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聖院

お久しぶりです。キャラの名前忘れたって方はあとがきを参照してください。

 ユマを連れて街中を歩く。ユマは苦しいのか幸せなのか良くわからない顔で隣を歩いていた。

「ぐ……苦じいでず」

 お腹を押さえて頭を垂れるユマ。

「当たり前だバカ」

 顔面蒼白のユマの背中を擦った。

 よせばいいのに今日は記念にステーキを好きなだけ食べていいといったら5皿も大盛のステーキを注文してそれを完食。

 こういうのはほどほどに食べるのが一番美味しく頂けるのだ。

 それに気付いたのはこの世界にきてからだというのは言えないのだが。

「ずみまぜん……は、吐きぞう」

 うっ、と気持ち悪そうな顔をするユマを抱えて路地裏に紛れ込む。

「ちょっと我慢してろ」

 ワープの魔法を唱えた。俺とユマの二人分に光のサークルが完成してテヘラー遺跡に移動した。

「気持ち悪いでず」

「よせばかやめろ! 俺の腕の中で吐くんじゃない!」

 移動したのはテヘラー遺跡の隠し部屋。

 その隅っこでリバースさせた。

「それにしても何でバカな事をしたんだ。いくらでも食べていいと言っても、限度があるだろ限度が」

 溜息を吐いてユマの頭に手を置いた。皮の帽子ごしでも犬耳はいいなぁ。

「はぁ、はぁ、ふうう……。ご面倒をお掛けしました……。奴隷の身分で猪肉のステーキなんて3年に一度食べれるか食べれないかのご馳走ですから」

「全部で50Gも使わなかったし、別にいいよ。お前が稼げば毎日猪肉のステーキでもいい」

 今は100万Gあるし。

 多分三日で俺が飽きるから毎日というのは不可能なんだが、それは言わなくてもいいだろう。

「! 本当の本当ですか!」

「ああ。ユマ次第だが」

 頷いてみせた。ユマの目がキラキラと輝きだした。

 猫耳娘達もそうだが、獣人って肉がそんなに好きなんだろうか。

「ご主人様、ところでここはどこですか?」

 きょろきょろと辺りを見回すのも当然だ。何せ街から遺跡までワープしたわけだからな。

「ワープという魔法を知っているか? ここはダンジョンだ。早急にレベル10を目指すぞ」

 は? 何言ってるの? という顔をしたルファの手を引いて秀雄は遺跡の内部の探索を始めることにした。

 袋の中から松明、更に枯れ木の木片とカードを一枚取り出した。

 アニーからドローした火矢のカードと、風刃無双したときに切り倒した古木を袋の中に放り込んでおいた奴だ。

 枯れ木を火矢のカードで燃やしてそれを松明の火種にする。手に持った火矢のカードが消失する。

「風狼って知ってるか?」

「はい。風刃の魔法や加速の魔法を使う魔狼の一種で、風刃の魔法を使った一撃は皮の鎧を容易く切り裂き、特に加速の魔法を使った場合は手に負えないと聞いています」

「じゃあ事前知識は十分だし風狼でも狩ってみるか。多分二匹も狩ればレベル10になるだろ」

「ははは、冗談ですよね? え? え?」

 乾いた笑みを浮かべるユマを引きずって遺跡内の探索を始めた。

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい本気じゃないですよね? え? 何で何も言わずに笑ってるんですかぁー! ご主人様のひ、人でなしぃ―!」

