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第一章:プロローグ

本編です。



─────西暦2548年2月4日。



扶桑(ふそう)連邦──かつて「日本」と呼ばれた国は、いまや世界樹を中心に繁栄を遂げた国家のひとつとして、その名を馳せていた。



その根元に広がる神域、大樹聖域エルンテリア


降りやんだ雨が石畳に名残をとどめ、湿り気を帯びた風が枝葉を揺らす。世界樹の葉越しに差し込む日差しは、雨水を含んだ空気を金色に染め、まるで天から祝福が降りているかのようであった。



季節は立春を迎えようとしている。

吐く息はかすかに白く、冷えの中に柔らかなぬくもりが混じる。芽吹きを予感させる匂いが、静かに街と聖域を包んでいた。


聖域に隣接する中心街──常盤(ときわ)市では、この時期になると「若葉祭」が開かれる。

春の訪れと世界樹への感謝を込めた大祭は五百年続く伝統であり、遠方からの参拝者も加わって、街路は人で埋め尽くされていた。



その群衆の中に、ひときわ異彩を放つ四人の影があった。

ただ歩いているだけなのに、まるで見えない境界をまとったかのように、周囲の人々は自然と距離を取る。喧騒の中で、彼らの歩みだけが異質な静けさを漂わせていた。



「うっへぇ〜……。まだ開催前だっていうのに、もうこんなに人だかり……。」



黒髪をショートに切り揃え、制服のようなジャケットを軽やかに着こなした少女が、辟易したように呟く。鋭い瞳が、群衆の流れを警戒するように泳いでいた。



「お腹減ったぁ……。屋台って、まだやってないのかなぁ?」



少女の声には、少しばかりの期待と退屈さが混じっている。



「例年通りなら、恐らくまだ開店前だと思いますよ。」



背丈の低い女性が疲れた表情で答える。腰どころか膝まで届くほどの長い髪をひとまとめに垂らし、大きな丸眼鏡が顔の半分を覆う姿は、子供のように見えても、どこか知性と落ち着きを感じさせた。



「ええー…。せっかくのお祭りなのにもったいなぁい…。」



少女は肩を落とし、小さくため息をつく。



「まぁ仕方ないよ、これでも一応任務中なんだしさ。」



長身の女性が淡々と応じる。青のショートヘアに軍服風のコートをまとい、歩調はぶれない。彼女が肩をすくめて笑うと、横から低くしゃがれた声が割り込んだ。



「さっさと済ますぞ、千歳。……時間を引き延ばす任務じゃねぇ。」



無精髭を生やした大柄な男が、煙草を噛むような調子で呟く。片手には黒い外套の裾が揺れ、その背は群衆の中で壁のように道を裂いた。



「鷲尾さんが前歩いてくださいよ。……その方が、ほら、人避けになって楽ですし。」



眼鏡の女性が小さな声で促す。



「ちっ……。便利に使いやがって。」



男はぶつぶつ言いながらも、まっすぐ前を見据える。


小さな口論を交わしながらも、その四人──群衆の中でひときわ異質な影を放つ集団は、迷うことなく、聖域エルンテリアへと歩を進めていく。


人々の笑い声や祭囃子の波をかき分けるその足取りには、どこか規則正しい重みがあり、空気に微かな緊張を漂わせていた。



世界樹の根元に広がる神域には、目には見えぬ何かが静かに息づいているようだった。


風に揺れる葉の隙間から差し込む光が、地面にわずかな輝きを落とすたび、そこには確かに──眠り、または待つ者の気配があるように感じられた。


その場を踏みしめるたび、四人の影が運ぶ存在感は、知らず知らずのうちに何か大きなものと交わろうとしているかのように、空間を微かに震わせていた。



まだ誰も気づいていない──聖域の奥深く、静かに眠る者の存在に、これから何が起こるのか、誰も知る由もない。


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