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麒麟児クラスの生徒たち

0組の生徒達~infant prodigy~

作者: 赤柴紫織子
掲載日:2012/07/22

 真昼ヶ丘大学付属高等学校。

 大学、高校ともに名門校として名高い。


 明るい茶色の校舎を見上げながら、七隈亜子は新調したスクールバックを肩に掛け直す。

 そして憂鬱げにため息をついた。

 目の前のこの校門に足を踏み入れ、校長室に行き、学生証を貰えば晴れてこの学校の生徒となれる。

 だが、足が動かない。

「亜子」

 後ろから母親が声をかけてきた。

「大丈夫よ。うまくやれるわ」

「……でも」

 言いかけて、うつむいた。

 たまたま自分が持って生まれた“才能”のために母親まで引っ張りまわされてるのだ。

 あまり困らせるようなことは、したくない。


「一週間様子見て――駄目だったらやめていいって、言われてるじゃない」

「……うん」


 季節は葉桜の時期。

 この学校の入学式は一ヶ月前に終わっている。

 だが、亜子にとっては今日が入学式に等しかった。


 彼女は人間恐怖症だ。


 幼い頃から“才能”のせいで酷く言われ続け、自分の世界に閉じ籠るようになってしまった。

 中学を出席日数は危うかったものの卒業し、高校は通信教育にするつもりだったのだが――


「あそこまで必死に勧誘されたわけだし……行くだけ行ってみるよ……」

 二ヶ月前、付属高校と大学病院のそれぞれのお偉いさん二人が土下座をしてまで頼んできたのだ。

『高校に入らないか』と。

『どうか、君の頭脳を調べさせてもらいたい』と。

 その願いに家族で散々悩んだあげく、条件を出したのは父親だった。

『一週間、娘に様子を見てもらいましょう。それで合わなかったらこれ以上あなた方は私たちに関与しないでください』

 普段、あまり父親らしいことをしなかった彼の精一杯の仕事だった。

 娘にチャンスを与えたかったのだろう。

 もう一度外に出、誰かと触れ合うチャンスを。

 その想いを汲み取って亜子は了承した。



 校長室に通された亜子と母親は柔らかく上質なソファで校長を待っていた。

 廊下は静まり返っている。今は授業中らしい。

「…ハゲかな」

 突然母親が呟き、亜子が吹いた。

「やめてよ!本当にそうだったらどうすんの!」

「だって校長はそういうもんじゃん」

 しれっと言い返す母親。

 もしやこの人緊張してないのかなと思いつつ待つ。

 コンコン、と軽く校長室のドアがノックされた。

 部屋の主ならそんなことしないだろうし、と二人は顔を見合わせる。

 しばらくの沈黙の後、ドアがガラリと開いた。

 入ってきたのは女子生徒だった。

 艶やかな短い黒髪。白い肌。うっすら桃色の唇。

 スカートではなくズボンを履いているが、逆にそれが彼女の立ち姿を美しくさせていた。

「え…と。あなたも、転入生ですか?」

 固まっていた亜子が話しかけると、少女は首を振った。

 もしや話したくないのだろうかと思っていると、さらに後ろから一人少女が現れた。

 長い黒髪を一つにまとめ、眼鏡の奥の瞳はキラキラと輝き、そしてなぜか、上下ジャージで制服のスカートをつけていた。

 活発そうな雰囲気だ。

「あれっ?校長まだ来てないの?」

 眼鏡の少女は口を尖らせた。ハスキーな声だ。

 しかしパッと表情を変え、遠慮せずにずかずかと亜子のそばに寄る。

「あなたが転入生?」

「は、はぁ…」

「あたし梅林文美。よろしくね!」

「梅林さん…」

「文美でいいよ。で、あの子が桜坂理亜」

 ペコリと理亜がお辞儀した。

 そして手元のメモ帳に何か書き付けながら亜子の側による。

 亜子はビクビクと母親にすがり付きながら何が始まるのかと様子を伺う。

 すっ、とメモ帳が差し出された。

【声がでないから筆談か手話で話してる。よろしく】

「……そ、そうなんだ…よろしく」

 理亜は文美に向かって何やら手話で会話をした。それにうなずいて文美は亜子に顔を向ける。

