑い方気持ち悪いニャ」

 嫌そうな表情のルファ。

「おっと失礼。大変為になったよ。それじゃアニーとフェイの所に行くとしよう」




 ●三人娘




 アニーとフェイの隠れている場所に無事ルファを送り届けた。

 アニーはルファに抱きつき、フェイは秀雄に何度も頭を下げた。秀雄も猫耳娘に感謝されて気持ちが良い。

「すみませんヒデオさん。風狼を倒してもらった上にルファまで連れてきてもらうなんて……」

 フェイがしきりに感謝してくるので、もういいよと秀雄は手をぶんぶん振った。

「いいからいいから。それより今日はこれからどうするの? もうそろそろ夜になるけど」

 秀雄も調子に乗って狩り過ぎたせいか、夕方には切り上げて帰る予定だったがどうもそうはならないようだ。

 フェイは困り顔で思案した。

「そうですね。私達三人は夜目が利きますが、秀雄さんはそうではない。それに夜の魔物は私達三人には厳しい。ここは私達のパーティーと朝まで過ごすということでどうでしょう?」

 なん……だと……!

「つまり君達と今日はここで過ごすってこと?」

「まあそうなりますね。ヒデオさんが嫌じゃなければですが。人族の中には私達の事を獣臭いと嫌がる人もいますし」

 猫耳娘三人と一晩明かすってそれなんてご褒美なの! ねえねえ! という心の声を聞いた秀雄には一瞬の迷いすらなく即答した。

 漏れそうな笑いをかみ殺し、冷静を装いながら。ブヒヒとかデュフフフとか言って折角の話を台無しにしないよう慎重に。

「それはこっちも好都合です。一人で夜を越さないといけないかと途方に暮れていました」

 秀雄は無限の袋の中からピラニアを12匹出した。

「俺捌けないんですけど、この中で料理出来る人います?」

 チラッとルファを見たら目を輝かせてはい! はい! と手を挙げていた。


 火を熾すのはアニーの担当だ。枯れ枝を集めて火の魔法を唱える。人差し指から火が出たかと思うと、枝をパチパチと燃やし始めた。

 魔法便利だな。ガス要らずだ。ルファがコンロを持っているのが謎になってしまったが、秀雄は細かいことは気にしないことにした。

 ルファはさっさと12匹のピラニアをあっという間に捌いて串を突き刺した。串はルファが鞄の中に常備している奴らしい。塩は秀雄が購入していた分をわけた。

「そんな……塩があったらさっきも出して欲しかったニャ……」

 若干一名落ち込んでいるようだが、気にしてはいけない。

 後は焼き肉が出来れば文句はないのだが、秀雄の持っている肉類は血抜きがしていない。この場で血をまき散らせば、出血した獲物が落ちた時のピラニアよろしく魔物が群がってしまうかもしれないので断念した。

 無限の袋からボトルに入った水を四人分取りだした。これも配った。

 焼き上がったピラニアを塩をまぶして頂く。

 旨い。

 脂の乗り具合や食感は日本で食べた中で例えると鯛が一番近い。さっぱりとしている。

 あっという間に全員が3匹を平らげてしまった。

「お腹一杯だニャー」

 ルファはコテンと横になった。

「太るよ」

「酷いにゃアニー!」

 容赦のない一言にルファがじたばたと暴れた。

 そもそもここに来る前に魚二匹食べさせてきたから他の二人よりカロリー過多ではある。


 見張りの番は三人娘が狩って出てくれた。どうやら秀雄はアニーのポーションやらなんやらでお客様待遇である。夜目が利かないし、建物の中で焚き火をするわけにもいかない。

 秀雄は有難くその申し出を受けて寝ることにした。







 明朝。

 寝苦しさを感じて秀雄は目を覚ました。

 秀雄の腹を枕にした猫耳少女ルファがスースーと寝息を立てている。

 起こすか、起こさざるか。

 それが問題である。

 結局秀雄は至福の時間を過ごさせてもらうことにした。

 良く考えたら何も悩む必要はなかったのである。

 何だか知らないが、ルファに懐かれてしまったようだ。

 手を伸ばして灰色の耳を撫でた。

 これが……猫耳!

