第4話 開かずの検問と、デスボイスな銀貨
「はぁ、はぁ……!着きました、箱様!」
ルミナが足を止めた。俺とエルフの爆速逃避行は、交易都市バザールの巨大な城門前でフィニッシュを迎えた。
(ナイスランだ、ルミナ!さあ、街に入ったら何か美味いもんでも食わせてやるからな!)
「待て貴様ら!その不審な『箱』は何だ!」
ですよねー。止められるよねー。門番の男が、槍を突きつけて立ちはだかった。
「ただの荷物とは思えん。魔導具か?危険物か?中身を改めさせろ!」
(ギクッ!中身チェックだと!?)
俺は冷や汗を流した。今の俺の中身は空っぽ。あるのは「さっき融合した銀貨」と、底にこびりついた汚れだけ。こんなスカスカの中身を見られたら、宝箱としての尊厳が死ぬ。
(嫌だ!俺はミミックだぞ!もっと金貨ザックザクになってから開帳したいんだよ!)
『報告。検問を突破するための新機能が実装されました』
(えっ?いつの間に?)
『逃走中の振動により、体内の「銀貨」と「鉄屑の残りカス」が融合。偶然にも魔力回路が形成されました』
(マジか!さすが異世界!で、何ができたんだ?)
『アイテム名:『怨嗟の拡声器』です』
(名前が不穏!……でも、背に腹は代えられない。それを使えば会話できるのか?)
『はい。貴方様の「心の声」を増幅して外部出力します。これで門番を説得(物理)しましょう』
(よし!じゃあ、威厳たっぷりに『我は貴き箱である、道を開けよ』と……)
俺がセリフを考えた瞬間、門番が痺れを切らして手を伸ばしてきた。
「ええい、黙っていろ!無理やりこじ開けてやる!」「ああっ、ダメです!箱様が穢れてしまいます!」
ルミナの抵抗も虚しく、無骨な手が俺の蓋にかかる。
(――ちょ、待て!やめろ!開けるなァァァ!!恥ずかしいィィィ!!)
俺の羞恥心とパニックが限界突破した、その時。新機能『拡声器』が火を吹いた。
『『『我ノ中ヲ……覗クナァァァァアアアア!!!(鼓膜破壊)』』』
ズドオオオオオオン!!!
「「「ぎゃあああああああああああ!?!?」」」
空気が震えた。いや、爆ぜた。俺の心の叫びは、地獄の底から響くような重低音デスボイスとなって、門番たちを音圧で吹き飛ばした。
「み、耳が……!なんだ今の声は!?魔王か!?」「ひぃぃぃ!祟りだ!呪いの箱が開こうとしているぞォ!!」
門番たちは槍を放り出し、泡を吹いて倒れ込んだ。周囲の旅人たちも、「聞いたら死ぬ声だ!」と蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
(ち、違う!今のはただの「恥ずかしいから見ないで」っていう悲鳴だ!)
俺の弁明は届かない。唯一、俺を抱えていたルミナだけが、恍惚の表情で頬を染めていた。
「すごい……。なんて魂に響くバリトンボイス……。これが、神の啓示……!」
(ルミナさん?耳、大丈夫?)
『解説。ルミナさんは「信者フィルター」を装備しているため、今の騒音が「天使の歌声」に変換されています。幸せな奴ですね』
(お前も他人事みたいに言ってないでフォローしろよ!)
騒然とする城門。恐怖で腰を抜かした門番長が、震える手で街の中を指差した。
「と、通れ……!頼むから、ここで開かないでくれぇぇ!!」
(……あれ?なんかVIP待遇で通れた?)
こうして俺は、「中身を見られたくない」という一心だけで、「絶叫する厄災の箱」として都市伝説入りを果たしたのだった。




