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第二十五話

 微動だにしないジーノを見て、ブラジェナはため息を付く。……いらないってこと?彼女は手を下ろすと、眉を吊り上げ、顔を背けた。


「……いらないなら、良いわよ。私が自分で食べるから。」


 折角綺麗に焼けたのに。ブラジェナの眉が下がる。彼女は目を伏せた。彼女は胸が潰れるような気持ちになった。


 ブラジェナは鞄にクッキー入りの瓶を仕舞おうとした。その瞬間、横から手首を素早く、しかし加減された力で掴まれる。


 ブラジェナが眉に皺を寄せて顔を向けると、座ったままジーノは彼女よりも大きな腕を伸ばして右の手首を掴んでいた。彼は目を細めて彼女を見ている。その視線に、彼女は背筋がゾクッとした。


 ジーノは立ち上がると、ブラジェナの前に跪いた。そして彼女の手が空いている左手を取り、手の甲に唇を寄せた。その様は、まるで慕う姫に忠誠を誓う騎士のようである。


 え。


 手に感じる温かい感触にブラジェナは先程のジーノのようにピシリ、と身体が石になった。彼女の目は見開かれ、頰が燃えるように熱を持つ。彼女の胸が高鳴った。


 ジーノは絶句するブラジェナに向かって微笑むと、立ち上がり、瓶を受け取る。そして彼女に蕩けるような笑みを向けた。


「ありがたく頂戴致します、ブラジェナ様。」


 数秒後、ブラジェナは我に返ると、ベンチから茶色の鞄を持って立ち上がり、じりじりとベンチの横へ後退りした。ブラジェナの心は台風のように荒れている。


 彼女は解放された左手を右手で押さえる。何で……!彼女はジーノを睨み付けた。


「な……何てことをするのよ!?」


 上擦った声で半分叫びながら尋ねるブラジェナ。それに、ジーノは笑顔で答える。


「まさかブラジェナ様から、甘味を頂けるとは思ってもいませんでした。……感激致しましたので……、つい。申し訳ござません。」


 ジーノは軽く頭を下げて謝罪した。彼女は眉を顰めた。


「ついって、貴方……。」


 つい、でやることじゃないわよ!あんな……、姫にやるみたいなの。ブラジェナは視線をジーノの目に固定する。左手が気になるが、意識を向けないようにしていた。……頭が上手く回らない。ブラジェナは文句を言おうとしたが、口を動かすだけで言葉にならない。


 最終的に、口を閉じてしまった。彼女はため息をついて、茶色の鞄を外側に置き、ベンチに座り直した。


 ジーノの方を見ていられず、ブラジェナは首を横に背けた。目を閉じながら、彼女は悶々と思考する。


 ジーノはどうしちゃったのかしら?どうして私に突然あんなことを?先程の光景が頭に浮かびそうになり、彼女は勢い良く頭を振った。


 もしかして……、ジーノは私に気があるとか?彼女は少し考えた後、首をゆっくり横に振った。


 いや、そんなはずないわ。ジーノは誰にでも優しいし。でも。彼は友人間なら時々揶揄うことがある。彼は女友達の場合、下心を見せたりむやみに身体に触れることはしない。そこで、ブラジェナは眉が寄った。


 ……じゃあ、さっきのは?彼女は彼に触れられたのを思い出す。嫌ではなかったのだけれど。


 ブラジェナは、頭を軽く押さえた。頭痛がして来たのである。


 今日一日を通して、彼女は自分の気持ちが分からなくなって来た。今は本当にただの友人?かと聞かれると、即答出来るか不安である。彼女はもし自分がジーノのこと好きなら花を渡されてるのを見て嫉妬しないのは変だと感じた。


 ブラジェナはジーノに友人として幸せになって欲しい、と言う気持ちがある。しかし、彼が自分に気があると考えると、嫌悪感は感じなかった。ただただ困る、って感じだわ。彼女は、嫌ではないので困っているのである。