 じたばた暴れるユマを引きずって風狼のハントに出かける事にした。




 遺跡内部は前回来た時と変化はない。夕暮れ時だからちょっと視界の確保が難しいが。

 ピラニアや蜘蛛や蛇を狩っていく。察知の技能を使いながら魔物が少ない所を狙い撃ちし、2匹以上のグループは先制風刃で両断した。

「ご主人様って強いんですね!」

 わー! とか、おー! とか拍手しながらユマを後ろに庇いながら遺跡の魔物を狩る。

 一匹だけで現れた魔物の場合はタイムで停止させてユマにひたすらナイフで突かせた。

 今は蛇を狩らせた所である。蛇は潜影のオーブを持っているらしいからな。

 蛇を損壊してオーブを探すよりは後でルファに診断してもらった方がいいだろう。蛇の死体を無限の袋の中に収納する。

 ユマはレベルアップして8になった。

「ご主人様ー! やりましたー!」

「はいはいおめでとうおめでとう」

 蛇を袋の中に仕舞う。

 ユマも環境に適応したのか察知のレベルアップが早い。既に察知のレベル20だ。

 察知のレベルの上昇によって新たに派生した嗅覚探知、聴覚探知という技能もそれぞれレベル3。

 どうなってるの。幾らなんでも急成長しすぎだろう。個人によって技能の成長のし易さはかわるんだろうか。

「また察知のレベルが上がりましたー!」

 ユマの尻尾がぶんぶん振れている。よしよし頭を撫でてやろう。

「偉いぞユマ。お陰で索敵範囲がかなり広がった」

「えへへ」

 察知レベル21。レベル二乗で定義された効果範囲は441メートル。

 説明を見るとかなり広範囲だな。おおよその目安らしいが。

「あ、ご主人様。こっちです。強そうな気配がします」

 察知はユマの方が優れているようなので索敵はユマに任せる事にした。

 索敵技能が3つもあるので俺の索敵範囲よりも精密かつ正確。

 今後はユマに任せることが多くなりそうだ。

 そんな事を考えながらユマの案内に従って遺跡を駆け巡る。

 風狼か。

 グルルルル、と唸って警戒している。

 貧乏ゆすりの技能を久しぶりに使う。

 地面の振動でこてん、と風狼がこけた。

「ご主人様ー! 私も立てませんー!」

 ユマも地べたに寝転んでいた。松明落とすなよ。

 流石に敵オンリーというわけにはいかないか。味方を巻き込む技能だったか。今後は注意しなくては。

「じゃあ気を取り直して……」

 タイムの魔法を唱える。1秒当たりMP10消費。タイムの魔法を継続している間にユマが立ち上がり、短剣を抜き放つと逆手に構えて狼の腹を抉る。

 ぴんぴろりん♪

 どうやらユマのレベルが上がったようだ。

「やりました!」

 ユマのレベルが10。奴隷のジョブレベルはカンストだ。明日は聖院へ向かう事にしよう。


 


