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間章:輪廻の果て

お待たせしました!次回から第2章です。


「行っちゃったね…」



「はい。行ってしまいましたね。」



夕日が枝葉の隙間からこぼれ、金色の光が彼らの頬を染めていた。かの英雄の背は、ゆっくりと、しかし確かに遠ざかっていく。

ネクサス13の面々は、その背中が完全に見えなくなるまで、静かに見つめていた。



「なーんか!なんというか現実味がない時間だったね!!」



「そうだね。最後の方は忘れてたけど、圭、英雄だしね。」



「忘れてたんですか!? 私は緊張しっぱなしでしたよ…。ああもう、変な人だと思われてなければいいんですがっ…!」



彼らが教本で学び、伝承で語られてきた英雄像とは、あの青年はまるで違っていた。

誇張された神話の人物でも、奇跡を振るう絶対者でもない。

ただの一人の人間——不器用で、優しくて、どこか放っておけない。

高坂圭という男の存在が、“時代が動いている”という非現実さを、逆に少しだけ現実に引き戻してくれていた。



「まぁ…ふふ。静香は寝起き見られてるし、少なくとも警戒なんかはされてないんじゃない?」



「確かに、恋する乙女みたいで可愛かったね。ふふふ…。」



「はい、私は今から人を二人殺すことになりました。お覚悟を!!」



「きゃー!!静香が怒った!!」



枝の隙間から風が抜け、笑い声が空にほどけていく。

英雄が去ったあとも、彼らの中には確かに温かいものが残っていた。

それはまるで、陽だまりのように心を満たす余韻だった。



女性陣のはしゃぎ声が響く中、鷲尾は呆れたようにため息をつき、手際よく後処理を始めていた。



「これでもっ! 私は年上なんですよ!? 少しは敬うとか、ないんですか!」



静香が頬を膨らませると、千歳は楽しげに笑いながら肩をすくめる。



「え〜? 静香ちゃんはうちらのアイドルだよ? 尊敬もしてるってば!」



「そんな“ついで”みたいに言わないでください! バカにしてるでしょう!?」



「そこまでにしなよ。……鷲尾がそろそろ怒るよ。」



その言葉に三人の視線が揃って鷲尾へ向く。

彼はこめかみを押さえ、ぷるぷると怒りを堪えていた。



「はぁ……。めんどくせぇが、後始末までやって任務完了だろうがよ。」



重い空気を誤魔化すように、皆が動き出す。護送の手配、現場の封鎖、報告書の作成。

すべてが終わるころには、日が完全に沈み、街灯の明かりが地面に長い影を落としていた。


帰り道。静香も鷲尾の車に乗り込み、拠点へと戻る車内には、少しの疲労と静けさが漂っていた。



「たった一日だったのに……いなくなると寂しいね。」



「ほんと、濃い一日だったね〜。圭くんもそうだけど、あの気持ち悪い黒い人とかさ。」



ハンドルを握る鷲尾の横で、静香が少しだけ目を細めた。



「それについては、仮説ですが──考えがあるんです。」



車内の空気がわずかに引き締まる。

不気味な心臓、黒く塗りつぶされたような異様な身体。

原本では、社長・奥田國久にそんな能力はなかったはずだ。

おそらく、第三者による干渉──あるいは、それすら超えた“何か”が関わっている。



「黒い姿はともかく、あの腕が膨れ上がる能力……。あれはかつて極刑を受けた、有名な能力犯罪者のものと酷似していました。」



千歳が目を丸くする。



「あー、知ってるかも! “巨腕の”……なんだっけ、あの人? それに似てたの?」



「“巨腕の断罪者(ギガントアーム)”、ですね。資料で見た限りでは、ほぼ同一でした。」



静香の冷静な声が、車内の熱を奪っていく。

短い沈黙のあと、鷲尾がぽつりと呟いた。



「つまりなんだ?あの気色悪い黒い奴は、死者ってことか。」



その一言に、全員が息を呑む。

外を流れる夜の街並みが、どこか別の世界のように見えた。




◇◇◇◇◇



そこは、暗く、深い場所だった。

光も、音も、記憶さえも届かない。

ただ、永遠に落ちていく感覚だけが存在する。


──暗く。暗く。

その最果ての隅に、一匹の害虫が蠢いていた。

虚無を喰らい、終わりなき飢えを抱えたまま。



「……ルーメル、消えたの?」



女の声は空気を震わせることなく、ただ闇に溶けた。

吐息のひとしずくまでもが、音もなく飲み込まれていく。



「違う……まだ感じる。でもこれは、混ざっている……」



ボロボロのローブが、虚無の風にわずかに揺れる。

その隙間から覗く白い肌は、光を知らぬ艶を放ち、

美しさよりも、不穏さを際立たせていた。



「……お父様。出来の悪い弟には、少し“お説教”が必要ね。」



その声は甘く、しかし底なしの冷たさを孕んでいた。

やがて虚空が軋み、暗闇が蠢く。


世界は変わらず回り続ける。

輪廻の輪が、何度も何度も重なり、擦り切れていく。

けれどその円環の終点には、必ず「死」がある。


だからこそ───


死神は、静かに、目を開いた。


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