第二章:鹿島支部長
「まずは──英雄、高坂様が鹿島家にどのような形で伝わってきたかを、お伝えいたしましょう。」
鹿島支部長は深く息を吐き、執務室の黒革ソファにゆっくりと腰を下ろした。
窓の外では朝の光が静かに瞬き、重厚な木の机にその反射が淡く揺れている。互いに、聞きたいことがあった。
言葉の温度を慎重に測りながら、鹿島は語り出す。
「我が先祖剛は、あなたと出会い、そして救われました。一度目は群れとの共闘において……そして最後には、未だ史上最大級とされる魔物から命を救われたと。」
「……剛さんは、あれが俺だと分かってくれたんですね。」
圭の問いに、鹿島は穏やかに頷いた。
その目には、誇りと敬意の両方が宿っている。
「ああ。あの戦いは、まるで神話の一頁のようだったと伝えられています。そして“あの救いの神が誰であったのか”を語り継ぐことこそ、自らに課された責務だと……剛はそう感じたのです。」
なるほど、予想はしていた。
だが、胸の奥にじんと熱が広がる。
自分が踏みしめたはずの過去が、五百年の時を越えて“記憶”として受け継がれている。
ここまで復活がスムーズにいったのも、きっと剛が遺した繋がりのおかげだろう。
感謝してもしきれない。
「剛はその後、能力を活かし、旧日本を守り続けたと記録にあります。あなたには及ばぬものの、数々の武勇伝を残した、まさしく勇者でした。」
鹿島の声は静かだったが、そこには確かな誇りがあった。
血脈の奥に宿る「英雄との縁」。
それは彼にとって、家名ではなく“生き方”そのものなのだろう。
圭は小さく息を整えた。
「……そうですか。あの時の彼が、今もこうして語られているなんて……不思議な気分です。」
言葉を交わしながら、圭の心には微かな温もりが灯っていた。
過去は、決して消えない。
人の記憶と想いがある限り、それは確かに生き続けるのだ。
「まぁなんと言っても、勇者とされる《光輝燦然》の能力ですからね。私も、その血を継いでいます。」
鹿島支部長は穏やかに笑みを浮かべながら、机の上に置かれた戦斧のミニチュア模型を指先で撫でた。
その動作に、まるで誇りと祈りが宿っているように見えた。
「え、能力って遺伝するんですか?」
「はい。稀ではありますが…。ただ、光輝燦然のように“強く”遺伝する例は、極めて少ない。」
「……そうなんですか。」
圭は思わず息を呑んだ。
遺伝──つまり、能力が血脈を通じて受け継がれる。
その仕組みが本当に可能なら、この世界の「霊脈」や「生命力」の理解は相当に進んでいるはずだ。
どこまで研究が進み、どこまでが未解明なのだろう。
ふと、ひとつの疑問が浮かぶ。
「それに……その言い方だと、《光輝燦然》には他の“型”もあるんですか?」
「その通りです。」
鹿島は頷き、目を細めた。
「私が受け継いだ戦斧を含め、七つの武具が確認されています。いずれも聖なる光を宿した武具であり、かの大勇者エレオンも、そのひとつを手にしていたと言われている。」
「七つの……。」
圭の頭の中に、淡く輝く光の残像が浮かぶ。
それは、神話の欠片のように形を持たないが、どこか懐かしい気配があった。
「むむ……まだまだ知らないことばかりですね。」
つい、笑いながら呟いていた。
鹿島も同じように笑い、重々しかった空気が少しだけ和らぐ。
気づけば、壁の時計は昼をとうに過ぎていた。
話の目的も忘れるほど、二人は夢中で語り合っていたのだ。
「おっと……つい話し込んでしまいましたね。」
鹿島支部長は壁の時計を見上げ、少しばつが悪そうに笑った。
昼下がりの陽光がブラインドの隙間から差し込み、机の上に柔らかい光を落とす。
「本来は別のご用件もあったはずですし、この辺りでお開きにいたしましょう。」
「はい。いい話が聞けました。ありがとうございました。」
圭が軽く頭を下げると、鹿島は手を振ってそれを止めた。
「もったいないお言葉を……。ああ、それと。」
ふと、鹿島の表情がわずかに崩れる。
威厳に満ちた支部長の顔から、どこか人懐っこい笑みへと変わっていた。
「連絡先を交換しておきましょう。月影よりは、私の方が身近でサポートできるはずですよ。」
そう言って、鹿島はニヤッと笑った。
その笑みには、かつての剛が圭に向けたものと同じ「信頼」と「親愛」の色が、確かに宿っていた。
圭は思わず口元をほころばせながら、自身の端末を差し出す。
通信が繋がり、小さな電子音が鳴った瞬間、
五百年の時を越えて再び結ばれた“縁”のように感じられた。
「では、今後ともよろしくお願いします。」
「こちらこそ、高坂殿。」
鹿島が立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
圭もそれに応えて執務室を後にした。
扉を閉めると、静かな空気が背中を押した。
急な訪問だったが、得るものは大きかった。
さて、当初の予定に戻るとしよう。
今日のところは、気ままに依頼をひとつ受けてみるか。
廊下の先、白い光に照らされた掲示板が見える。
さて…これからの予定が決まる、大事な選択だ。クエスト見てる感じでわくわくするな…!




