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第二十二話

 道中三人は街の様子を見ながら様々な話をした。ルイーザ達は五年前に店を始めたらしい。二人の馴れ初めを聞いた時は、レーヴィは嬉々として参加した。バレンタインの行事や最近の王都の流行などのついて話をしていると、知らず知らずの内に時間が立っていた。


 ガタ、と振動がかかり、身体が僅かに浮く。ブラジェナが目を瞬かせ、外を見ると、騎士団の建物が見えた。


 馬車から降りた後、ブラジェナは業者に頼み、馬を触らせて貰う。円な瞳。手入れがされた茶色の毛並みは硬く、しっかりとした感触である。彼はフルル、と鼻を鳴らした。ブラジェナは胸に淡い喜びを感じる。やっぱり可愛いわね……!


 笑顔で一心に馬を撫でるブラジェナを、周りは穏やかな笑みで見ていた。


 暫く撫でた後、ブラジェナは業者にお礼を行って頭を下げる。続いて待っていた周りに軽く謝罪をして頭を下げる。周囲は構わない、と笑った。


「馬、可愛かったわね。」


 笑い混じりに言うルイーザ。ブラジェナは目を細めて頷く。脳裏に馬の丸い瞳を思い浮かべる。


「ええ、本当に。」


 

 その後、三人は別れて聴取を受けた。レーヴィはルイーザの付き添いである。ジーノがいないため、ブラジェナは一人でゴブリンとの戦闘を説明した。


 騎士達はジーノの活躍について詳しく聞きたがった。煌めく瞳。この人達の方が良く知っているでしょうに。ブラジェナは思わず吹き出す。


 途端に身体を小さくさせ、小声で謝る騎士達。ブラジェナは笑顔で構わないと手を上げて示した。



 聴取が終わった後。ブラジェナ達は合流し、馬車に乗り直した。ブラジェナは次の見回りの地点まで載せてもらうことにした。ブラジェナは一瞬考え込たが、途中まで馬車で構わないと言った。青紫色が頭を過ぎる。ジーノと相談したし。それに。


 ブラジェナはルイーザの顔を見た。彼女は満足そうな笑みを浮かべている。ブラジェナは曖昧に微笑んだ。まだ一緒の方が良さそうだしね。胸をくすぐられたような気分になった。


 会話に花を咲かせていると、目的地まではすぐであった。


 ブラジェナが下りると、後ろから声をかけられる。振り返ると、ルイーザが馬車を降りて眉を下げて立っていた。隣にはそんな彼女に寄り添うレーヴィ。彼らは業者に少し待って欲しい、と言った。


 そしてブラジェナの手が柔らかい手に包まれる。彼女が目を瞬かせると、ルイーザは目を細め、声を落として言った。


「ここで、お別れね。今日は、本当に、ありがとう……。」


 柔らかく微笑むルイーザ。そんな彼女に、ブラジェナは首を横に振った。ブラジェナは目を細める。


「いえ、私は何も……。ジーノ隊長のおかげです。」


 モンスターと戦ったのは、ジーノだし。戦闘中の彼の鮮やかな攻撃を思い出す。彼に庇われた時のことが頭に浮かんだ。


──ブラジェナ様を傷付けさせません。


 ジーノの鋭い瞳を思い出し、ブラジェナの心臓が大きく跳ねた。彼女は目を伏せ、口元を引き締める。今更だけど、恥ずかしいわね……。まあ、友人だしね。ブラジェナは夢現のような心地がした。


 ブラジェナは、ルイーザの声に意識が浮上する。


「ええ、ジーノさんにも、後でお礼を言っておいて下さい。」


 ルイーザの言った言葉を理解し、ブラジェナは笑顔で頷いた。


「分かりました。」


「俺からも、ありがとう。ブラジェナさん。ルイーザを守ってくれて。ジーノさんにも宜しく伝えて置いてくれ。」


 こちらを見据える瞳に、ブラジェナは首を縦に振った。


「はい。」


 不意に、ルイーザに抱き締められ、ブラジェナは目を見開いた。ルイーザは小声で言う。


「ゴブリンに襲われた時、不安だったわ。……ありがとう。」


 震える身体。ブラジェナはルイーザの頭をそっと撫でた。


「私も、貴方が無事で良かったです。」


 そんな二人を、レーヴィは微笑を浮かべて見守っていた。


 ルイーザは手を合わせ、微笑んで言った。


「後でバスケットの中の対パンもジーノさんに渡しておいてくれない?あれだったら一緒に食べてね。」


「はい、分かりました。後でジーノ隊長と一緒にいただきます。」


 ブラジェナが笑顔で頷いて返すと、何故かルイーザはあはは、と明るく笑った。


 何?ブラジェナは首を横に傾ける。


 ルイーザは首を横に振る。


「何でもないわ。後で二人で食べて下さい。」


 含みのある言い方に、ブラジェナは僅かに眉を顰め、首を捻った。何か変なこと言ったかしら?ジーノと食べる、と言っただけなのに……。


 聞き返すのも不自然に感じられ、開きかけた口を閉じる。ブラジェナの心に僅かに靄が残った。



「ありがとう、ブラジェナさん、またお店にも来て下さいね。あたし、待ってるわ。」


「ブラジェナさん、ありがとう!」


 かけられた声に、ブラジェナは微笑む。


「はい!是非行きます。」


 ブラジェナ達は別れの挨拶をして、手を振り合う。馬車の扉が閉まり、馬がヒヒーン、と鳴く。カララ、と車輪が音を立て、レーヴィとルイーザを乗せた馬車が去って行った。


 馬車が見えなくなるまで見送った後、ブラジェナは一度息を付いた。周りの話し声が耳に入って来る。彼女は瞬きをし、気分を切り替えた。


 さて、見回りをしないと!


 ブラジェナは一歩を踏み出した。

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