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ギルドマスターと出会う

読んでいただいてありがとうございます。

冒険者ギルド。

 くどいようだが、採集、狩猟、討伐、調査、さまざまな形の依頼が集まる場所だ。集まる人間も癖が強い人間が多い。

 たとえば顔に十字傷を持つ剣士、巨大な斧を床に寝かせる禿頭。

 ヴァイオリンを奏でる金髪の優男、フルートを吹く緑髪のエルフ(耳がツンと長いから多分そうだ)。

 それはまあ我慢できる。酒場も併設している24時間営業だと宿屋のおっさんが言ってたし、それはわかった。

「なんで、ドラゴンが冒険者ギルドのど真ん中にいるんだよ……」

 ドラゴンが存在するのはわかる。ファンタジーだから。

 冒険者ギルドが存在するのはわかる。ファンタジーだから。

 しかし冒険者ギルドの中央テーブルでドラゴンにいるのはこっちでは普通なのか?

 秀雄は首をかしげた。

「おう、若いの。ドラゴンにびびってんのか?」

 秀雄が振り返ると白髪の多いじいさんがどうだ?といわんばかりにニヤニヤしていた。

「……ちょっと幻が見えているみたいで」

「クク、そりゃ坊主の見間違いじゃねえよ。見るのは初めてか? あれはウインドドラゴン。ここのギルドのギルドマスターさ」

 なんだと。秀雄は耳を疑った。

「え? ドラゴンが?」

「ああ。普通じゃありえないんだが、先代のギルドマスターが拾ってきたドラゴンの幼生があれだ。どうだ、すげえだろ」

 すごいどころじゃない。秀雄は見上げるようにしてドラゴンを観察した。

 ドラゴンは体長5メートルほど。銀色の鱗をびっしり生やし、翼は折りたたんではいるが、相当の分厚さと面積があることが簡単にわかる。

「酒好きでたまにああして人化の術が解けてドラゴンになっちゃいるが普段は温和な好青年よ。不思議なことにあれで人死には未だに出ていないんだ。たまーに店の備品破壊してナーサの姐さんに怒られちゃいるが、まあ立派なもんさ。ザルーン冒険者ギルドの名物をよーく拝んでおくんだな」

 そういい残してじいさんは酒を貰いにカウンターに向かった。

 度肝を抜かれてしまった秀雄はしばらく立ち尽くした後、用事を思い出してギルド側のカウンターにある受付のお姉さんに話しかけた。なかなかの美女である。二つの山は小ぶりだが、スレンダー系というやつだろうか。それに異国情緒あふれる羽飾りを髪に挿していた。

「こんにちは。当ギルドに御用でしょうか?」

「……あの。冒険者の登録をしたいんです」

 おどおどしながら秀雄が受付のお姉さんに用件を告げた。

「ああ。なるほど。それなら所定の用紙に必要事項を記入してくれればすぐに終わりますよ。字は書けますか? 書けないならば私が代筆致しますが」

 理由は不明だがこっちの話す言葉はわかる。しかし文字までわかるとは限らない。秀雄は素早く判断した。

「お願いできますか? 俺、字がかけなくて」

「いえいえ。そういう方は結構おりますよ。ではまずお名前から」


 三十分後。

 やっとギルドメンバーズカードを発行してもらった。

 ダンジョンに入ったときは助け合う。等の基本的な事柄からギルド細則といった冊子を読み上げられたときには参った。本来なら少しだけ諸注意をして開放されるのだが、あまりに秀雄が熱心に耳を傾けるので少々調子にのってしまったらしい。ごめんなさい、と顔を真っ赤にして謝罪されたので別に気にはならない。むしろ美人と長話できて得したなとしか秀雄は思っていなかった。


 ギルドメンバーズカードを発行してもらったので、買取カウンターに行く。先ほどの説明によると、カードを発行してもらっていない人間からの買取は断っているようだ。先にカードを発行してもらってよかったと受付の傍に書かれている[高額買取]の欄を記憶する。どうやらこっちの文字は日本語ではないが、上に日本語でルビが振ってあるかのように読めるのでちゃんと理解できる。書けと言われると怪しいが。メモ帳があるならいいのだが、ここにはそんな便利なものはない。

 秀雄はひとつずつ丁寧に確認した。

 角兎(秀雄が討伐した兎。特徴と出現区域が一致したので判明した)は一匹60Gらしい。兎と確定したしやはり一羽と数えるべきなのか。でも魔物だしなんでもいいか、と秀雄は深く気にしないことにした。