 ●聖院




 ユマがレベル10になった次の日の朝。

 跳躍の技能の朝錬を終えた後、ルファと広場で合流した。

「んー。道案内する代わりにあの菓子買って欲しいニャ」

 クッキーっぽい焼き菓子を露店でルファとユマに買い与えて一緒に聖院へと向かう。

 聖院とは何かというと、神々が定義した職業である天職に就ける教会のような物だ。

 聖院に勤める職員は神官と呼ばれる。地球で言うところの神父やシスターのような存在のようだ。

 カトリック教会だったらバチカンが総本山であるように、聖院にも総本山があってアルゲリシア神聖国という国家の王様が聖院のトップを兼ねているそうだ。

 日本で言うと神道のトップが天皇、という理解でおよそ間違いないだろう。

 まあ政教分離なんてない世界らしいから権力の多寡は比較になりはしないだろうが。

「着いたニャ」

 ルファの道案内で聖院へとたどり着く。

 どこからどうみても教会、といいたいところだが象徴である十字架の代わりに珠を持つ竜が剣を咥えている大きな青いレリーフが扉の上に見える。

 扉を潜って聖院の中に入った。

 受付と思しき青い修道服を身に付けた茶髪のお姉さんがニッコリと微笑んだ。

「聖院へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

 聖院の役割は主に3つだ。転職、解呪、祝福だ。

 転職とは天職に就くこと。天職と実際の職業は一致しなくてもいい。例えば兵士が料理人という天職を得てもいいし、商人が魔法使いの天職に就いても全く問題はない。

 この天職はメインジョブ、サブジョブにそれぞれ1つずつ貰える。ルファが剣士でエンチャンターというような感じだ。

 天職に就くと技能や補正を授かる。

 2つのジョブに就けばさぞかし便利だろうと思いきや、そういうわけでもない。

 1つのジョブで得られる経験を2つのジョブにそれぞれ振り分けるので成長がの速度が半分以下になるらしい。

 解呪とは呪いを解く事。道具にかけられた呪いと本人にかけられた呪いの両方共に対応するらしい。この用で教会にお世話になりたくはないな。

 最後の祝福とは神からお告げを貰える。お告げとは自分の信仰する神からのアドバイスの事だ。もちろん無神論者は何のアドバイスも貰えない。

「転職をお願いしますニャ」

 ルファはそう言って俺に手を出した。

「利用料は一人100Gにゃ。二人なら200Gにゃ」

「そういうのは先に教えろよ。まあ払うけど」

 すみませんね、とお姉さんは頭を下げた。昔は無料だったようだが、定職に就かず転職を繰り返す輩が絶えなかったので止むを得ず料金を取る事にしたのだとか。

 

 聖院の奥の間に案内された。ルファは頑張ってニャー、と手をひらひら振って待合室へと入って行った。

「ご主人様、私はどんな職業に就いたらいいですか?」

「いや、それはユマの選択に任せるよ。どんな職業に就けるか、その選択の幅すら分からないし」

 転職の幅は用意された剣士や戦士、エンチャンターやテイマーと万人に用意された天職の他に運命職というレア職があるらしい。

「え、でも変な職業を選択してご主人様に迷惑をかけたら嫌ですし……」

「大丈夫、どんな職業になってもいいさ。俺がユマの主人であることに変更はない」

 ユマが不安そうな顔をしたのでその頭をクシャッと撫でた。

「心の準備はいいですか?」

 道案内をしてくれたお姉さんがドアのノブを掴んで振り返った。ここから先は一人ずつだ。

「ユマ、先に行ってみてくれ」

「はい。すぐに済ませるので」

 ユマが室内に入ると、一人っきりだ。

 暇だし技能の練習でもしておくか。壁ドン床ドンは無駄に音がでかいし、跳躍や高速移動や貧乏ゆすりは出来ない。

「鬱だけどやるか」

 懐から取り出したのは小針だ。

 ブスっと小針を手の甲に突き立てた。

「ッ!」

 赤い血液の滴を確認すると、治癒の魔法を使った。

 数秒のうちに傷が癒えて、血を舐め取ったら全く傷のない手の甲が見える。

 治癒の魔法は実際に誰かが傷を負わないと練習が出来ない。

 ギルドで捕まえた嫌がるヒーラー職の男性に金を掴ませて治癒魔法の仕様を聞きだし、悩んだ末に練習法は幾つか考え出した。

 治癒という魔法はある意味で万能だ。その代わり、鍛えることが余りにも難しいマゾ御用達。治し方や治す対象によって追加性能が変わるからだ。

 例えばこんな練習をした。魔物の四肢の腱を斬って無力化、治癒を使っては傷つけるいう反復練習で治癒のレベルは5上がった。

 治癒の魔法は治そうとする傷が酷ければ酷い程レベルが上がると言う鬼畜仕様だ。

 相手が魔物とはいえ、我ながら胸糞が悪くなる所業だった。

 しかし治癒のレベル次第では腕を失ったり失明したという部位欠損という症状を直す事が出来るという話だ。

 重傷患者を治し続けることで得られる治癒の性能は「欠損回復」と「臓器再生」。

 もしユマ、アニー、フェイ、ルファが腕を失ったのに直せないかもしれない、そして重傷や失血によって命を失うかもしれないという不安に比べたら。

 自分の不快感や痛みなんて屁でもない。十分耐えられる。

 自分が傷つけば傷つく程治癒の性能が上がるというのならば、喜んで傷つこう。

 何度も自分の傷を治すことで得られる治癒性能は「造血」。

 未来で死ぬほどの後悔したくはない。

 さあ次だ。

 