「ごめんね、あたしたち怖い?」

 ぶんぶんと頭を振る。

 母親が助け船を出した。

「人間恐怖症なの。少数なら幾らかはいいけど、大勢だと、ね……」

「そっかぁ、すまんすまん」

 ぽすぽすと文美は亜子の頭を優しく叩く。

 ちょっと恥ずかしくなってうつむいた。


「お待たせしました」

 髪の毛がいくらか散っている男性がきた。

 亜子を見て、それから理亜と文美を見て

「彼女たちが何か失礼なことをしませんでしたか?」と聞く。

「あたし何もしないよ、失礼な!」

「うるせぇメダリスト泣かせ」

【話を進めましょう】

「分かった、桜坂。お前がいないと梅林と喧嘩してたところだよ」

【どうも】

「遅くなりました。真昼ヶ丘大学付属高校校長、福岡正治です」

 意外と普通の名前だった。

「さて、それでは――説明を聞いていると思いますが、私どもの大学病院では研究をしております」

「ええ」

「……」


「大雑把に言えば『天才』と呼ばれる人間の脳、身体を調べることです」

 文美はつまらなそうに理亜に寄りかかった。

「週に二度三度、病院の特別な施設でテスト等を行わせていただきます」

 理亜は文美を押し返した。

「痛いことはしません。――な?」

「うん。あたし《・・・》たち《・・》がいるしね」

 亜子はその言葉に首を傾げたが、続きを聞く。

「基本的に授業はありません。それぞれ好き勝手なので…集団行動は体育ぐらいですね」

「個別に勉強を?」

「ええ。七隈さんが学びたいのなら、教師からプリントやワークをもらうなどして自習してもらいます」

 もちろん分からないところは自由に聞きに行けます、と言った。

「……」

「まあ実際に見てみないと分からないですしね――というわけで桜坂、梅林。校内案内」

「りょうかい!行こ、ななちゃん!」

「な、なな…?」

【私たちとで大丈夫?】

「えっと…」

 振り向くと、母親が小さく微笑んだ。

「嫌なことがあったらちゃんと嫌と言いなさいね。――娘をお願いね」

「はーい!よし、まずは食堂だぁ!」

「わ、わわわ」

 引っ張る文美、引っ張られる亜子、最後に理亜がお辞儀をしてからドアを閉じた。

 残された校長と母親は足音が遠ざかってから向き合った。

「……すいません。梅林は空気が読めない馬鹿で」「いいえ、明るい良い子だと思います。亜子も、拒絶しませんでしたし」

「馴染めばいいんですが。なんせ、彼女が入る0組は変人揃いで」

「あら」

 母親はクスクスと笑った。



「あ、最初に0組行こうか?」

「えぇっ!?こ、心の準備が!」

【そうよ文美】

「行ける行ける!」

 校舎の一番上の、一番端。そこにそのクラスはあった。

 周りに他のクラスはない。

「みんなー!新入りだよ!」

 40個ほど並んだ机。

 そして疎らに座り、薬を混ぜたり何かを組み立てたりと好き勝手なことをする生徒が7、8人。

 それぞれが慌てて立ち上がり、そして用意していたらしいクラッカーを引っ張る。

 テープが飛び出した。

「ようこそ、0組へ」


 バラバラの音程で、バラバラのタイミングで、同じ言葉をかけられた。

「変人ばっかなんだよ」

 文美が言う。

「みーんな、“特別”な子ばっか。気負わなくていいんだよ」


 亜子は呆然としたあとに「あは」と笑った。


 きっと。

 きっとここなら、わたし自身を認めてもらえる。


「えっ、えっ、泣き出しちゃった」

「おい文美!おめぇなんかしただろ!」

「誤解だよ!」

「あーあー、ほらティッシュティッシュ」

「泣くな泣くな」

「見ろこのロボットの滑らかな動きを!」

「引っ込め博士」

「……この薬を飲めば」

「ひとに変なもん飲ませんな」

【落ち着きなさいあなたたち】




 一週間後。

 学年のない0組に、正式に生徒が入った。

 



前にかいた麒麟児云々の前話です。

理亜難しいなあ

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