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第一章:討魔士組合へ

任務のおおよその確認を終え、俺と静香は今、無人タクシー、──キャビンと呼ばれる乗り物に揺られていた。

街路をかすめるように滑る車体は、昨日首相と乗った空飛ぶ車に比べればひと回り小ぶりで、地をすれすれに移動する。閉ざされた車内には、機械の律動とわずかな振動だけが響いている。



「キャビンは割高なんですが……。すみません、ホバーボードは苦手で。」



向かいに座る静香が、気まずそうに目を伏せながら口にした。


確かに彼女の声色は、どこかよそよそしい。緊張を押し隠しているのがわかる。



「そ、それにエアトラムは人が多いですし! 仕方のないことなんです……。」



エアトラム──上空から見かけた、モノレールに似た乗り物のことか。なるほど、公共の交通は発達しているようだ。

……それにしては、なぜ彼らはあんなボロい車で移動していたんだろうか。まぁ、深入りするのはやめておこう。



「気を遣ってくれて、ありがとうございます。」


「け、敬語はいらないです!! 私は普段から誰にでもこうなので、気にしないでください!」



思わず身を乗り出す静香。その勢いに俺は少し驚いたが、どうやら全員、敬語を外しても良さそうだ。



「うん、ありがとう……。ええと、試験のこと、聞いてもいい?」



気まずさを払うように話題を振る。どうせ聞かねばならないことだ。


静香は一瞬たじろぎながらも、真剣な顔で答えた。



「討魔士の試験ですね。今回受けるのは一般入団試験で、いつでも受けられるものです。」



内容はいたってシンプルらしい。簡単な面接と能力の実演、それだけ。戦闘系の能力なら、よほどの問題がない限りはほぼ合格するとのことだった。



「能力は大まかに戦闘系と非戦闘系に分けられ、黒紙によってそこからさらに階級や属性に分類されます。……ちなみに私は非戦闘系です。」


「なるほど……。そういえばまだ、自分以外が能力を使うところを見たことがないな。」



街では空を飛ぶ人や角を生やした人を目にしたが、実際に能力を披露される場面には立ち会っていなかった。



「そ、それでしたら……私の能力で良ければ、お見せしますよ。」


「え、いいの? 重要個人情報だとか言ってたけど。」


「はい。あれはあくまで、黒紙を無理やり覗かれないための法です。本人の意思で見せるのは自由なんです。」


「それなら、ぜひ。正直、すごく興味あるし。」


「はい……! では、高坂さんの私物をひとつ、お借りしてもよろしいでしょうか?」



まだこれといった持ち物はなかったが、とりあえずハンカチを差し出した。



「では、失礼して……。」



静香はそれを両手で包み、そっと目を閉じる。次の瞬間、掌から淡い青の光が溢れ出し、狭い車内を満たした。


セイラが言っていた霊力の輝き──能力を行使する際に必ず伴うという光。それが彼女の場合、この清らかな青色なのだろう。



「……はい、終わりました。ふふ……。」



意味深な笑みを浮かべて、彼女はハンカチを返してきた。



「えっと、どういう……?」



困惑して問いかけると──



「高坂さん、昨晩は涼さんと、随分親しくなられたようですね……?」


「えっ……。」



背筋が凍った。なぜ知っている? 

しかも目が怖い!うっすらと笑んでいるのが、余計に恐ろしい。

変なことはしてないが…。


──だが、そうかこれが。



「はい。これが私の能力──『追憶読取メモリア・リーディング』です。物に宿る記憶を読み取り、時には映像のように再現することができます。……これでも私、階級はAなんですよ?」


静香は穏やかに微笑んだ。だがその笑みの奥に、妙な迫力が潜んでいて……やっぱり少し怖い。




ほどなくしてキャビンが停車し、自動ドアが音もなく開いた。外は昨日ほどではないが、通りには人々が行き交い、それなりに賑やかだった。


俺は自然と先に降りて、静香へと手を差し伸べる。

エスコートなんて慣れていないが……まあ、形だけでも。



「えっ……あ、ありがとうございます。」



戸惑いを含んだ声とともに、静香の細い手がそっと重なる。

俺が軽く支えると、彼女の足が地面へと触れた。



「………」



静香は言葉を失い、驚いたように俺を見上げた。その瞳はまるで、想定外の何かを目にしたように揺れている。



「静香?」


「へっ? あ、いえ……なんでもないです。行きましょうか。」



慌てて取り繕うように視線を逸らす静香。その頬は、うっすらと朱に染まっていた。


気になる仕草だったが、今は深く問うべきではないだろう。

俺は彼女と並んで歩き出す。



そうして二人は討魔士組合の門をくぐる。

そのとき──静香の手には、まだ淡い青の光がほのかに残っていた。

だが圭は、それに気づくことなく歩を進めていた。


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