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作者: あさなか

 ごくりと唾を飲み込む。

 自分でも大袈裟だと思うほど、ぎょっとした表情になった。

 相手に悟られないようゆっくりと一定の距離を保って、一歩でも近づけば直ぐさま逃げ出せるように身を構えた。


 ――――――こんな一説がある。

 恐竜が絶滅した原因の一つに挙げられている巨大隕石の衝突。 それ以前にも小さな隕石は度々地球全土を襲っていた。 実はそれらの隕石には宇宙空間にも大気圏にも耐えられるほどの強い生命力を持つ生命体が付着しており、それらはこの地に足を降ろし繁殖したという。

  詳しいところはうろ覚えだし、何かしら間違って記憶しているところもあるかもしれないが、簡潔に言うならこう。

 『奴らは隕石によってこの星に齎されたのだ』という、奴ら地球外生物説。


 私はこの誠しやかな一説をとても気に入っている。

 密かに奴らはこの星に存在するどの生物よりも異質だと常々思っていたのだ。 そしてこの星のレベルとはつりあわない生命体の発生を疑ってもいた。

 しかしだ、もはや人間と比較するのもおこがましい程の発達した能力を持ったあの生物が、計り知れない宇宙生物の一種なのだとすれば、その疑問はすべて払拭できる。

 なぜなら奴らはこの星生まれの生物などではないからだ。 地球の発生以来着々と進化を続けてきた生命体の成れの果てである我々が、他の場所からやってきた移住者に違和感を覚えるのも致し方ないというものである。


 今やとても自然な形で我々と共存している彼らは、立派に食物連鎖の下辺りに組み込まれている。 それでも奴らに僅かながら、いや、人によっては激しい嫌悪感をもよおしたり、しばしば我々の敵となってしまうのは、遠く祖先をたがえる別の生命体であるという記憶を、遺伝子が侵略者という異分子として覚えているからなのではないだろうか。

 中には奴らに強く惹かれる者もいるだろうが、それは生命の神秘であったり、容姿の珍妙さからそそられる純粋な好奇心によるところが大きくはないか。 つまり未知への探究心。


 触手がひくひく動くさまや、数多の足をわらわらと蠢かし、照り返す甲羅を広げて羽音を立てたり、異様に大きな目玉でじっとこちらを睨んだりする姿は、正に想像される地球外生命体そのもの。 ただ、それらは奴らをモデルにしたという話も聞いたことはある。

 もはやこの世のものとは思えない。

 いや、存在して欲しくないと思わせるほどだ。


 きっと奴らの中には虎視眈々と食物連鎖の頂点を狙っているものがいるはずだ。

 頂点に立つ手始めに人間の住処を乗っ取ろうと考えながら、幾億の瞳で監視し、調査を試みてはいつか訪れるその時を見計らっている。 その活動の一端として、危険と分かりつつもわざわざ人間の近くに自らの住処を置き、稀に挑発するように人目に出てきては我々と勝負を挑むのである。


 たまに対峙する奴らはなかなか手強い。 歴戦の戦士だと思われるものは堂々とした迫力っぷりで、思わずこちらの身が引けてしまうほどだ。

 しかし負けられない。 これはお互いの生存をかけた遺伝子から湧き起こる戦なのである。 このまま日陰の存在であることを好まない生物が、どっかりと居座りこんでいる生物に警報を鳴らしているのだ。 ここはお前たちだけの住処ではない、と。

 ならば私も受けて立たとう。 安らかなるこの寝床に奴らの存在は不穏すぎる。 まだまだこの場を奴らに明け渡すわけにはいかないのだ。――――――


 私は決心して逃げの体制を崩し、奴らと正々堂々の勝負を受けることにした。


 奴はまだ触覚をこちらに向けて動かしている。 こちらの様子を窺っているのだ。 体を一ミリも動かさない冷静沈着なその様子に、私の気が焦る。

 すでに武器は手の内に在るが、果たしてこれで奴を倒せるのかと不安に駆られた。

 奴の触覚がピタリと止まる。 とうとう臨戦態勢に入ったのだ。

 身の毛もよだつ悪寒を覚えながらも、それを断ち切るように私は武器を強く握り締める。

 そして相手の気迫を押しやるがごとく、奇声とともに丸めた新聞紙を振り上げた。

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