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七話

 ブラジェナとジーノは広場の木製の椅子に間隔を空けて座った。何人かに聞いたが、はぐらかされた。中には彼女達と同じ様に不思議がっている者もいた。


「どういうことなのかしら……。」


 ブラジェナが顔を俯かせ唸るように言うと、ジーノは肯定する。


「私にもどういうことか……不思議ですね。」


 ブラジェナはジーノの声が笑いを含んでいるのが分かった。彼女が左を見上げると、彼が彼女を見ているのが分かった。彼女は彼にジトッとした目を向ける。


「ジーノ。貴方、楽しんでるわね?」


 声は疑問形だが、殆ど断定である。彼女の言葉に、彼は笑みを深くした。


「ええ。少しですが。」


 ブラジェナは、はあー、とため息をつく。顔を再び俯かせた瞬間。頭上から声をかけられた。


「ブラジェナ。どうしたんだい?ため息なんかついて。」


 ジーノのものとは違う、低い男性の声。聞き慣れた穏やかな声に、ブラジェナはベンチから立ち上がる。後ろに振り返った。


 少し離れたところでベンチの後ろに立っているのは30代くらいに見えるミディアムの銀色の髪をした背の高い男性。顔立ちは整っている。メガネ越しの髪と同色の瞳は微笑を浮かべながら彼女を見ていた。彼の実年齢はブラジェナも知らない。


 隣にはブラジェナよりは背の高い、20代の男性。同じくメガネをかけており、髪と同色の金色の瞳が覗いている。


 ブラジェナは二人に近寄り、まず銀髪の男性に体を向いた。


「リーダー!広場にいらっしゃったんですね。後、ヤンネも。」


 同僚の金色の短髪の男性ーヤンネに視線を向けた後、頭を下げるブラジェナ。研究所のリーダーである男性は軽く手を振って制した。


「仕事は終わったし、そんなに畏まらなくて良いよ。」


「はい。」 


 ブラジェナはその言葉に顔を上げて返事を返した。ヤンネは、リーダーに視線を向けてから答える。


「俺は、リーダーと話していたんだ。」


「アルフォンス様、本日はありがとうございました。」


 ブラジェナに続いて、ジーノも会釈をした。アルフォンスと呼ばれたリーダーの男性も会釈を返す。


「ジーノさんもどうも。」


 アルフォンスに続いて、ヤンネも会釈した。


「ジーノさん、どうも。」


 アルフォンスは笑顔をジーノに向ける。彼は元々の顔立ちと性格もあり、女性に人気がある。彼はジーノは相性が良いようで、良く話しているのブラジェナは見ている。僅かに身を引こうとした。


 そこで、彼がブラジェナとジーノに交互に目を向けているのに彼女は気付く。彼女は彼の銀色の目が輝いていることに気付いた。何か面白がってるように見えるけれど。彼は彼女達の手元を見ると、銀色の目を細め、つまらないといった風に肩を竦めた。


 彼は彼女達の元に寄って来た。彼は眉を下げて微笑む。目は輝いたままである。


「お邪魔しちゃったかな?」


 目だけは笑ったまま、申し訳なさそうに言うアルフォンス。そして、彼は前屈みになるとブラジェナに顔を近づける。そして小声で尋ねた。


「とうとう付き合ったの?」


 ブラジェナの体温が上昇する。彼女の頰が僅かに熱を持った。勘違いよ。後とうとうって何。


 彼女はアルフォンスから一歩離れる。彼女は眉を下げ、笑顔を貼り付ける。そして、ニヤニヤとした笑みで見ている彼に視線を向けた。あまりあれこれ言わない方が良いわね。逆に怪しく見えるし。彼女は低い声で言う。


「私とジーノ隊長はそんな関係じゃないです。揶揄うのはよして下さい。」


 そこでブラジェナは別の方向から視線を感じた。そちらを見ると、ヤンネが僅かに笑いながらアルフォンス以外の二人をー正確にはブラジェナを見ていた。彼女は眉間に皺を寄せ彼を軽く睨んだ。その時、ジーノの声が彼女の耳に入る。


