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#2

『アキラお姉ちゃん。絶対また遊びに来てね。絶対だよ絶対。』アキラ・ロックフォード


 初めて会った時、私の作った真っ赤なつなぎを着て来てくれてとっても嬉しかったのを今でも覚えているわ。あの時は本当に自分に子供が出来たみたいで舞い上がってしまったわ。旦那の目も確かだけどあなたの実力も素晴らしいわ。これからもアメリカのお母さんって呼んでくれるかしら?こんなこといったらマリさんに怒られちゃうかしらね。私たちはあなたのおかげで授かった愛息子アキラと一緒に今でも幸せですよ。


ダグラス・ロックフォードの妻   キャサリン・ロックフォード




 晶は今でも作業するときはいつも真っ赤なつなぎを着込んでいる。すでにトレードマークになっていると言っていいな。といいつつも俺も作業場に入るときはいつも同じつなぎを着せられているが…それにしても夏でも冬でもつなぎの下は下着しか付けてないってのは困りものだけどな。



 ある日、晶はいつものようにダグラスの作業場に顔を出す。いつものリュックを背負って。


「おう。きたきた。待ってたぜアキラ。」


「なに?おじさん。また何かわからなくなっちゃった?」


「いや、今日はアキラにプレゼントがあるんだよ。ほらこれこれ」


 ダグラスは作業場の奥から紙袋を取り出して晶に差し出す


「これ、キャサリンに作らせたんだよ。この前のムスタングのエンジン組み立てのお礼だよ」紙袋に入っていたのは真っ赤な作業用つなぎ。



「別にそんなに気をなんかつかわなくてもいいよ。わたしが勝手に来て勝手に遊んでるんだから」照れ隠しで言って見たものの喜びを隠せずに晶の口元が緩む。


「まぁ、いいから着てみろよ。きっと似合うはずだぜ。」


「うん、じゃ、着替えて来る。」

作業場の裏に着替えに行く。



 晶が裏に隠れて着替えている時にダグラスが話しかける。

『アキラよう、前から気になってたんだが、お前、機械のこと誰に教わったんだ?』



『え?なに?今、着替えてるんだからちょっと待ってよ。すぐそっち行くから…』



しばらくして晶が少し恥ずかしそうな顔をして戻ってくる。


「ほらな。バッチリ似合うじゃねぇか。ちょっとくるっと回ってみな?」


 ダグラスの声に促されてアキラが一回転回って見せる。

「うん、オジサンありがと。」晶もご機嫌な様子。


「そうそう、オジサン、さっき何か言ってなかった?」


「おうおう、アキラ、お前、整備のこと誰に教わたんだ?」


「え?なんで?晶は誰にも教わったことなんてないよ。だってそんなの見ればわかるでしょ?」


「いやぁ~、お前、普通、わかんねーだろ。確かにちょっとしたことならわかるかも知れねーけどそれにも限度があんだろ。初めて見たバラされたエンジンを部品一つ間違えず組み立てるなんてできるはずねぇ。確かにあん時は晶が居てくれて助かったが…。あのムスタング、何ヶ月もバラしっぱなしで放置しちまったからな」


「なんで?だって組み立てられように作られてるんだから誰だってできるよ。確かに作った段階で無理がある機械は組み立てるのちょっと悩むけど別に問題ないでしょ」なんともあっさりと答える。


「おれも長年、整備士やってるがお前みたいのは初めてだ。どう考えても子供の遊びでできるもんじゃねぇ。俺だって元々は戦闘機専門の整備士だったんだ。これでもエリートだたんだぞ。その俺だってマニュアル見ながらやるんだぞ。なのにお前、なんにも見ねえでやったろ?」


「へぇ~、オジサン飛行機の整備士だったんだぁ~ 何か意外」


「意外だから今ここに居るんだろ。本当のエリートだったらこんな所に居ねえし、もっと偉くなってらぁな」


「そおだね…ははっ」


「あのよう、アキラ、お前、いっぱい勉強して、空軍の本隊に行け。この国にはお前を必要とする所が必ずあるはずだ。それにこの国はそれができる」


「別にいいよ。晶は毎日、ここで機械をいじってるだけで十分楽しいから。別に何かのためにって思ってないから。それよりも晶は、オジサンのおうちに行きたい。奥さんにお礼しに行きたいな」


「お、おう。じゃぁ連絡入れとくか」


 ダグラスのところで好き勝手にやっているのが楽しいその時の晶にはダグラスの思いは届かなかったのだろう。



「なんだ?そのまま行くのか?」


「うん、せっかくだから着たまま行く」

つなぎの入っていた紙袋に洋服を入れてダグラスのクライスラー・ジープ・ラングラーに乗り込む。


「やっぱり、普段は子供なんだよな。話してるとどうもそのことを忘れちまう」車高の高い車によじ登る晶をみたダグラスがそうつぶやくと


「子供で悪い?いいでしょ。子供は子供なんだから」


「そうだよな。ははっ」


 基地から海に向かってしばらく走るとダグラスの自宅がある。少し大きめの庭がついたアメリカでは普通クラスの家。車をしまい、降りて二人で玄関まで歩くと玄関前には既にダグラスの奥さんが立って出迎えてくれた。


