表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/44

第一章:ルーメル



彼──ルーメルに出会ってから、約五百年の時が経った。


いつもの時刻に目を覚まし、きしむベッドから体を起こす。アルカディアでの日々は、修行と学びに満ち、やるべきことが無尽蔵にあった。気がつけば時は流れ、五百年という年月も、それほど長くは思えない。


額に浮いた寝汗を、掌ひとつで払うように魔法で清める。

温かな風が肌を撫で、汗の膜が霧散する感覚は、この地に来てからの日常の一部になっていた。



「よしっ、と。──フーフェ!今日はキノコ料理が食べたいな!」



寝間着を着替えながら声をかけると、家の奥から『〜♪』と明るい音が響く。

花の姿をした「家族」──フーフェが身体を捩らせ、任せて!と言わんばかりに色を揺らした。圭はその仕草に微笑みながら、今日の予定を頭の中で並べていく。



「んー……母神様は今日は眠りの日だし、霊脈の勉強もひと通りやり切ったしな……。具現化の練習でもしてみるか。」



アルカディアでの暮らしは、ひたすら修行と学びの連続だった。


生命魔法の本質は、ルーメルが感覚で掴み取っているため、体系的に教わるのは難しい。だから圭はいつも、母神や他の神々から理論を学び、ルーメルからは核心の“感覚”を時折授けてもらっていた。


──あの人は、師とも友とも呼べる、不思議な存在だ。


そう思いながら食卓につき、フーフェの作ったきのこシチューを口に運ぶ。滋味深く、それでいて爽やかな香りが鼻を抜け、自然と表情が和らいだ。


食後の余韻に浸っていると、家のベルが三度、澄んだ音を立てて鳴った。

この音色──森の眷属(ドリュアス)の来訪を告げるものだ。



「はーい、今行きます。」



皿を下げて玄関に向かい、きしむ扉を押し開けると、案の定そこには深緑の髪を肩まで垂らした女性が立っていた。神話の絵画から抜け出したように凛とした美しさを湛えた、ドリュアスの一人だ。



「おはようございます、圭様。……朝早くに失礼いたします。」



「はい、おはようございます。えっと……今朝はどうされたんですか?」



女性はどこかためらうように、しかしきちんと目を合わせて告げた。



「その……生命神様がお呼びです。ご一緒いただけますか?」



複雑な表情を浮かべる彼女の口調に、普段とは違う緊張が滲む。

ルーメルは、いつもなら自ら圭の元に現れる。──だからこそ、今日は何か特別なことがあるのだと察した。



「……わかりました。わざわざありがとうございます。もう支度は済んでいるので、今から参りましょう。」



圭は軽く微笑んで答えながら、胸の奥に生まれた小さなざわめきを抱えたまま、ルーメルのもとへと歩みを進めた。





ドリュアスの案内で、森の奥深くへと進んでいく。木漏れ日が差し込み、苔むした地面は湿り気を帯びて柔らかく、風が木々を揺らすたびに葉の間から淡い光の筋が零れる。鳥たちのさえずりと遠くで水が跳ねる音が、まるで森そのものが息をしているかのように響いていた。


やがて視界が開けると、一面の花畑が広がり、無数の色彩が風に揺れて揺蕩う。花々の香りが空気に溶け、心をそっと撫でる。その中心で、彼は背を向け立っていた。背筋は真っ直ぐで、存在そのものが静かに空間を支配しているかのようだった。



「おはようございます、ルーメル。」



その声に、彼はゆっくりと振り向く。静謐でありながら威厳を秘めた佇まいは、ただ立っているだけで森と花畑全体を祝福しているかのようだった。


花々が揺れ、森がさざめく。普段は賑やかな鳥や動物たちも、今だけは静かに、圭とルーメルの間に生まれる時間を待つかのように息をひそめていた。



「圭。そろそろ、起きる時間みたいだ。」



ルーメルの微笑には、寂しさと覚悟、労りと愛が同居していた。圭は息を呑み、深く頷く。



「…ついに、回復が終わったんですね。」



「あぁ…。ほんとにつつがなくね。」



現実の身体は500年前、力を失った蛹のように枯れ果てていた。しかし、最後に作り出した神聖なる樹の幹の元で、ゆっくりと再生を続けていたのだ。500年の時を経て、身体が回復したということは、神聖なる樹が無事であることの証でもあった。