 そこで秀雄は買い取ってもらおうと無限の袋から角兎を取り出そうとして、ふと気になることがあり踏みとどまった。

 見られている。

 じーっと。

 それは当然だ。

 秀雄は新入りなのだから。

 秀雄がオンラインゲームでギルドマスターをしていたときでさえ、自身や信頼できるメンバーで観察するのは日常茶飯事だったのだ。ここでもそうあって当然だ。

 兎を売るには別に袋を用意する必要がありそうだ。

 無限の袋の存在は秘匿しなくてはいけない。

 そう結論付けた秀雄は踵を返して狩に出かけることにした。

 獲物はいつものように角兎。そして少しづつ袋から兎を取り出して水増しして売ればいい。

 

 LV:11/100 職業:ニート

 経験値:15P

 次のレベルまで:345P

 HP:35/47

 MP:36/56

 SP:55/55

 筋力:23

 体力:29

 早さ:10

 賢さ:10

 幸運:6

 魔力:19


 補正:軽肥満 

 魔法:『髪の毛は友達』 タイム

 技能:台バン 床ドン 壁ドン 貧乏ゆすりL2 高速移動 自動LVUP(素数)


 強化ポイント10


 五匹兎を狩った。ちなみにタイムの魔法は相手を動けなくする魔法だ。これは便利なのだが、一瞬使っただけでMPを20消費した。

 秀雄は改めてタイムの説明文を見ると、


 タイム

 MPを10支払う毎に、対象の相手を1秒動けなくする


 という魔法だったようだ。

 この世界の魔法や技能には習熟度という概念があるのが貧乏ゆすりのレベルアップから判明したので、秀雄は他のスキルも一応鍛えることにした。

「まあ何が何処で役に立つかわからないし」

 といっても技能は貧乏ゆすりと高速移動以外鍛えようがない。草原にあるのは大地と草。壁や台は存在しないし、大地は床とは言わない。

 仕方ないので秀雄はその場の岩に座り込んで貧乏ゆすりを一心不乱に繰り返した。傍から見ればただの狂人である。

 夕方まで貧乏ゆすりを練習した後、ギルドで兎を水増ししながら売り払った。2週間袋に放り込んでおいたにも関わらず買ったばかりの兎と同じ値段で買い取ってもらえた。腐っても角や骨くらい残るか、と思って放り込んでおいたのだが、肉なども劣化しないらしい。無限の袋は実に便利だ。



●ギルド加入後2週間経過



 秀雄は思った。そろそろ一ヶ月経つ。

 なのにこのまま兎狩りに精を出していていいものか? と。少しは疑問に思う。

 一ヶ月お菓子とコーラを絶って狩りに継ぐ狩りと健康的な生活を繰り返していたせいか、顔の油が徐々に引いてきている。

 最近体型が変わりましたな、と宿屋のおっさんに声をかけられた。

 宿を借りてそろそろ30日。暦は一月30日。それが12ヶ月で一年は360日だ。一日は24時間だから、地球とそんなに大差のある一年ではない。ちなみに閏月や閏年はないらしい。

  LV:13/100 職業:ニート

 経験値:65P

 次のレベルまで:523P

 HP:35/60

 MP:36/73

 SP:55/66

 筋力:28

 体力:34

 早さ:15

 賢さ:15

 幸運:7

 魔力:23


 補正:軽肥満 

 魔法:『髪の毛は友達』 タイム

 技能:台バン 床ドン 壁ドン 貧乏ゆすりL5 高速移動 自動LVUP(素数)


 強化ポイント12


 レベル12にあがるまで兎を狩り続けて大変苦労した。一日15匹のペースでソロ(一人)狩りである。その甲斐あってレベル12の壁を突破。レベル12は素数じゃないのでピンピロリン♪とすぐレベル13になった。レベル14になったらすぐにレベル17だ。兎の経験値は4だからこのままだと130匹ほど狩らないといけない。少し足を伸ばすと兎や蟻以外にもコウモリや狼や猪の魔物も出てくるらしい。ゆくゆくはそっちでレベルアップを狙うのも手かもしれない。


 ちなみに兎を狩り続けたおかげで一日あたり15匹狩って900Gを得ているせいで経費を差し引くと800G溜まることになる。それが2週間だから11000G溜まった。それから前に狩った兎の亡骸も徐々に売りさばいているので現在は12000Gの現金が手元にある。

