第二十七話
ジーノと何人かの人の映像である。男女二人、ジーノよりは何歳か年下に見える男性二人と女性二人。全員美形である。顔が似ていることから、彼の両親と、弟達、妹達だと分かる。
「貴方のご家族?」
ブラジェナが映像に目を向けたまま尋ねると、ジーノは明るい声で答えた。
「はい。」
ジーノはブラジェナに指差して教えた。映像には七人が写っている。両親は真ん中で、父親が左、母親が右。ジーノは父親の左隣に立っている。ジーノの左隣に次男と三男。母親の右隣に長女、次女の順である。
ブラジェナは目が細まり、微笑んだ。
「そう……。貴方はお母さま似なのね。」
「はい。」
ジーノの母親は目が引かれる美人である。彼の父親は、美形で、優しげな笑顔を浮かべている。ブラジェナが以前彼に聞いたところ、両親は大商人であると言うことである。次男が跡を継ぐので、今は店で働いているらしい。三男、長女、次女は別の街に勤めている。ブラジェナが思い出せずに尋ねると、それぞれ鍛冶屋、食堂、アクセサリー店に勤めているとのことである。成る程ね、と彼女は頷いた。
「家族全員美形ね。」
ブラジェナは笑顔で言うと、ジーノは間を置いてから笑みを浮かべた。
「母や妹達が喜びます。」
映像は最近の物のようである。そこで、ブラジェナはん?と首を傾げた。ジーノの顔を仰ぎ見る。
「これ、最近の物よね。でも、ペンダントはずっと付けているみたいだし……。映像、新しく出来るの?」
ジーノは微笑を浮かべ、首を縦に振った。
「はい。……と言っても、以前の物は消されますが。」
ブラジェナは軽く頷き、視線を映像に戻した。そう……。やっぱり貴重な魔導具なんでしょうね。息子に贈るご両親は素敵ね。
「素敵なご家族なのね……。」
ブラジェナはため息混じりに言う。目の前の美しい光景に、思わずブラジェナの目頭が熱くなる。嫌ね、ジーノに見られるわ。ブラジェナは右手でひっそりと目元を拭う。彼女は自分の両親や兄妹を思い出した。ブラジェナは横からの視線を感じていた。ジーノは喜色の滲む声で言う。
「はい。」
ブラジェナは首を傾げて聞いた。
「ジーノ、貴方が魔導騎士になった理由って、家族?」
ジーノは青紫色の瞳を細め、微笑を浮かべて頷く。
「はい。……ですが、理由は家族だけではありません。市民、果ては国を守りたいと考え、魔導騎士に志願しました。」
「そう……。凄いわね。」
ブラジェナは笑顔を向けた。その言葉に、ジーノは微笑む。
「ありがとうございます。」
暫くして、ジーノはブラジェナの顔を見た。
「消してもよろしいですか?」
ジーノの声に、見入っていたブラジェナの意識が、現実に引き戻される。彼女はほうっとため息を付く。夢から覚めたような気分に、ブラジェナは数回目を瞬かせた。そのまま、彼女は目を閉じて考える。何か、同じようなことがあったような?
しかしすぐに思い出せず、考えを打ち切り、目を開ける。そしてブラジェナは自分の様子を窺うジーノに優しい笑みを向けた。
「良いわ。……見せてくれて、ありがとう。貴方のご家族が見れて嬉しかったわ。それに、綺麗だったもの。」
ブラジェナは目を細めて言う。あんなの、初めて見たわ。胸の前で手を組むブラジェナ。そんな彼女に優しげな眼差しを向けるジーノは、数拍置いてから、微笑を浮かべる。
「そのように言っていただけて、嬉しいです。」
ジーノは空色の雫に杖を向け、光を当てて映像を消す。ブラジェナは再び感嘆のため息を付いた。本当に素敵ね……。
そこで、ブラジェナはもう一つの緑色の雫が脳裏に浮かんだ。じゃあ、あれは?似てるわよね。と言うことは、同じ魔導具?どんな映像なのかしら?ブラジェナの中で再び好奇心が湧き上がって来た。
「ねえ、もう一つの緑色の魔導具は?自分で買ったの?どんな物?……同じ効果?」
ブラジェナはジーノに身体を向け、身を乗り出した。青紫色の瞳が瞬く。
「いえ、自分で買った物です。同じ魔導具ですが……。」
そう。ジーノが自分は買ったものなのね。ブラジェナは心が晴れるような心地がした。それを疑問に思いながら、彼女は続ける。
「やっぱりそうなのね!あれも何かの映像が見れるの?」
見たいわ!
