入部
音楽って素晴らしい。
楽器で、音を鳴らすのってとても楽しい。
初めて私が手にした楽器、それはよくジャズなどで使われているサックス。
音楽が、こんなにも楽しいなんて。しかも、このサックスはなんてきれいな音を鳴らすんだろう。
私は、幼稚園からピアノをしていた。最初は音がでるのが楽しかった。私と音楽との始めての出会い。
「この音は、私がここから出してあげたんだ。閉じ込められた、この音を。」
小さい私は、勝手に思っていた。でも、小学生になりピアノの先生に注意されることが増えた。
「ここは、そうじゃないでしょ!!こう弾くのよ。」
同じ事を、何回も注意されるようになった。何回練習してもできないもどかしさ。
先生の言葉への恐怖。そして、両親の冷ややかな目。小学生の私には、耐え切れなかった。
怖い。
その一言だった。全てが怖い。練習してもしてもうまくならない。先生の目にはもう、あきらめの色が浮かんでいた。両親が顔を直視することが、できなかった。
ピアノは、中学校に上がる前にやめてしまった。
中学校の入学式。入場曲が鳴りはじめた。CDじゃない。テープじゃない。ピアノ伴奏でもない。 テープみたいなか細い音じゃない。ピアノのような、静かな、小さな川のような音でもない。もっと厚い、もっと熱い。人の思いが伝わってくる。ピアノでは、表現できない重みが伝わってくる。あの、音は何だろう??
私は、音が出てきた場所を見た。入学式をしている体育館の隅。みんなの邪魔をしないように、ぎゅうぎゅうになって演奏している。
でも、1人1人が、一生懸命に吹いていることが分かる。顔は真っ赤だ。
演奏が終わり、入学式自体も終わった。体育館の隅を見ると、そこにいる1人1人の顔に満足そうな、表情が浮かんでいた。
私は、あのときの音を忘れられなかった。機械では表現できないあの音を、ピアノでは伝えられないあの気持ちを。私は、入部届けをもらった次の日にはもう、名前を書き印鑑を押し、部活動の所には「吹奏楽部」の名前を書き、担任の先生に渡した。
これが、私と吹奏楽部との出会い。私と本当の音楽との出会い。