 ジーノの行動は、ブラジェナの心境を変えるくらい衝撃的なことだったのである。



 そこまで考えたところで、ブラジェナは横からの視線が気になった。更に頰に冷たいものが当たり、彼女は瞬きをした。思考が分散する。


 彼女は横に視線を向けた。ジーノは、ブラジェナの隣に腰掛けていた。彼は穏やかな微笑を浮かべながら彼女を見ている。


 いつの間にか降り始めたようで、彼の背後から見える暗い雲から白い粒がゆっくりと降りて来ている。白い粒を見て、周囲から歓声や喜びの混じった声が聞こえた。白い粒は、ジーノの整った顔を際立たせた。街灯の黄色混じりの白、雪の白、彼の青紫色の髪と瞳のコラボレーション。彼女の目が細まった。


 綺麗ね。


 彼女には、目の前の光景が有名な画家が書いた美しい絵画のように見えた。

 

 そして、あることに気付き、目を見開く。まさか、ずっと私を見ていたの?彼女の頰が再び熱を持った。


 ブラジェナは視線を下に向けた。ジーノの手元を見て、上がった体温が元に戻る。ジーノは瓶を手に戻ったままで、クッキーが減った様子がない。彼女は眉を顰めた。


「折角あげたのに、すぐに食べないのね?」


 ブラジェナは瓶からジーノに視線を戻した。彼は眉を下げて苦笑する。


「帰宅してから食べようと思ったのですが……。確かに、すぐに食べないのは失礼ですね。」


 ジーノはパカ、と音を立てて瓶を空ける。大きい手を突っ込み、クッキーを摘み、口に入れた。ブラジェナはジーノをじっと見つめ、反応を待つ。彼女は期待と緊張からか心臓が速く鼓動を打っているのを感じた。彼は数回咀嚼して喉仏を動かすと、口元を緩め、自分の様子を窺っている彼女に笑顔を向けた。


「美味しいです。クッキーの食感と、果物の味が良いですね。」


 ブラジェナは視界が明るくなった。本当!?練習した甲斐があったわ!彼女は満面の笑みをジーノに向ける。彼女は赤い髪の友人を頭に思い浮かべながら口を開いた。


「そうでしょう!?ジュディットにアドバイスを貰ったの!」


「そうですか、ジュディットさんに。」


 ジーノは納得したように数回首を縦に振ってから、更に一枚クッキーを口を含んだ。再び、美味しいです、と呟く。そうよね!安心したわ!彼女は顔が綻んだままジーノを見ていた。


 ジーノは数枚食べてから、瓶に蓋をした。ブラジェナは目を瞬かせる。彼はそんな彼女に気付くと、柔らかく微笑んだ。


「残りは後で大事に頂きます。」


 数秒後、ブラジェナは微笑んで、頷く。


「そう、分かったわ。」


 大事に食べてくれるのね。彼女の胸に温かい炎が灯った。


 ジーノは黒色の鞄に瓶を仕舞った。


 次の瞬間、彼の顔色が変わった。


 ジーノは眉に皺を寄せた。青紫色の瞳を大きくさせ、鞄を覗き込む。彼は瞳を揺らし、ない、と呟くと、音を立てて立ち上がった。彼の取り乱した様子に、ブラジェナは目を瞬かせた。どうしたのかしら。こんなに取り乱して……。


 彼は周囲に視線を巡らせた後、緑の草の上に四つん這いになり、手を伸ばして周囲を探った。


 ブラジェナは頭上を見上げた。雪も降ってるし、見えにくそうね。彼女は杖を出し、杖先に光魔法で光球を出現させた。白く光るそれを、ジーノの前に浮かばせる。


「はい。これで見やすいでしょう?」


 ジーノは、顔を上げてブラジェナを見た後、ありがとうございます、と珍しく強張った顔で笑みを向けると下を向いた。


 すぐ下げられた目線に、彼女は眉を顰める。彼女の心に影が差す。何か気に食わないわね。そんなに大事な物なのかしら。彼女は彼に声をかけた。


「……何か探し物?」


「ええ……ペンダントを。」


 ジーノは上の空、と言った様子で答えた。


「ペンダント?」

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