満面の笑みを浮かべるブラジェナ。彼女は自分の瞳が輝いているのが分かった。そんな彼女に、ジーノは青紫色の瞳を揺らす。
「あれは……。」
ジーノは言い淀む。しかし、ブラジェナの期待に満ちた目に、根負けしたように眉を下げて苦笑した。
「仕方がありませんね。」
やったわ!ブラジェナは笑顔で頷く。彼女の胸は期待に高鳴った。ジーノは空色のペンダントを首に付け直すと、鞄から緑色のペンダントを取り出した。ブラジェナの目が雫に釘付けになる。ジーノは緑色の魔法石に杖を向けると、白い光を灯した。光は雫に吸収される。ブラジェナは先程の光景を思い出し、目を瞑った。瞼の裏で強い光が見えた。治った後、彼女は目を開ける。
その後見えた映像に、彼女は目を見開いた。息を呑む。
スカーフでポニーテールにした髪。吊り目がちの瞳。見慣れた顔。ワンピースを着た女性が笑顔を浮かべてこちらを見ている。
……これって、私!?
ブラジェナの心臓が強く脈打った。顔が一気に熱を持つ。
ブラジェナは一度目を閉じ、再び目を開けて映像を見た。変わらず見慣れた顔が彼女を見返している。雫型の魔法石が緑色なのって、偶然?それとも……。映像を見て、彼女は深読みせざるを得なかった。薬草色だわ、としか思ってなかったのに……!
ブラジェナは目を伏せ、片手を胸に当て、もう片方の手でそっと自分の髪に触れた。彼女の髪も、瞳も、エメラルドグリーンなのである。
これを鞄に入れていつも持ち歩いているってこと!?しかも無くした時にあんなに取り乱してたわよね!?
ブラジェナは目を見開いてジーノを見た。彼は、目を細め、意味深な笑みを浮かべていた。ブラジェナはベンチの上で熊から逃げる時のように後ずさった。口をパクパクさせた。彼女の頰は熱を持ち、心臓は太鼓を打つように速く鼓動している。
そんなブラジェナに、ジーノは静かに目を伏せ、杖を雫に向けて映像を消した。沈黙が場を支配する。
こんなの持ち歩いてるなんて、まさかジーノは本当に私のこと……。ブラジェナはベンチの上で頰が赤いままジーノを見つめた。
そんなブラジェナに、ジーノは、笑みを深くすると、彼女の方に寄る。彼女は手摺に背中が当たった。これ以上退がれない……、どうしよう。彼女の瞳が揺れた。ジーノはそんな彼女に顔を近付ける。ち、近いわ!
「貴方の護衛をするために手を回していた、と言ったら信じますか?」
そんなはずないわ!ブラジェナは首を勢い良く横に振った。王宮管轄の研究所の研究者とはいえ、庶民の護衛をしたいと言ったら、問題になるはずよ! 王都の騎士団の一隊長が、私情のために庶民を護衛したいと言ったら、問題になるはずである。
「そんなことしていたら貴方は今頃最悪左遷やクビになっているはずよ!」
「ええ、そうですね。」
ジーノは笑顔のまま首を縦に振った。その言葉に、ブラジェナは脱力した。立ち上がろうとしたが、ジーノが目の前にいるのでそれは難しい。ジーノを押し除けようかしら……。彼女は悩みながら頰が赤いまま睨んだ。
「もう、何なの?」
「ですが、貴方の護衛を務めた騎士達からは話を聞いていました。」
平然とした声で言うジーノ。まさか!ブラジェナは目を見開いた。ジーノの一人の後輩の騎士の笑顔が彼女の脳裏に浮かんだ。彼、コズモの橙色の髪と瞳を思い浮かべながる。
ジーノを尊敬してるから、私に話したいだけかと思っていたのに!聞き流していたけれど。ジーノの肩を押して退かし、彼を睨みながら彼女は大きな声で尋ねた。
「確かにコズモが聞かなくてもやたらジーノの話をして来るけれど……。まさか貴方が原因!?」
そうなると、話が変わって来るわ!
「いいえ、違います。」
ジーノは首を横に振った。ブラジェナは半目になり、脱力した。そうよね、流石に違うわよね……。ジーノがコズモに話をする様に言ったのかと思ったわ。
「ですが、コズモはブラジェナ様を慕っていますので……。ブラジェナ様の護衛後に良く話をしてくれるんです。」
「そこは止めなさいよ!」
微笑を浮かべながら、付け加えたジーノ。ブラジェナは叫んだ後、背もたれに寄りかかった。
結局コズモが私の話をしてるのは同じじゃない!ちなみに彼女の場合は止めている。止めて欲しいと言うと、コズモは残念そうな目で見て来る。たまにその目に負けて聞くことはある。聞き流すことが多い。
彼女は手で頭を押さえた。何か疲れたわ。彼女の頰の熱はすっかり引いていた。
そんな彼女に隣から声がかけられた。




