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Closer  作者: 篠原 祐
第一章 黒い雨が降る
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水泡に帰す

 異黒人はびくびくと体を震わせ、起き上がろうとしている。

 1体に電気を流した時よりも被害が少ないのは明らかだ。止められて十数秒。

 僕にはしゃぼん玉をまとめて攻撃する方法はないし、無駄に傷つく前に下がろう。

 そう考え、足を取られないよう下を見る。そこで初めて自分がバリアに片足を乗せてるのに気づいた。


「見てた通り、戦闘経験はないようですね。足元が疎かです」

「……! ありがとうございます」


 濡れた地面に足を乗せ、僕まで感電してしまうのを防いでくれたのだろう。

 僕が引いたのを確認すると、彼女の周りのバリアはパリパリと音を立てて消えた。

 彼女は満足げに微笑んでいる。


 さて、これからどうするのか? 

 しゃぼん玉は当然電気が流れていない。海水に当たっていたが割れることはなく、少し散らばっただけだ。

 地面から3メートルほどの高さに漂い、元の位置に戻っていく。

 それに、少女は感電を免れたようで、そばにいた異黒人もチラッと見えた限りでは無事そうだった。

 一気にしゃぼん玉を壊さないと少女にすぐ元通りにされてしまうだろう。

 ベル……さんに変わったため、彼女も交代はできず、新しい有効打はない。

 灰賀さんはどうするのか。


 彼はUIを操作し、『火薬の手(マヌス・デトナータ)』と、名前を教えてもらった籠手を取り出す。

 数時間前に使ったばっかりの爆発する籠手だ。またアレをやるのか…? 

 ベルさんも同じことを思ったらしい。


「1日に2回ですか。初めてですね」

「今日は大切な日だからな。新入歓迎用のクラッカーも兼ねてる」

「そうですか、それなら私の分もお願いします。 …それと、ルナに後で謝ってあげてください」

「分かってるさ」


 2人はルナさんの時とは違いドライに話している。仲が悪いとは思わない。

 灰賀さんは少し下がり僕の隣まで来た。 


「いきなりこんな歪みに連れてきてごめんな。でも、この世界で生きるには大事なことが2つある。それを知ってもらわなきゃ始まらない」


 彼はこちらを横目で見つつ話を続ける。


「1つ目は物理的な強さ。装備と能力の強さと汎用力の高さ…屈折体と戦っていくには絶対に必要なものだ。


 2つ目は精神的な強さ。誰でもそうだが、いつか君の心が折れそうになる日が来るだろう。実際に折れるかもしれない。それでも、芯があるなら迷うことはない。


 3つ目は創意工夫。それは絶えず新しいことを見つけ、それに挑戦して自分を…そして世界を()()()()ことだ」

「そ、それは……今言うべきことですか?」


 異黒人は話してる途中にも少しづつ起き上がり出している。

 にもかかわらず彼は話をしながら細かく体を動かしているだけ。


「ああ、もちろん必要だ。そうじゃないことはない」


 彼はそういうと、斜めに体を構える。


「しゃぼん玉の位置はあの少女が動かせるんだろうけど、異黒人のせいで見えてない。漂う場所が決められてるんだろう。それなら散ったのが戻って来たところを一斉に叩けばいい」

