第2話 在庫処分は計画的に
足音が近づいてくる。二人組だ。俺は覚悟を決めた。相手が誰であれ、こっちは魔物。やられる前にやる!
(よし、先手必勝だ!蓋を開けてガブッといってやる!)
『却下します』
(あ!?なんでだよ!)
『警告。蝶番が錆びついています。蓋を開けると「キィイイイイ!!」というクソデカい音が鳴り響きます。不意打ちは物理的に不可能です』
(メンテナンスしとけよ!!)
俺たちが脳内で揉めている間に、冒険者たちが姿を現した。いかにもチンピラ風の剣士と、眼鏡をかけた小柄な男だ。
「おい見ろよジャック!宝箱だ!」「マジか、こんな浅い階層にか?ついてるぜ!」
二人は疑いもせず俺の前に跪く。眼鏡の男が、古びたレンズを俺に向けた。
「待て、罠かもしれねえ。『鑑定』する」(ヤバい!バレるか!?)
『通知。相手が鑑定スキルを発動。……あ、おめでとうございます。相手の鑑定道具がポンコツすぎて、あなた様を「ただの古い木箱」と誤認しました。ラッキーでしたね』
(敵の無能さに助けられた!)
「なんだ、ただの箱か。鍵もかかってねえな」剣士のジャックが、下卑た笑いで俺の蓋に手をかける。「中身は金貨か?魔導具か?さーて、ご対面だ――」
(今だ!食らえ、俺の在庫一斉処分セール!!)
俺は気合と共にスキルを発動した。「死ねぇええ!」と叫びたいが声が出ないので、心の叫びを物理演算に乗せる!
ガゴオオオオオオンッ!!!
『スキル『在庫処分』、最大出力。……行ってらっしゃいませ』
ドババババババババッ!!!
俺の中身が、圧縮されたバネの勢いで炸裂した。射出されたのは、前任者が溜め込んだ「錆びた鉄屑」。それが至近距離で散弾銃となり、剣士の顔面を直撃する!
「ぎゃあああああああ!?痛ってぇ!?な、なんだこれ、ゴミ……!?」(まだだ!メインディッシュもあるぞ!)『追撃。産業廃棄物を投入します』
ベチャアアアアアアッ!!
鉄屑に続いて飛び出したのは、ドロリとした紫色の液体――『工業用粘着液』だ。
「ぶべらっ!?ぐあ、目が!手が顔にくっついて取れねえええ!」「な、なんだこの匂いは!?」『解説。摩擦熱で温まったボンドです。ちなみに剥がす時は皮膚も一緒です』(エグいことサラッと言うな!)
「ひ、ひぃぃっ!呪いだ!呪いのゴミ箱だあああ!!」
顔面を鉄屑とボンドでコーティングされた剣士は、悲鳴を上げて逃げ出した。相棒もそのあまりの汚い攻撃にドン引きし、一目散に走り去っていく。
(はぁ……はぁ……。か、勝った……のか?)
『戦果報告。撃退数2名。なお、在庫は全て吐き出しました。おめでとうございます、ただの空き箱に逆戻りです』
(言い方!……あ、待て。あいつら何か落としてったぞ)
地面には、慌てて逃げた剣士が落とした「銀貨3枚」と「干し肉」が転がっていた。
(総務!これ収納できるか!?)
『了解。……はい、入庫完了。不燃ゴミから「小銭入れ」にランクアップしましたね』
(干し肉をゴミ扱いするな!……ん?待てよ)
体内に取り込んだ銀貨が、底に残っていた鉄屑のカスと触れ合い、奇妙な熱を帯び始めている。
(なんか銀貨と鉄屑が……混ざってないか?)
『……確認中。ああ、あなた様の体内の魔力で練り合わされていますね。ゴミと銀貨が融合して、何かの「基板」になろうとしています』
(え、何それ。ゴミからハイテク機器ができるの?)
期待に胸を膨らませたその時、再び足音が聞こえてきた。今度は静かで、必死な足音だ。
『通知。前方より、空腹で死にかけの生命体が接近中。……エルフの少女ですね』
(エルフ!?なんでゴミ捨て場にエルフが!?)