「まさに美女と野獣ね」

晶が小声でいう。

「こら、しっ。それを言うな」


 海風がブロンドヘアをなびかせる。背が高くすらっとして笑顔が美しい素敵な女性。


「あら、いらっしゃい。お待ちしてましたよ。着て来てくれたのね、嬉しいわ。アキラちゃんよろしくね」


 彼女に対しては初めから抵抗が無く話が出来たようだ。晶でもなかにはそういう相手も居るんだな。


「キャサリンさん、とっても気に入っています。ありがとう」


「まぁまぁ 中へどうぞ」


 家のなかは非常に整理整頓されていて。基地のダグラスの作業場とは大違いだった。キャサリンの几帳面さがひと目でわかる部屋だった。


「うちは子供が居ないからすっごく嬉しいわ。今日はご馳走、沢山つくるからいっぱい食べていってね。」


「うん、ありがとう」


「じゃ、俺は着替えてくるからアキラは適当に待っててくれな」


「うん」と言って晶は後ろ手に手を組んで部屋を物色し始める。


 壁一面に写真が飾ってある。ダグラスの若い頃の写真だ相変わらずつなぎや迷彩服は油まみれで汚れている写真ばかりだったが一緒に写っているのは車では無く戦闘機、おそらく空軍の戦闘機であろう。


「そいつはF-15 イーグルだ。俺が良く整備していた機体だな」


「ふ~ん、じゃぁこれは?」

サイドボードの上に置いてある戦闘機のダイキャストモデルを指差し尋ねる。


「おうおう。それはF-14 トムキャットだよ。そうそう基地の隣っていうか中っていうか。あんだろノースロップグラマン社。あそこの戦闘機だ。ほとんど海軍でしか使われてねぇから俺も触ったことねぇんだがなんていうか好きなんだよな。だからあの会社の知り合いに頼んで貰ったんだよ。こいつもすげぇ活躍してたんだぜ」


「へぇ~。ちょっと見ていい?」


「おお、ちょっと待ってろよ。そこじゃ見にくいだろうから。テーブルに置いてやる。」


 ダグラスがミニチュアサイズのF-14を大事そうに手にとってそっとテーブルの上に置く。


「あ、ありがとう」それからというものしばらく晶の目は模型に釘ずけになっていた。


「良く出来てんだろ、まぁメーカーが作たんだから当たり前だけどな」



「さぁさぁ、食事の準備が出来たわよ」


 晶は名残おしそうにダイニングチェアに座る。それを見たダグラスが頭を掻きながらF-14の模型を手にとってダイニングテーブルの晶の席の近くに置いた。


「お前も好きだな」


晶は振り向き満面の笑みで答えた。


「いただきます」


「はい、どうぞ。召し上がれ」

テーブルの上にはアメリカの家庭料理が並ぶコブサラダにフライドポテトにミートローフ。


「うん、とっても美味しい」

とりわけられた料理を簡単に平らげた。


「まだあるからね。沢山食べてね」


「ミートローフがもう少し食べたいな」


「はいはい。なんか本当にうちに子供が出来たみたい。ふふっ」

キャサリンも嬉しそうにに晶の皿を受け取って料理を取る。



「美味しかった。御馳走様でした」


食事のあとはしばらくはのんびりと過ごす。ソファに移動しても晶の目の前には先ほどの模型。


「やっぱり、子供は子供か。アキラ、それお前にやるよ。その代わり大事にしろよ。分解してもちゃんともとに戻すんだぞ」


「うん。オジサン、ありがとう。大事にするよ」


「アキラちゃんよかったわね。この人ほんとはまだ諦められないのよ。やっぱり飛行機のそばにいたいみたい。でも今は無理だけどね…」


「だからお前にはあっちに行って欲しいんだよ。お前は中枢でできる。それは俺がこの目で見てよくわかってる。だから考えて見ろよ。」


「う~ん、まだよくわかんないや」


「そっか、わかった。まぁそのうち気が変わるかもしんねえからな。まぁいいか。無理強いしてもしかたねぇな。よしそろそろ送ってくぞ」


「うん。キャサリンさん?また来てもいい?」


「もちろん、大歓迎よ」


 ダグラスの奨めにはあまり興味を示さない晶であったがそろそろそうも行かなくなってくる。きっとこの時が晶にとって一番、幸せな時間だったのかもしれないな。だから今でもあの時と同じつなぎを着ているんだろうな。でもそろそろまたあの婆ぁの話をしなくてはならなくなってきたのか…けど晶の話をする上であの婆ぁはどうしても出てくるから仕方ねえか。

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