第3話 エルフの少女と「在庫」の事情
現れたのは、銀髪のエルフの少女だった。ボロボロの服、土色の顔。まさにテンプレ的な「行き倒れエルフ」だ。
「あう……。何か……食べ物を……。カビの生えたパンでも……」
少女は俺の前まで来ると、糸が切れたようにパタリと倒れ込んだ。
(おい!生きてるか!?総務、状況!)
『回答。栄養失調と魔力欠乏により、あと数十分で「エルフの死体(収納可)」になります』
(収納するな!ほら、さっき拾った干し肉だ!)
俺は蓋をパカッと開け、さっきの戦利品である「カサカサの干し肉」を彼女の口元へ吐き出した。ついでに、体内の底に残っていた「粘着液の残りカス(ベタベタ)」も一緒に出てしまった。
(あ、ヤベ。工業用ボンドが付いちまった。……まあ、死ぬよりマシか?)
『成分分析。あのボンドは高カロリーなので、弱った体には最高の栄養剤になります』
(どんな理屈だよ!)
少女は震える手で肉を掴み、野生動物の勢いで食らいついた。
「……んっ!……おいしい……!この独特の粘り気、濃厚な甘み……もしやこれは、伝説の『王家の蜂蜜』!?」
『いいえ、工業用ボンドです』
(黙ってろ!夢を見させてやれ!)
みるみる顔色が戻った少女――ルミナは、涙目で俺を見つめた。
「ありがとうございます、箱の神様……!あなたが助けてくれたんですね?」
(ガコッ!ガコオオ!)(おう、気にすんな!元気になったら行けよ!)
俺は「行け」と示すつもりで蓋を動かした。だが、ルミナは跪き、俺の無骨な鉄の角を服で磨き始めた。
「……汚れた体を拭け、と仰るのですね。はい、喜んで!」
(言ってねえよ!なんでそんな下僕根性なんだ!)
その時、洞窟の奥から怒号が響いた。「いたぞ!あの呪いの箱だ!ハンマーで叩き壊せ!」
(ゲッ、さっきの連中か!しかも仲間連れて戻ってきやがった!)
屈強な男たちが、工事現場のような巨大ハンマーを構えている。ルミナはサッと立ち上がり、俺を庇うように両手を広げた。
「ダメです!この方は私の恩人です!壊させません!」
(ルミナ……!お前、いい奴だな!でもその細腕じゃ無理だ!)
『提案。ルミナさんと雇用契約を結んでください。彼女にあなた様を「装備」させるのです』
(装備!?俺をか!?)
『彼女の魔力とあなたの「重量操作」をリンクさせれば、物理法則を無視した機動力が得られます。……やりますか?』
(やるしかないだろ!ルミナ、俺を持て!)
俺は中身の銀貨を一枚吐き出し、蓋を激しく開閉して自分の背中(底面)をバンバンと叩く音を立てた。
(ガコンッ!ガコンッ!)
ルミナはその動きを見て、ハッと目を見開いた。
「……私に、背負えと?共に逃げようと仰るのですか?」
(そうだ!早くしろ!)
ルミナがおそるおそる俺を持ち上げる。その瞬間、総務が淡々と告げた。
『リンク確立。スキル「超軽量化」発動。……さあルミナさん、風になってください』
「えっ?……わっ!?」
ルミナが軽く一歩を踏み出した瞬間――景色が消し飛んだ。
ドッピュウウウウウン!!!
「きゃああああああああああ!?速すぎますぅぅぅぅ!!」
まるでロケットエンジンを背負ったかのような加速。俺たちは一瞬で男たちの頭上を飛び越え、洞窟の壁を垂直に駆け抜けていく。
「な、なんだあいつら!?箱が飛んだぞ!?」
(すげぇ!これがエルフの身体能力×無重力か!いけルミナ、街までぶっちぎれ!)
猛スピードの振動で、俺の中身が激しくシェイクされる。
『あ、シェイカーの振動により、内部の「銀貨」と「鉄屑の残りカス」が融合を始めました。……おめでとうございます、また変なゴミが生成されそうですよ』
(だからその報告いらねえって!)
こうして、俺とエルフの爆速逃避行が始まった。




