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第二十話

◇◇◇



 ブラジェナは胸の前で手を組んでいた。終わったね……!鼓動が早く打っている。彼女は小さくため息を吐いた。


 これで、一先ずは安心ね。ブラジェナはルイーザの顔を思い浮かべた。


 ブラジェナはジーノの方を見た。彼はゴブリンのいた辺りに視線を向けている。普段の様子に戻っていた。


 ブラジェナが見ていることに気付いたのか、ジーノはこちらに首を向けた。彼女と目が合うと柔らかい笑みを浮かべる。


 チン、と剣を鞘に仕舞い、ジーノはこちらに近付いて来た。ブラジェナは杖を懐に入れる。彼女はジーノに微笑みかける。


「終わったわね。お疲れ様。」


「はい。ブラジェナ様も。魔法薬や魔法等、ありがとうございました。」


 ブラジェナは首を横に振る。


「いえ。私も、ありがとう。」


 守ってくれて。


「はい。……ブラジェナ様をお守りするのは、当然ですから。」


 ジーノは目元を緩めて頷く。ブラジェナは視界が淡く輝いて見えた。ジーノの言葉にブラジェナは胸が高鳴り、頰が熱くなった。


 そしてジーノはブラジェナの全身に視線を巡らす。目を細め、柔らかな声で言った。


「ブラジェナ様。怪我はありませんか?」


「私は大丈夫よ。ジーノ、貴方は?」


 ブラジェナは首を縦に振る。彼女はジーノの様子を見た後、眉を顰めて尋ねる。見た感じ、怪我はなさそうだけど。


「私も問題ありません。」


 ジーノは腕を広げて見せた。ブラジェナは数秒ジーノの顔を見つめていたが、肩を竦めた。鞄に手を入れる。何にせよ、魔法薬を出さないと……。


「ブラジェナ様?魔法薬は不要ですが……。」


 何言ってるのかしら。ブラジェナは二人分の回復薬の瓶を取り出すと、ジーノの前に突き出した。鈍色の液体がチャプ、と音を立てて揺れる。


「良いから。はい、これ。回復薬よ。」


「飲むとしたら、ブラジェナ様が……。」


 まだ言うの?眉を下げるジーノ。ブラジェナは笑みを浮かべた。

 

「飲みなさい。」


 圧力をかける。ジーノは数拍置いてから、手を伸ばして瓶を受け取る。仕方がないと言う風に苦笑していたが、目元は笑っていた。


「分かりました。」


 ジーノは瓶の蓋を開けると、一気に飲み干した。僅かに顔を顰める。ブラジェナは心に靄がかかった。


 何、さっきのちょっと嬉しそうな顔。私に心配されて嬉しかったとか?……まさかね。ブラジェナの視線が揺れる。不満のような、落ち着かないような不思議な気分になった。


 ブラジェナは瓶を開けると言いようのない感情を魔法薬と共に飲み込んだ。やっぱり苦いわ。


「苦いですね。」


「仕方がないわよ。」


 薬だもの。


 二人の身体が白く発光する。ブラジェナはジーノの様子を見てきて、あることに気付いた。暫くして光が収まる。彼女は両手の拳を軽く握り、目を吊り上げる。ジーノの顔を見上げた。ちょっと。


「やっぱり怪我してたんじゃない。」


 擦り傷くらいかもしれないけど。ジーノの顔を凝視すると、彼は眉を下げた。


「すみません。小さな傷ですし、これくらいなら問題ないかと。」


 またこれね。ジーノは回復薬を戦闘などの後使わないことがある。ブラジェナは大きな声で言う。


「自己判断はなしよ!」


「はい。ありがとうございます。」


 ジーノは口元に笑みを浮かべて頷いた。別にお礼を言って欲しいわけじゃないんだけど……。こちらに送られる柔らかい視線。ブラジェナは僅かに胸が疼いた。視線を落としながら呟く。