ルーメルは花畑をふわりと歩み、圭の前に立つ。その所作は軽やかでありながら、圧倒的な存在感を放つ。



「私にとっては、ほんの数百年といった所なんだがね。君にとっては、どうだったかい?」



アルカディアでの日々を思い返す。最初は新鮮で楽しげな絵本の世界のようだったが、やるべきことは膨大で、壁にぶつかることも、神々の怒りを買うこともあった。時には求婚までされることもあったり…。

彼らにとってはわずかな時間でも、圭にとっては生きていた頃より遥かに長い日々だった。



「………。ルーメル様は、話がいちいち抽象的なんですよ。」



「…えっ。」



目を見開き、少し驚いた表情を浮かべるルーメル。



「母神様は世話焼きすぎですし、地神様は頑固ですし。花神様は不法侵入してくるし、太陽神様に限っては………」



溢れる500年分の思い出と想いを、圭は口にする。言葉にできないほどの日々の積み重ねが、今ここで圭の心を揺らしていた。



「それでも、みんな、大好きな家族です。」



自然と笑顔が零れ、涙が頬を伝う。言葉少なにしても、この時をもって別れが来ることを圭は理解していた。



「はは、君の子供らしい所は、久しぶりに見た気がするね。」



細く温かい手が、圭の頭を優しく撫でる。その感触に、長い時を共に過ごしてきた記憶が滲み出す。



「500年前、君を見つけてから今に至るまでで確信したよ。君はやっぱり、世界を救う救世主だ。この僕が選んだんだ、当たり前だけどね。」



いたずらっぽく微笑むルーメルの顔に、深い優しさを感じ、圭の胸にさらに強く想いが込み上げる。



「私の使命は託した。それに力の使い方も完璧だ。この短い時間でよくここまで育ったね、人間はやはり強い。」



それから、この昂ぶる想いを落ち着かせるため、少しだけ、かの生命神たるルーメルの胸に身を委ねた。思えば、なんて贅沢なことなのだろう。



「…もう、大丈夫です。覚悟を決める時間は、有り余るほどにありましたから。」



拳に力を込める。今、見据えるべきは過去ではなく、まだ見ぬ未来──。


神々は不滅である。だから彼らにとって「別れ」という概念は希薄で、時間の感覚も人間とは大きく異なる。今ここで家族らと別れの挨拶を交わせば、きっと不興を買うだろう。そう、この瞬間そのものが、俺にとっての最後の別れなのだ。



「君は強い。そしてその魂を、私たち──アルカディアは、心から祝福する。」



圭とルーメルは花畑の中心で向かい合う。周囲の花々が揺れ、風が緩やかに旋律を奏で、太陽の光が二人を包み込む。世界は静謐で、しかし確かに祝福に満ちていた。



「さて…。始めようか。」



ルーメルは慈愛に満ちた瞳を圭に向け、自らの胸に手を当てる。



「私の全てを、君に──。」



彼と初めて出会った日から、決めていたことだった。身体の回復が完遂し、圭が十分に能力と知識を身につけて目覚めるその瞬間、生命神ルーメルの力の「核」を圭に譲り渡すのだ。



「これで、私たちは──お別れだ。不滅たる神々であっても、その核を失えば、存在は消え去る。」



ルーメルの手の中には、これまで見たこともないほど暖かく、光り輝く魂が握られていた。その光は静かに、しかし圧倒的な力をもって圭の胸に吸い込まれようとしている。


お互いに覚悟は決まっていた。心はすでに通じ合い、言葉を超えた理解がそこにあった。



「ルーメル。あなたの使命は、必ず、果たしてみせます。」



枯れたと思っていた涙が再び溢れる。光は圭の胸に吸い込まれ、全身を満たすその瞬間、ルーメルは微笑みを絶やさなかった。世界は、静かに、そして確かに、新しい時代の幕開けを祝福していた。