 五分くらい治癒の練習をしただろうか。

 ユマが扉を開けて駆け寄ってきた。

「ご主人さま! 遅くなって済みませんでした!」

 ぺこりと頭を下げたユマ。

「うん、全く遅くはないな。ところでどんな職業にしたんだ?」

「それはですね! 私は」

「お話をしたいのはわかりますが、次の方どうぞ」

 修道服のお姉さんを困らせてはいけないからな。話は後ででも出来るだろう。

「すまん、行ってくる。しばらく待っててくれ」

「はい!」

 ドアの向こう側は黒塗りの小部屋だった。

 神聖な雰囲気と言うよりは黒魔術の儀式部屋といった方が正しいのではないだろうか。

 見渡すと天井と前後左右の壁、そして足元には淡く光る魔法陣が敷かれている。どれも違った意匠だが、何か魔術的な意味でもあるのだろう。

「部屋の中央に立ってもらえますか?」

 お姉さんの誘導に従って魔法陣を踏んだ。

 唐突に視界が霞む。

 瞬きをすると、次の瞬間には黒塗りの小部屋から白一色の空間に立っていた。

「えっと……」

 辺りを見回すと何冊もの本が空中をくるくると回っている。良く見ると円運動をしているようだ。

『どれにもあてはまらぬ』

『面白い個だね』

『そうだよ、こんな面白い個を見つけるなんてアレもなかなかやるじゃないか』

『極めて個性的な個である。こんな逸材を鋳型に流し込むのは勿体無い』

『そうだそうだ』

『じゃあどうする?』

『放置』

『待つがよい、それじゃ詰まらないのじゃ』

 本が口々に勝手な事を言っては別の本が否定する。

 何だか聞かされた話と違うな。魔法陣の中央に立つ天職一覧が目の前に表示されるからそれを選ぶと聞いたんだが。

「俺は、魔法使いになりたいんだけど」

 戦士でもいいけど。槍使ってて楽しいし。でも30超えた童貞ならやっぱり魔法使いだよね!

『ニートをやめたいと申すか?』

 一冊の本が苦々しげに問いかけた。

「ああ」

『それをやめるなんてとんでもない!』

『それをやめるなんてとんでもない!』

『それをやめるなんてとんでもない!』

『それをやめるなんてとんでもない!』

『それをやめるなんてとんでもない!』

『それをやめるなんてとんでもない!』

「なんでやめちゃ駄目なんだよ」

 謎の否定の嵐に怒鳴りたくなる気持ちを押さえた。

 ニートやめて働くんなら応援するのが筋だろ。

『ひとまずニートをレベル100まで育ててからまた来るが良い』

『とはいえ、このまま還すのも不憫というもの』

『そうじゃの、折角ドローの魔法を持っているのじゃしハンドの魔法あたりでどうじゃ?」

 手? 手の魔法って何だ?

 いや、待てよ。ドローの魔法はカード生成の効果だし、ハンドって手札の事を言っているのか?

『妥当と思われるな』

『そうだそうだ』

『結論。お主にはハンドの魔法を授ける。有効に使い、もしこのままレベル100に達することが出来たならば新たな道を示そう。ひとまずは迷宮を目指すが良い』

 迷宮だと。まあ異世界物の定番だし、どこかの街にあるって話も聞いた覚えがあるが。

「何で迷宮になんか行くんだ。俺は嫌だぞ」

 大変そうな空気がするしな。リスクはとらない。


 さっきと同じように視界が霞んだかと思うと、俺は黒塗りの小部屋に立っていた。

 本達が俺の言う事を聞いていたかどうかは知らない。だが先程のやりとりが夢じゃない事を証明するかのように、俺の手にはいつの間にかハンドのオーブが握らされていたのだった。

 

ヒデオ:30歳ニート。レベル上げ大好き。

ユマ:ヒデオの奴隷。犬の獣人

ルファ:猫の獣人。魔眼持ち


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