第一章:討魔士試験・面接
建物はまるで市役所のような端正さを持ち、清潔なガラス張りの外観が朝の光を反射していた。広いエントランスには大きな自動扉が構え、そこから中へと足を踏み入れる。
「そうだ……大和支部長に会った方がいいかな。」
ふと胸に浮かぶ。昨日、腰を据えて話そうと約束したばかりだった。
「はい。ただ、そこまで時間の余裕は無いかと……。」
静香は落ち着いた声で答える。
「確かにね。ゆっくり話すのはまた後日になりそうかな。……まぁ、挨拶だけでもしておこうか。」
「そうしましょう。受付はあちらですね、伺ってみましょうか。」
彼女の指差す先へ歩み寄る。広々としたホールには、ひと目で「討魔士」と分かる者たちが集っていた。背中に大きな武器を背負い、戦場に出てもおかしくない出で立ちの男。電子掲示板を食い入るように見つめ、任務を吟味している者。膨らんだ鞄を抱えて列に並ぶ若者たち。
まるでアニメや小説で描かれる“冒険者ギルド”を現代風にしたような光景。違うのは、整然とした機械や電子機器が至るところに据えられていることぐらいだ。
「おはようございます。こちらは討魔士組合入団試験の受付でございます。ご要件をお伺いします。」
笑みをたたえた受付の女性が丁寧に声をかけてくる。
「おはようございます。すみません、鹿島支部長はいらっしゃいますでしょうか?」
静香が少し身を乗り出して尋ねる。
「支部長ですか……。申し訳ございません。ただいま鹿島支部長は不在でございます。」
受付の女性は困ったように眉を下げて答えた。
やはり、昨日の今日で顔を合わせるのは都合がつかなかったか。仕方がない。
「そうですか、ありがとうございます。──では高坂さん、こちらで試験の手続きをお願いします。私は資料庫に寄っていますので、終わり次第合流しましょう。」
「わかった。受付の方、今から試験の手続きは可能ですか?」
「はい、もちろん可能です。書類にご記入いただく必要がございますので、あちらのテーブルでお待ちください。」
受付嬢が柔らかく微笑む。
……いよいよ試験か。
常識に疎い自覚があるぶん、不安も大きい。だが、ここを越えなければ討魔士として歩み出すことはできない。
その後、用意された書類に簡単な記入を済ませると、流れるように面接へと移ることになった。
廊下を渡り、奥の扉の前に立つ。
──えっと、面接のノックは3回、だったよな?
曖昧な記憶を頼りに拳を軽く扉へ打ちつける。
「失礼します。本日面接で参りました、高坂圭です。」
声を張った瞬間、ふと──。
あれ、返事を待ってからだったか? 就活の経験なんてなかったから、勝手が分からない。
「ははは。どうぞ、お入りください。」
扉の向こうから朗らかな声が返る。慌てて姿勢を正し、取っ手を引いた。
「失礼します。」
入室すると、正面には二人の面接官が座っていた。ひとりは五十代半ばほどの、落ち着きと威厳を備えた女性。もうひとりは二十代そこそこの若い男性で、机の上に置かれた端末を操作している。
「やあ、高坂氏だね。部屋に入る前から挨拶だなんて……討魔士の面接でそんな律儀な人、久しぶりに見たよ。」
女性が目を細め、楽しげに微笑む。
「そ、そうでしたか……。失礼いたしました。」
思わず頭を下げるが、彼女は首を振った。
「いや、むしろ好印象さ。そもそも、この試験はよっぽどのことがなければ合格できる。だからこそ、あんたみたいに礼節を大事にする人は珍しいんだよ。」
そう言って彼女は椅子から立ち上がり、軽く胸に手を当てて名乗った。
「私はこの討魔士組合・常磐支部で面接長を務めている、神宮寺沙羅だ。短い時間だが、どうぞよろしく頼むよ。」
声には柔らかさと同時に、揺るがぬ芯のようなものが宿っていた。
いよいよ始まる面接に、改めて気合を入れ直す。
「そこに座りな。早速、質問を始めるよ。まず──討魔士になろうと思ったきっかけは?」
神宮寺が眼鏡の奥からこちらを見据え、落ち着いた声で問いかける。
きっかけ……。
本音を言えば、この国で魔物を倒すために“形式上”資格が必要だから。でも、そんなことをそのまま口にできるわけがない。
「はい。私の能力は魔物の討伐や救助に向いていると考えております。世界のために、魔物退治で少しでもお役に立てればと。」
自分でも硬い答えだと思う。だが神宮寺は頷き、すぐに次の問いを投げてきた。
「ほう、向いていると。……まあ、実際に戦闘系の能力なら問題ないしね。どういった能力なのか、実践前に聞かせてもらえるかい?」
「はい。主にエネルギーを照射して攻撃したり、怪我を癒やすことが可能です。どちらかといえば、回復のほうが得意ですが……。」
少しだけ言葉を濁す。
討魔士組合が能力証明書をどこまで閲覧できるのかは分からない。けれど嘘は言っていないからな。
「回復……か。珍しい能力だね。だとすれば医療施設に就職する道もあったと思うが、それでも討魔士を選んだ理由は?」
「……現場で直接、戦いながら人を助けることができるからです。そのほうが自分の力を活かせると考えました。」
「なるほどね。」
神宮寺は口元に微笑を浮かべた。
「まあ、どうせ能力証明書で確認はするし、実践試験を見れば一目瞭然だ。これはあくまで記録のための質問さ。」
──やっぱり確認されるんだな。
変にぼかす必要はなかったのかもしれない。まぁ国が管理する組織なら当然だろう。
その後もいくつか質問が続いた。簡単だと聞いていたはずなのに、意外と突っ込んでくる。緊張で肩がこわばってくる。
やがて、神宮寺が端末を閉じる音がした。
「よし、面接はこれくらいだ。次は実践試験だね。演習場まで行こうか。」
「承知しました……。」
深く息を吐く。なんとか終わった。だが、本当に気を張るべきはここからだろう。
星界評議殿での反応を見る限り、俺の能力は一つ頭抜けている。……だが、英雄だと持ち上げられるのは混乱を招くらしい。
今はただ、余計な波風を立てず、つつがなく合格することだけを考えよう。