「どういたしまして。」



 ブラジェナ達はお互いに微笑み合った。


 ブラジェナは杖を振ると、ジーノの身体が白く輝き、乱れていた服装等が綺麗になった。


 ブラジェナに続いてジーノが彼女に杖を振った。ブラジェナの服装が綺麗になる。彼女は爽快感を感じた。


「ありがとう。」


「こちらこそ、ありがとうございます。」


 お互いに洗浄魔法を掛け合った二人は笑顔でお礼を言った。



 その後、ブラジェナ達は依頼主であるルイーザが待つ通りへと戻って行った。


「終わりましたよ。」


 早足で腕を組みながら左右へと歩き回っているルイーザ。そんな彼女にブラジェナは声をかける。


 ルイーザは強張っている顔をこちらに向けた。目は見開かれている。見る見る内に顔が輝いていった。


 ルイーザは音を立ててこちらに駆け寄ると、ジーノの右手を両手で握る。


「本当!?もういないんですね?」


 縋るような涙混じりの目で尋ねるルイーザ。ジーノは穏やかな笑みを浮かべると、彼女を安心させるように柔らかいトーンで答えた。


「ええ。ゴブリンはもういません。こちらのブラジェナ様も協力して下さいました。」


 手でブラジェナを示すジーノ。そんな彼の手をルイーザは手を勢い良く上下に振った。


「ありがとうございます!……ブラジェナさんも、ありがとうございます!」


 前半はジーノに。後半は、ブラシェナの手を握って言う。ブラジェナはルイーザの手が少し冷たく感じた。彼女は眉間に皺を寄せた。ルイーザの手をそっと握り返すと、微笑みかける。ルイーザは目を瞬くと、顔を綻ばせた。


「いえ、私は手伝っただけですから。」

 

「それでも、ありがとうございます。」


 目を細めるルイーザに対して、ブラジェナは微笑を浮かべ頷く。まあ良いか。熱の戻った手を離した。ブラジェナ達はゴブリンについて報告した。ルイーザは神妙な顔で頷く。


 やがてジーノは真顔な目付きで二人に声をかけた。


「申し訳ありませんが、私は騎士団に向かいます。別の騎士が迎えに来るので、それまでお二人はここで待っていていただけますか?」


「分かったわ。」


 両手で拳を握り、眉を下げるルイーザ。ブラジェナが目と目を合わせて頷くと、首を縦に振った。


「分かりました。」


 ルイーザとブラジェナに、ジーノは目に柔らかい光を宿し、笑みを向けた。


「よろしくお願いします。」


 ジーノは胸に手を当て頭を下げた。


 ふと、ブラジェナは目を伏せ考える。他の人に代わって貰ったし、別の場所で見回りをした方が良いわよね。そうなると、ジーノと相談した方が良いかしら。


 ブラジェナは顔を上げると、背を向けようとするジーノに声をかけた。身体を回転させ、どうしたのか尋ねるジーノ。二人は話し合い、合流する場所を決めた。


 一度ルイーザの方に視線を向けた。彼女一人で大丈夫かしら。尋ねると、ルイーザはその内レーヴィが来るだろうし、大丈夫だと笑った。僅かに強張った顔を見て、ブラジェナは眉を顰め、口元を引き締めた。


 もし旦那さんが来れないようなら、店までついて行って、申し訳ないけど騎士の人に伝言を頼もうかしら。


「じゃあ、また後でね。」


「はい。」


 ジーノは青紫の目を細める。数秒置いてから、視線を逸らした。それぞれに挨拶をしてから、背を向ける。


「では、私はこれで。」


「本当にありがとうございました!」


 ジーノは頭を下げるルイーザに手を振って答える。次の瞬間、彼は矢のように走り去って行った。



 暫くして。ルイーザはそうだわ、と呟く。そして、お店の中に入って行った。ブラジェナは目を見開く。


 ちょっと!?


「どうされたんですか!?危ないですよ!」


「大丈夫よ。」


 両手の拳を握り声をかけるブラジェナに、ルイーザは明るい声で返す。心臓が激しく鼓動を打つ。ブラジェナは目を逸らさずに見ていた。ゴブリンが襲った後だし、足元に破片とかが散らばってるかもしれないのに……!

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