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男の約束

ホテル内に入っている軽食レストランへ二人は入った。






エレベーターの中で他の人がいたのもありお互いに終始無言で、達也の後ろに立つ祐介は帽子の下の明るくきれいな色に染められた艶のあるその長髪をなんとなく見つめた。





二人ともコーヒーを頼み、達也が口を開く。






「まず、こんなとこに呼び出してしまってすんません。けど、どうしても頼まなあかん事がありますねん。





美香と会うの辞めてやってくれないですか?あの子も昔から色々と苦労して今があるし、まだ高校生の弟もいてます。おかんは小学校6年の時に亡くなって、おとんは再婚してはるからもう連絡取ってへんのとちゃうかな?学費も自分で稼いでんねん。





奈津美の知り合いでもっと金を稼ぎたい子がおるかも知れへんから そういう子に仕事を紹介してくれませんか?お願いします。」






「あの…、僕は本気で美香ちゃんと付き合っていくつもりです。最初はなっちゃんがらみで店に行って知り合ったけど 今は純も兄貴も僕の気持ちを知っています。





純には好きならものにしろよ と言われ、兄貴にも応援してもらって、美香ちゃんが振り向いてくれた…。実家の事で彼女を巻き込む事は絶対にしないです。」





祐介は茶色く透き通る達也の瞳に何故か彼女の瞳が重なる気がしながら さっき美香に話した事と同じ内容を達也の前で繰り返した。





話を聞いているうちに達也は半信半疑と思うように気持ちを矯正しながらも心が動かされつつあり





もしかしたらこいつは俺よりもずっと美香を大切にするんじゃないか?そんな気持ちすら沸いてくるのであった。





それからしだいに二人は打ち解けてゆき、達也はまだ起きてから何も食べていなかったのでサンドイッチを頼み祐介に「食べ」と一切れ勧めて後は安心したかのようにガツガツと食べ始めた。






「美香はホンマにうじうじしてるから たまにはカツを入れてやってな(笑)どうでもいい事をすぐに気にするねん。何でも自分が悪いからとか変な方向に暴走してばっかやから。」






祐介は関西弁で飾らず素朴に話す達也をいい人だと思った。





美香ちゃんはきっとこの人の強さとハートの温かさに惹かれたんだろう…。かっこいいのに素直で愛嬌まで持ち合わせている。一緒にいればずっと面白い事を言って笑わせてくれる。僕もそういう男になりたい。





「まあ、一応安心しましたわ。色々頼むな」達也は食後、タバコに火をつけて立ち上る煙を見つめながらそんな風に言い放った。





「はい!約束します。」





「俺こう見えても女々しい男やねんから二人に何かあった時はこの女々しさパワーを最大限に発揮して内藤くんにぶつけるよ?(笑)」





「はい(笑)」





くわえタバコの達也が伝票をすっと取って静かに立ち上がった。







祐介があわてて財布を取り出す。






「学生さんはお金大事にせな、な。」微笑んだ達也が髪にくすげていたサングラスを顔にかける。






二人はレストランの出口で別れた。






達也は美香がもう新しい人と新しい道を歩き始めている事を知り、今日で本当に彼女とは終わったんだという気にやっとなれた気がした。





忘れる事は出来ないかも知れないけど、自分は自分で前を見て歩いていかなければと強く思った。





一緒にいた月日の分だけ忘れるにもかかるのだろうか?





ホテルの薄暗い立体駐車場で車に乗り込んだ時、昔助手席に乗せていた彼女を思い出した。






いつもあんなに一緒にいたのに…。






よく土曜日の仕事が終わる明け方間近に 急いで風呂に入って彼女のアパートを訪ねた。





セミダブルのベッドで仲良く添い寝をして学校に行く彼女を見送り昼までまた眠る。





彼女が帰って来ると台所からはいい匂いが立ち上り(たちのぼり)美味しいご飯をほうばるのだ。それから街へ出かけ買い物、映画、ドライブ、時にはバンドの練習にも連れて行った。





あの日、飲まされずに普通に家まで帰れたのなら今頃も彼女と一緒にいられただろうか?





本当に傷つきやすくて泣き虫だから俺が一緒にいてやらないと……。





ずっとそんな風に思ってきたけどもう忘れなくては…。





そう言えば少しでも時間が空けばいつも公衆電話から美香の家に電話をかけていた。





平日でも、学校から帰って来てるか際どい(きわどい)夕方前でも。





パチンコの景品を見る時も決まって美香が欲しそうな物を探した。





尽きない思い出を断ち切るかのように達也はエンジンをかけ車を発進させる。





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