「武器や防具を買うか。1Gは大体100円程度の価値があるようだし、そんなに高くない武器だったら買えるだろ。剣もぼろぼろだし、槍でも買うかな」

 そろそろ兎狩りからは卒業したいところだ。できれば狼なんか狩りたい。それに冒険者ギルドに登録しているのに、まったく依頼を受けていないのも問題だった。しかし切羽詰まっていないせいか、秀雄はもう少ししたら、と先延ばししている。


 ギルドの扉を潜る。ドラゴンが絶対君主として統制しているせいか、新入りいびりはないようだ。あくまで同格以上の相手とのみ因縁をつけても良いとのギルドマスターのお達しである。

 絡むことは相手を同等以上とみなすことになるので下手にこっちに絡んでくるギルドメンバーがいないのはありがたい。まあドラゴンのギルドマスターは例外だが。

「おお、『兎狩り』じゃないか。今日も狩ったな。こいつは焼いても煮てもうまいんだよ。あ、もちろん一番の好物は劣化していない血だけれども」

 ギルドマスターは秀雄の顔を見つけると気さくに話しかけてきた。ひとりぼっちでひたすら兎を狩っている秀雄を不憫に思ったのか、こうして話しかけてくる。

「ギルドマスター。兎は欲しいならそういってください」

 ギルドマスターであるドラゴンはうれしそうな顔をして、

「いやー、皮を剥ぎ角をもいで血抜きした兎だとね、ちょっと物足りないんだ。もちろん香辛料で味付けして丸焼きにしたのもおいしい。だけどね、やっぱりドラゴンは生でボリボリいってこそだと思うんだ。この食べ方だと食べた! っていう気になるんだよね」

 ギルド卸し用のでかいリュックに入れた兎を取り出す。

 ペラペラしゃべりながらギルドマスターは角兎を5匹受け取った。

 ちなみに兎狩りの依頼(討伐数 ∞)を出しているのは目の前のギルドマスターである。

 どうやら先代のギルドマスターと食べた初めてのご飯がこの角兎らしく、とりわけお気に入りの好物なんだとか。

 ちなみに兎と出現区域を同じくする蟻は買い取ってもらえない。なぜなら

「蟻はクソまずいよね」

 だそうだ。

 食べたんかい、という突っ込みはなしだ。

 ちなみに角兎の角はポーションの原料のひとつになるらしい。

 商人ギルドや薬剤師ギルドの方でも買取しているよー。とギルドマスターに教えてもらった。

 ギルドマスターは竜に変化すると、ポイ、と兎を空中に投げてそのまま口に放り込んでぼり、ぼり、ぼり、ぼり、ごっくん。と兎をおいしくいただいた。五匹を平らげて人の姿に戻る。

「ふう。おいしかった。やっぱり新鮮な兎は一味違うね! いい仕事するねぇ『兎狩り』。他のギルドメンバーは経験値低い兎を狩るの嫌がっちゃってさ。でも君がメンバーに入ってから僕のおやつタイムは完璧だ!」

 兎の死体を火を通さずに五匹食べるのがおやつって一体……。

 秀雄は遠い目をした。

「まあ俺にはそれしかできないですし。ギルドが買取してくれるおかげで本当に助かってます」

「ふふふ、そうだろうそうだろう! 初心者救済だけでなく僕の個人的要望も満たされて一石二鳥とはこのことさ!」

「ギルドの運営上困るんですけどねぇ? ザード」

 受付のお姉さんが青筋をぴくぴくさせながら微笑んでいた。

 おそらくギルドで買い取ってそれをいろんなところに卸すという問屋的な業務ができないからギルドに金が1Gも落ちないのだ。しかもやっているのは他ならぬギルドマスターである。

「ぐ! ごめんよ。ナーサ! でもギルドに卸したら僕が兎の角を食べられないじゃないか!」

 ギルドより自らの食欲を優先するギルドマスターにナーサが雷を落とす。

「何言っているんですか! 当たり前です! ポーションの原料を何でおやつにするんですか! そこに正座!」

 ナーサさんに怒られて涙目でしょんぼりしているドラゴンことギルドマスター。

 ナーサが姐さんといわれる理由が少しわかった気がした秀雄であった。

 このギルドの規律はナーサさんによって保たれているのだな、と秀雄は一人納得した。

「ん」

 ちなみにちっこい女の子がギルドマスターに貢いだ兎分の代金を支払ってくれた。



 武器屋に寄ってスピアを購入した。武器屋の親父はしきりにショートソードを推していたのでそれも一本購入する。なんでもスピアが壊れたときの保険がないといざというとき……と脅された結果である。

