キス
8時過ぎに8人は中華料理屋で餃子やチャーハン、天津飯にからあげ、春巻きなんかをわいわい言いながらたらふく食べた。
それでそろそろと解散の雰囲気になり帰りは運転手と同じアパートに住む隆之がカップルの車に乗り込み、祐介が美香と恵をホテルまで送る形で8人は家路につく。
ホテルの駐車場のビルまで入り、3階フロアーに空きを見つけて無事駐車できた後に恵が気を使い二人きりにさせる。
「祐介さん、ホンマに今日はありがとう。むちゃくちゃ楽しかったわ。また今度も誘ってな。うち疲れたしお風呂に浸かりたいから先に行くわ。明日は買い物デーやし、おやすみ」
「待って!」美香が助手席から振り返り話しかけた頃もう恵は車のドアから降りていた。
暗い車内で祐介が美香の手に触れる。
「あの、今日はホンマにありがとう。楽しかったし……ホンマに幸せ。」
「うん」
祐介は自然に、ゆっくりと顔を近づけ美香の唇にそっとキスをした。
緊張したのにキスの後は心が温かくて幸福感がなだれ込む。二人ともそんな風に感じた。
「じゃあ、また大阪に帰ったら電話する。おやすみ。」
「うん、気をつけて。買い物も楽しんでな。おやすみ。」
本当はもっとずっと一緒に居たいけど恵の事もあるし、一日運転をした祐介が疲れているかも知れないので美香はそっと車を降りようとした。
「あっ、やっぱり部屋の前まで送っていくよ。駐車場暗いし」
「うちは大丈夫よ。」
「なんか心配だわ…」
祐介は美香を部屋の前まで送り届けた。
またエレベーターに乗り駐車場まで来た道を一人で戻る時、祐介は今まで生きていて今夜が一番幸せなんじゃないかと思った。
あの悲しくて切ないマーメイドの話に奇跡が起きた。僕のマーメイドは僕を好きと言ってくれたしキスもした。数日後には電話もくれる。また会ってくれるし、可憐な瞳は僕だけを見てくれる。
家に着くまでずっと今日一日の奇跡を振り返っていた。初めて会った日はあんなに遠くに感じたのに、彼女は今こんなにも近くにいる。僕の事を選んでくれたんだ…。祐介にとって自分が好きになった人が振り向いてくれたのは初めての経験だった。




