第二章:少年
掲示板の前に立ち、いくつもの依頼票を順に見ていく。
採取系、討伐系、護衛系、その他……。
種類ごとに分ければそんなところか。
“魔物素材”と書かれた紙が多い。
魔物は倒しても塵になって消えるわけではない。その残骸から得られる素材は、今や世界の技術や生活を支える生命線となっている。
人々の暮らしを守るために、異形の力を利用する。
……皮肉な話だ。
そんなことを考えながら次々に目を通していくと、
ふと、一枚の依頼が目に留まった。
『常磐市から、水の都エレオノールまでの護衛、及び現地での一週間の警護依頼』
「おぉ……!?」
声が漏れた。
急にファンタジー小説のタイトルみたいな響きだ。
“水の都エレオノール”──人の名前のようでもあり、どこかで聞いた覚えがある気もする。
……気のせいか?
「ぐっ……気になる。あまりにも魅力的すぎる……!」
エルンテリアの街にもだいぶ慣れたが、“水の都”なんて単語を出されたら反応せずにはいられない。
王道も王道だ。もう行くしかないだろう!
「よし、悩む時間がもったいない。これに決めた!」
勢いで申請ボタンを押した、その瞬間
『申し訳ありません。登録名 高坂圭 様は当依頼の受注条件を満たしていないため、申請が却下されました。
以下、未達項目:ランク条件 シルバー級以上。』
「…………」
電子音が静かに鳴り、俺はその場で崩れ落ちた。
肩から力が抜け、まるで床に吸い込まれるように項垂れる。
「くそっ……! 興奮して条件見てなかった……!
最初に絞り込みすべきだった……!」
思わず小声で自分に突っ込んでいると、
横からおずおずと声がかかった。
「あ、あの……もしかして、その依頼を受けようとしてたんですか?」
顔を上げると、そこには茶色の短髪の少年が立っていた。
年の頃は十六、七といったところか。
元気そうな外見に反して、どこか翳りを帯びた表情をしている。
瞳の奥に、何かを抱え込んだような静けさがあった。
「えぇ……ただ、ランクが足りないようで……はぁ……。」
思わず項垂れる俺に、隣の少年が静かに声をかけた。
「……珍しいですね。ウッド級で、こんな面倒な依頼を受けようとするなんて。立てますか?」
差し出された手は細く、それでも確かな力がこもっていた。
その手を握って立ち上がると、ほんの少しだけ温もりが伝わる。
「ありがとうございます。すみません、これから初めての依頼でして、良さそうなのを探してたんですよ。」
「そうなんですか。」
少年は頷くと、わずかに視線を逸らした。
「でしたら……どうです? 一緒に討伐依頼に行きませんか?」
「えっ、俺は助かりますけど……いいんですか?」
「はい。自分より下のランクのメンバーを連れて行くと、評価も高くなりますから。」
そう言って軽く笑う。
彼の首元にかかるプレートが、霊脈灯の光を受けて鈍く光った。
鉄色──アイアン級。俺のひとつ上だ。
んー…。話は分かる。理屈も合っている。
……けれど、どこか胸の奥に引っかかる。
言葉の端々に、妙な“重さ”を感じるのは気のせいだろうか。
まあいい。受けてみて、考えればいいか。
「じゃあ、ぜひお願いします。俺は後衛で──高坂圭です。」
「そうか、よろしく。俺は──リオネル、 前衛かな?気軽にリオでいいよ。」
リオネルは軽く笑い、掲示板に視線を戻した。
その横顔には、年相応の明るさよりも、どこか遠い過去を見つめるような影があった。