 この世界では武器が壊れることもあるらしい。まあ現実世界だって刀が折れたり刃こぼれしたっていう話を耳にしたことがあるし、武器が壊れるのも理解できる。決して秀雄の意志が弱くて買わされたわけではないのである。


「うーん。楽だー!」

 街を出て兎を狩る。ス、と穂先で兎を突き殺す。ぼろぼろの剣よりも手軽に兎を捕らえることができた。後ろから近寄ろうとした兎は石突で跳ね返す。別に槍を習っているわけではないが、秀雄は器用に使いこなしていた。

「ゲームではこう振っていたな……」

 秀雄はゲーム内の動作をトレースする。

 兎を狩った後、槍を振って足払いの練習をする。それから突きの練習。

 今日のノルマの20匹を狩ったので残り時間はスキルや武器の鍛錬の時間に当てていた。

 特筆すべきは貧乏ゆすりである。さっき貧乏ゆすりL6にあがったのだが、これがすごい。なんと貧乏ゆすりをすると小規模ながら大地が揺れるのである。

「まったく異世界はおかしい。なんで俺の貧乏ゆすりごときで地面が揺れるんだよ……」


 貧乏ゆすりL6


 貧乏ゆすりをして周囲10メートルの大地を振動させます。振動を受けた相手は一時的に行動不能になることがあります。継続した場合、時間に応じて更にSPが消耗します。



 といった具合である。

 実験しようと思い、角兎を見つけると同時に貧乏ゆすりを開始する。

 兎はこっちに向かって飛び跳ねようとして、地面にコロン、と転倒した。

 そんな隙を見逃す秀雄ではない。スピアで一気に兎の腹を貫いた。

 突き刺した兎が絶命するのを確認してから遠くを見つめた。

「貧乏ゆすりなのに……どうしてこうなった」

 



●ギルド加入後4週間経過




 こっちの世界に秀雄がやってきて一ヶ月半が経とうとしている。

 秀雄の肥満も日を追う毎に徐々に取れてきて、普通の男性的な体つきになった。

 くどいようだがお菓子やコーラを断って朝から晩まで兎と鬼ごっこである。これで痩せない方がおかしいだろう。

 皮の装備品たちは魔法の効果なのか痩せた秀雄の体にもジャストフィット。

 ついに軽肥満補正がなくなった。


 LV:17/100 職業:ニート

 経験値:653P

 次のレベルまで:351P

 HP:90/90

 MP:107/107

 SP:88/88

 筋力:41

 体力:57

 早さ:28

 賢さ:23

 幸運:10

 魔力:36


 補正:なし

 魔法:『髪の毛は友達』 タイムL3

 技能:台バン 床ドン 壁ドン 貧乏ゆすりL9 高速移動 自動LVUP(素数)


 強化ポイント16


 兎狩りの成果でやっとレベル17になった。14、15、16は素数でないので実質13を突破するのが大変だっただけだが。

 そしてタイムがレベル3にまで、貧乏ゆすりがレベル9にまであがった。

 タイムレベル3は同時に行動不能にできる対象が3体になった。これによって消費MPの変化はないようだ。

 貧乏ゆすりレベル9は半径30メートルの大地を振るわせるようにパワーアップした。しかも振動はより強力になり、既に軽い地震と遜色のない程度だといってもいい。

 レベル17になった時点で狼や猪に挑戦したところ、秀雄はこの能力で狼や猪を戦闘不能にして、無防備になった腹を突き刺し一撃死を与えている。

 タイムといい、貧乏ゆすりといい、行動不可能にする魔法と技能なので重複しているのが欠点だが、今のところ困っていないので秀雄はセーフだと思っている。

「しかしなんで貧乏ゆすりの癖にこんなに強いんだよ……」

 と秀雄はいつも通り遠い目をした。





正直兎だと被っているなー感があるのですが、某ドラゴンさんに食べさせることができて弱い魔物となると蝙蝠や狼や猪はなぁ……。犬、猫はペット枠だし、鼠はちょっと……。ゴブリンはまだ早い。となり泣く泣く兎さんにご登場を願ったという話。

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