「お気遣いいただきありがとうございます。……ですが、私とブラジェナ様はそのような関係では……。」


 ブラジェナがジーノの方を見ると、彼は眉を下げて苦笑を浮かべていた。彼女は彼も否定したことに内心安堵した。


 自分に向けられる二対の視線に、アルフォンスは笑顔のまま首を傾げた。


「そう?こんな日に二人だけでいるから、てっきり……。」


 その言葉にブラジェナは目を細める。ジーノの方を見ると、彼も彼女を見ていた。二人は軽く頷き合う。彼女は身を乗り出してアルフォンスに尋ねた。


「こんな日、と言うことはアルフォンスさんはご存じなんですね。今日は何の行事なんですか?」


 花に関する行事だと思うのだけれど。ブラジェナの言葉に、アルフォンスは銀色の瞳を見開く。数回目を瞬かせた後、自分を見ているジーノとブラジェナ、更に横に立って同じく自分を見るヤンネに視線を向けた。彼は眉を下げ、首を傾げる。


「僕はてっきり皆知っているものかと……。本当に知らないのかい?ヤンネも?」


 アルフォンスはヤンネの方を見るが、彼は目を閉じ、首を横に振った。


「いいえ、俺も知らないです。」


 アルフォンスは銀の瞳を閉じ、腕を組んだ。そうか、皆知らないのか、と呟く。そして、彼が目を開けると、口を開けて話し出そうとした時。


 ワー、と言う大きな声が少し離れたところから聞こえて来た。


 ピク、とブラジェナの体が反応し、そちらに視線を向ける。また声だわ!彼女は一度目を閉じたが、アルフォンスに目を向ける。そしてエメラルドグリーンの髪を揺らしながら勢い良く頭を下げた。


「お尋ねしておきながらすみません、リーダー。失礼致します!」


 そして、横に視線を向ける。青紫色の瞳と目が合った。


「ジーノ、行くわよ!」


「すみません、アルフォンス様。私も失礼致します。」


 彼女はそのまま急いだ。ジーノがアルフォンスに声をかけているのが小さく聞き取れた。


 声は研究所の方から聞こえたので、二人はそちらへ向かった。ブラジェナは眉を顰める。さっきから行ったり来たりね……。目的地に近付くにつれ、声が大きくなって来た。やっぱり!ここに何かあるのね!そして二人は研究所前に辿り着いた。


 そこで、ブラジェナが見たものは。



 宙を舞う花だった。



 ブラジェナは目が点になった。


「え?」



◇◇◇



 男性達に小さな白い光の灯った杖を向ける女性達。宙を舞う赤、白、黄などの色取りの花。キャー、とワー、といった人々の高い悲鳴。凄まじい熱気。


 変わり果てた王都の様子に、ブラジェナは呆然と口を開けたまま固まった。


「何、これ……。」


 ブラジェナは頭を抱えてしまった。王都で、花の投げ合い……。


「これは……。」


 隣から発せられる震えた声。笑いを必死に堪えているように思えるのは気のせいかしら?普段だったら怒るところだ。でも、頭が重いせいでとてもそんな気分になれなかった。頭がガンガンと叩かれるように痛い。頭上からはまだ人々の声が聞こえて来る。意識が飛びそう。寧ろ気絶したいくらいだわ。


 暫くして、少し頭痛が治まり、ブラジェナは顔を上げる。霧がかった意識の中、青紫色の瞳が上からじっと彼女を見ていることに気付いた。ジーノは彼女と視線が合うと、目元を和らげ、綺麗な微笑を浮かべる。


「話を聞きに行きますか?」


 ブラジェナの耳に穏やかな声が入って来る。彼女は頭痛がすっと引くのが分かった。彼女の心の中の霧が晴れ、意識が明瞭になる。ブラジェナはジーノに満面の笑みを向けた。


「ありがとうジーノ。貴方がいてくれて良かったわ!やっぱり貴方、騎士に向いてるわね。」


 ブラジェナは護衛に、と言おうとして、騎士と言い直した。護衛だけが騎士の仕事ではないからである。


 ジーノは青紫色の瞳を数回瞬かせた。数秒後、ジーノは目を細め、微笑む。胸に左手を当ててお辞儀をした。


「そのように言っていただけるとは……。嬉しい限りです。ありがとうございます。」


 ブラジェナが今まで見た中で一番と言うくらいの綺麗な笑みである。ブラジェナは息を呑み、目が釘付けになった。


 異様な空気が流れる。


 動かない二人に、不意に背後から高い声がかけられた。


「ブラジェナ先生ー!」

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