二人の身体は、ゆっくりと光となり、アルカディアから溶け出していった。その光は互いに絡み合い、触れ合い、混ざり合いながら、神々や動物、植物たちを静かに照らす。言葉にせずとも通じ合う意思。無言の理解。互いの魂に宿る信頼と覚悟が、光の粒子となって世界を撫でる。これからは、人間の住まう現実でも、生命神はその光を届けるのだろう。



その光景の先、視界に収まりきらぬほど太い幹に横たわる英雄が、長い眠りからゆっくりと目を開ける。光の余韻に包まれ、体中に漲る力が目覚めを告げる。



500年前、創造神が作り出したシステムの中で曖昧極まりなかった存在は、今や明確な輪郭を帯びていた。握られた黒い紙には、以前は表示されなかった情報が静かに浮かび上がる。



─────────────────────


「能力:生命神」

「階級:S+」

「属性:【神性】/【起源】/【概念】」

「ステータス:表示可能」

【生命力:S+】

【霊脈量:S+】

【総合身体能力度:通常比100〜%】

【能力技:10件記録《生命魔法(全)》《吸収》《凝縮》《放出》《付与》《変換》《生成》《再生》《因子干渉》《精神世界》】

【能力熟練度:Lv.MAX】



─────────────────────



長い眠りの間に磨かれ、膨れ上がった力。それは、ただの数字や能力だけでは測れない、二人が紡いできた時間と信頼、そして覚悟そのものが宿った力だった。




ここまでお読み頂きありがとうございます。参考までに、これまでの登場人物の能力詳細を書いておきます。

属性やステータス項目の意味などは今後本編で明らかとなっていきます。



鹿島剛(かしまごう)

「能力:光輝燦然・戦斧(こうきさいぜん:せんぷ)」

「階級:B」

「属性:【光】/【斬】/【召喚】」

「ステータス:表示可能」

【生命力:C】

【霊脈量:D】

【総合身体能力度:通常比172%】

【能力技:1件記録《戦斧召喚》】

【能力熟練度:Lv.1】

説明

光の戦斧を召喚し、自在に操る能力──その武具には「光輝燦然」の名が冠される。光輝燦然の一振りは、魔性を宿すものに対して圧倒的な破壊力を放ち、まるで世界そのものを切り裂くかのように輝く。

なお、「光輝燦然」を冠する武具の能力者は他にも存在するが、戦斧を名乗る者はここにしか現れない──同じ武具の名を持つ者は、決して重複しないのだ。

成長を重ね、頂へと至るその時、光輝燦然の武具は王たる魔を討ち滅ぼすに足り、勇者としての真価を示すだろう。



久本日向(ひさもとひなた)

「能力:溶岩鎧(ようがんがい)

「階級:C」

「属性:【熱】/【武装】/【岩】」

「ステータス:表示可能」

【生命力:D】

【霊脈量:D】

【総合身体能力度:通常比112%】

【能力技:1件記録《煉装れんそう》】

【能力熟練度:Lv.1】

説明

灼熱の溶岩を纏い、如何なる攻撃も寄せ付けない防護を展開する能力。発動中は自身の能力による熱への完全耐性を得ると同時に、溶岩の重みに耐えうる筋力が増幅する。



イッシー

「能力:岩体変化〈神性〉」

「階級:C+」

「属性:【岩】/【操作】/【神性】」

「ステータス:表示可能」

【生命力:S】

【霊脈量:B】

【総合身体能力度:通常比100〜%】

【能力技:3件記録《岩石操作》《結岩》《脈奪》】

【能力熟練度:Lv.3】

説明

神々の魔法によって生み出された命に宿る、限られた神性を冠する能力。岩石を操り、自らの身体を覆う糧として纏うことができる。使用する岩石の種類が硬ければ硬いほど、装甲も強固となる。さらに神性の力により、魔たる存在から霊脈力や生命力を吸収し、自らの力として取り込むことも可能である。神性を宿さない通常の「岩体変化」も存在する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