「……! 灰賀さんには範囲攻撃する方法があるんですか?」


 【撃鉄(げきてつ)】を使っても全てのしゃぼん玉を割ることはできないだろう。

 何か別の能力か、はたまた籠手に他の使い方があるのか。


「いやない。俺が使えるのは君に見せたのが全部さ」

「じゃあ、どうするんですか!」


 異黒人が完全に立ち上がり、こちらにゆっくり歩いてくる。

 焦りで語気が荒くなってしまった。


「創意工夫するのさ。少し下がってな……【畳返し(たたみがえし)】!」


 彼はダンっと地面を左足で叩く。

 するとコンクリートでできた地面が盛り上がり、こちら側から見て下り坂の形を作った。

 灰賀さんはその中央に向けて左手を突き出し―――「【撃鉄(げきてつ)】!」右手を振りかぶる。


 ◇


 2回目なのもあって何が起こったのかは分かった。

 コンクリートの山をぶち抜いた爆発は僕たちの正面方向…桟橋の端のほうへ破片を飛び散らせる。

 大量の異黒人たちに瓦礫は阻まれ、地表付近を飛んだものは奴らの体を少し傷つけただけだ。

 が、上のほうに飛んだ破片はそうならない。

 異黒人より1メートルほど上を飛ぶしゃぼん玉に当たり、パアン!と小気味よく割っていく。

 プチプチをまとめてつぶすような爽快さだ。

 細かい破片が少女にも当たったのか、少し後ろへよろめいた。痛そうにしている。

 ただ、倒れはしなかった。

 肝心の異黒人たちは……灰賀さんが予想してた通り、しゃぼん玉が割れるのに従って陽炎のように消えていく。


「……」


 ベルさんは考え事をしながらそれを見ている。

 そうして、ほとんどの異黒人はいなくなった。残ったのは少女の周りの2体。


「ぐっ……流石に痛むな。 2人共、今のうちに少女を!」


 灰賀さんは傷んでいるのだろう左手を抑えながら、僕たちに声をかけてきた。

 彼は動くこともできなそうだ。


「はいっ!」


 精一杯それに応え、少女に向かって駆け出す。

 ベルさんは答えなかった。どうやら置かれている灰色のロープを取りに行ったらしく、彼女はそれを拾い上げる。


「光さん、これを!」


 彼女はロープをこちらに投げてきた。そんなに太くなく、輪の形で軽く結ばれている。

 片手でキャッチした。


「あの少女は物理攻撃は効きませんが、この世界のものには干渉を受けるみたいです! そのロープでひとまず縛り上げてください!」


 そういうことか。彼女に言われたことで、【飛んでゆけない少女】の全貌が掴めた気がする。

 あの少女には干渉できず、周りの異黒人を何とかするものだと思っていた。

 だがそうではなく、彼女にはこの世界のものなら干渉できる。

 飛んできた破片に少女が当たっていたことからも、彼女がこの世界に立っていることからも確定的だ。

 最初から考えてれば分かった気もするが、置いておこう。

 とにかく、少女を捕まえることに集中する。


 2体いた異黒人のうち1体は灰賀さんのもとへ向かう。もう一体は少女のそばに残っている。


「私は灰賀の護衛をします。光さんは少女を」


 ベルさんに言われ、ロープを腕に固定しながら進む。


「あっ!」


 途中、ロープを落とさないようにするのに気を取られて、地面に倒れる―――

 ことはなく、片足を軸にギリギリ踏みとどまった。ただし、 

 ――ジャリ。

 そう音がした。顔尾を上げると、真っ黒な顔がこちらを見ていた。

 こちらに来ていた異黒人か。蹴られるのか? 殴られるのか? 身を縮こまらせる。


 しかし、そんな不安は知らないとばかりに、異黒人は僕のことを無視して行った。

 舐められているのか……? 

 わかっていたことだが、僕はそこまで強くはない。 

 ガジェットの力に頼ってるだけかもしれない。

 ……それでも立ち上がる。そして進む。


「邪魔だあ!」 


 戦闘中、鬱陶しいと感じながらも背中に抱え続けたハンマーを取り出す。

 少女の前に立つもう一体の異黒人に対してそれを振るった。

 当然、屈折体は手を掲げそれを防いだ。


 ―――パシッと、ハンマーははねのけられた。すごい力だ。

 僕は後ろ向きによろめく。

 そこを屈折体は手を振り下ろして追撃してくる。


 ―――バンッと、後ろから銃声がした。青い軌跡が見える。

 後で灰賀さんには、礼を言わなくては。

 異黒人が後ろに倒れる。

 僕はそれの横を通り過ぎ、少女のもとへ肉薄した。


 よほど怯えていると見える。しゃぼん吹きを吹くのを止め、後ずさっていく。

 僕も気が進まないが、最低でも縛り上げなくてはいけない。

 反撃に気をつけつつ、近寄っていく。


 すると、パニックになったのか少女は僕に背を向けて走り出した。

 何もない、桟橋の外へ向かって。


「…! ………!?」


 少女は驚いた様子のまま、海へ落ちて行った。

 それと同時に、残っていた2体の異黒人は陽炎のように消える。


 ―――しゃぼん玉は音もなく壊れた。





 ◇


 静けさだけが残った桟橋に、声がした。右手に銃を持った灰賀さん、そしてベルさんが来ている。


「お疲れ様、光」

「灰賀さん…さっきはありがとうございました。あれがなかったら、やられてました」

「別にいいのさ。もともと君が戦わなくてもいいようにするつもりだけど、なんだかんだ頼ってしまった。そのせいであの状況になったからね」


 やっぱり苦戦はしてたのだろう。助けになっていたならよかった。

 ベルさんも一声かけてくれる。


「さっきは戦闘経験がないと言いましたけど……最後の気迫には、スゴ味がありましたよ」

「スゴ味ってなんですか……」

「さあ、なんでしょうね」


 彼女はクスクスと笑った。

 僕も灰賀さんもつられて笑う。


「ま、何はともあれこれで終わりだろう。UIの情報欄もほとんど解放されたからね」


 言われて僕はUIを見る。確かにほんの一部を除いてすべて見れるようになった。


「つまり、報酬がもらえる時間が来たというわけです」

「それ俺が言おうとしてたのに」

「早い者勝ちですよ」


 歪みで何らかの条件を達成したときに、歪具なんかの報酬がもらえる。

 そうじゃないこともあるけど、ほとんどは屈折体を倒したりした後だ。


 さて、何がもらえるのだろうか。

 ちょうどその時、ぶくぶくと少女の落ちた場所から音がした。

 近づいてみてみると、海面からさっきまでのとは違う灰色のしゃぼん玉が浮かんでくる。

 3つあり、大きさがバラバラだ。 

 それらは宙へ浮かび、僕たちそれぞれの前まで来た。


「これに報酬が入ってるんだろう」

「……私のしゃぼん玉、小さいですね」

「僕のは大きすぎませんか……?」


 ベルさんには手のひらに乗る程度、僕には大きなスーツケース程度。

 灰賀さんにはその中間程度のしゃぼん玉が目の前に漂う。


 突然、しゃぼん玉の色が変わり、透明になった。

 同時にこの世界の色が普通になっていく。 

 海は青色になり、空は夕焼けに染まっていく。遠くに見えていた山は緑になり、あらゆるものに色が戻っていた。

 自然と、晴れやかな気持ちになる。


 そして透明になったしゃぼん玉の中には……


 両手持ちの大砲が入っていた。

ということで灰色の港次回で終わりです。

一旦の情報は出し終わったので、灰賀のプロフィール載せておきます

:黒依 灰賀:

職業:『Close up』社長

年齢:26歳

身長:178㎝

血液型:A型

誕生日:6月21日

歪具:『白夜刀』『火薬の手』『感情双銃』

能力:『畳返し』

黒に白が混ざった服を着てます

なおこの作品の主人公。光視点は次回まで

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