 猫耳少女の猫耳!

 ネコミミ!

 NEKOMIMI!

 なんだこのぷにぷに感……!

 我を忘れて撫で続けたいこの毛並みの良さ……!

 この感動を生涯忘れたりはしないだろう……!

 秀雄は涙を拭った。

 神様……感動を……ありがとう!

 秀雄が目頭を熱くする中、ふと視線を感じて横を見た。

 アニーがジーッと秀雄を凝視していた。

 だらだらと冷や汗が流れるのを感じた。

「お、おはよう?」

 秀雄の決死の挨拶は。

 

 ぷいっ


 アニーは顔を背けて隣のフェイの胸目掛けてぼふっと飛び込んだ。

「むーっ」

 アニーは足をじたばたさせた。

 尻尾も上に行ったり下にいったり心なしかじたばたしているようだ。 


 それからルファが朝だニャ! と起きるまでしばらく変な空気が充満していた。






 朝食は昨日と同じく、ピラニアを食べることになった。しかし昨日ピラニアのストックは尽きているからこれから狩りだ。

 それから、

「兎ニャー!」

「兎!」

 ルファとアニーが袋から取り出した角兎を見てバンザイした。どうしようこの子達かわいい。秀雄はニヤニヤを抑える事ができなかった。

 兎なら昨日遺跡に来る前に50匹狩ってきたので売るほどある。ルファが捌けるというのでそのうちの1匹を朝食に提供することにした。

 血抜きはしていないが、今なら魔物が寄ってきても問題ない。寄ってきた分だけ始末すればいい。

「蜘蛛にゃー……」

「蜘蛛……」

 ルファとアニーは次に取りだした獲物を見た瞬間あからさまに元気を失いがっかりした。

「ちょっと! 蜘蛛は高級食材ですからね!」

 フェイがフォローしたが、二人はげんなりしたままだ。確かに見た目はグロテスクであることは否定できない。

 しかし地球でもタランチュラを食べたりする国があると聞くが。

「フェイが食べたいなんて言うからだにゃ……」

 覇気を失った尻尾をふりふりしながらルファが呟いた。

「もうっ! じゃあ蜘蛛はなしでいいですっ!」

 フェイが膨れてしまった。

 代わりにアニーとルファが元気を取り戻した。

「兎の解体ならルファに任せるニャ! 大得意ニャ!」

 ルファの解体技能のレベルは9で、超一流のプロ並みの腕だということだ。

 シュッと兎を逆さに持つとナイフで首を裂く。ドバドバと血抜きを始める。

「しかしまだ兎の体温が残っているニャ。これなら肉が固くなってないし皮を剥がせるから楽ニャー」

 兎の方は三人に任せる事にして秀雄はピラニアを狩る事にした。

 水場に行って兎の血を撒く。ポーションの空瓶に詰めてきたものだ。これでピラニアが反応するはず。

 秀雄の狙い通り、ピラニアの入れ食いである。スピアで突き、絶命すると同時に袋に入れる。突く。突く。突く。突く。突く。突く。

 何度も突いているうちについにピラニアの気配がなくなったので三人の所に戻る。

 結果は22匹。4で割れないが、仕方ない。レベルも上がってホクホクである。

「うわぁ! すごいです!」

 驚いたのはフェイだ。目を輝かせていた。

「ヒデオ、兎の処理は終わったニャ! 魚が焼ける頃にはフェイが作っている鍋も食べられるニャー!」


 秀雄たちは兎鍋に舌鼓を打ち、ピラニアをいただき、適当に狩りをした後街へと引き返すのだった。

秀雄L29 

※アニーL10 黒 魔法使い 無口 ツルペタ 潜伏L3

※フェイL11 白 弓使い おっぱい! 料理L4 潜伏L4

※ルファL10 灰 剣士 オッドアイ(金,銀) 解体L9 潜伏L9 ニャー



なんかルファの出番が多い気がするけどきっと気のせい!

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