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Closer  作者: 篠原 祐
第一章 黒い雨が降る
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依頼人

「【1’st(ファースト) センス】…それってどんな歪みから手に入れたんです?」

「いや? 最初から使えてたよ」

「生まれた時からって…そんなわけないでしょう」


 彼女は自然なことのように答えるが、最初から能力を持って生まれるというのはあり得ない。

 疑問が残っているけど……


「あーすまん2人共。依頼人を待たせてるから話はここで中断。ルナはお茶菓子持ってきてもらっていい?光君はそこのソファーに座ってて」

「あ、はーい」


 ルナさんは冷蔵庫のほうに行ってしまった。


 仕方がないのでソファーに座る。


 灰賀さんはそれを確認した後、外へ出て開かれた扉の前に立つ。


「三会さん、こちらにどうぞ」


 そう彼が言うと、やたら背の大きな…僕より大きい灰賀さんをさらに20㎝ほど高くしたような身長の中年男性が入ってきた。彼はゴム引きのオーバーオールを身に着けている。手の甲や腕には日焼けと傷が絶えず、タバコの匂いと潮の香りがうっすらと感じ取れた。


「あんがとな、兄ちゃん。急な依頼で準備もくそもねぇだろうに」

「いえいえ、普段からこんな感じです。」


 男性は靴を脱ぎ、案内に従って僕の向かいのソファーに腰掛けた。


「まずは改めて自己紹介からさせてもらいます。私がこの『Close up』社長の黒依です。私の名刺を渡しておきましょう、どうぞ。 そしてこちらに座っているのは…あー、見習いの光君。あちらで飲み物の用意をしているのがリベルナ、うちの社員です」


 勝手に見習いということにされたが、立場はそんなものだろう。


「丁寧にありがとな、俺は三会(さんがい) 訪也(たずなり)。黒依さんは知ってるだろうが、近くの港で沖合漁師兼仲買人をやってんだ。よろしくな、そこの金髪少年」

「は、はい。よろしくお願いします」


 なんというか、渋いおっさんの圧を感じる。彼の後ろからルナさんがトレーを持ってきた。


「こんにちは! えーと、今日のお茶菓子はカステラになります! 下の紙食べないよう気を付けてくださいね」

「ん、ああどうもありがとう。だが地元の菓子の食い方くらいはわかるぜ姉ちゃん」

「あー、あはは。そうですね。私は食べちゃったことあるんですけど……」


 そういって手元のトレーから依頼者にカステラが2切れ入った皿と麦茶を出し、僕たちのほうにも麦茶を出した。彼女はそのままトレーをしまいに戻る。三会さんは結構怖いタイプで緊張してるのだろうか。慣れない雰囲気を感じた。


 ひとまず3人で麦茶を飲み、全員がコップを置いたところで三会さんが話を始める。


「さて、それじゃ早速依頼内容に入らせてもらうか」

「お聞きしましょう」


 黒依さんが姿勢を直す。つられて僕も直す。


「俺は複数の漁師が使ってる港から船を出して魚を取ってくる訳だが、その港の桟橋で歪みが発生しちまった。規模は9級相当で、できてからはまだ1日もたってないくらいだ。だが位置が悪い。俺の乗る船が丁度停泊してた位置にできちまった。明日には漁に行かないとなんで、早めに閉じてほしいが近くの事務所は仕事が溜まってて受け付けてくれないのさ。そんなわけで、まだ実績の少ないおたくの事務所だろうと依頼したいってわけ」


 事務所の世界にも当然、信頼というものがある。できてから1年も経ってない事務所じゃちゃんとした依頼も来ないだろう。たいていは行政から下請けされた公共地の歪みの解決とか、再発生する歪みのパトロールとかの、割がいいとは言えない仕事がほとんどだ。ルナさんがあまり慣れていなそうだったのも民間依頼の少なさに影響してるのかも。


「わかりました。先ほどの取引事務所でお話した通り、ご依頼はお受けするつもりです。つきましては、料金なんかの詳しいところも決めていきましょう」


 そう言って、灰賀さんは彼のデスクからいくつかの書類を持ってきて、依頼人に見せた。


 しばらく眺めているだけだったが、彼は感心したように「ほーう」と声を出す。


「ええやないか。よそで言われた値段よりも安く済むってことやろ?」

「そうですね。同業他社よりも人数が少ない分安くなっていると思います」

「ただ安ければいいってもんやない。魚だってそうや。ちゃんと歪み閉じてくれるんやろなあ?」

「もちろん。依頼を達成できなかった場合、そちら側に料金を払う必要はないという旨の契約になりますので」

「後払いっちゅーことか。珍しいな」

「それぐらいやらないと依頼が来ないんです」

「そしたら―――」



 互いにけん制し合うような会話で、2人とも場慣れしているとわかる。三会さんは仲買人を兼業しているということでセリの経験が生かされているのだろうが、灰賀さんも負けることなく切り返している。多分若くからクローザーとしてやってきて、交渉事に強くなったんだろう。そういう様子だ。

 ちなみにルナさんは自分のデスクで携帯ゲーム機を使っていた。彼女は交渉に関わる気がないのだろう。割り切っている。ただサボってるとも言える。


「―――よし分かった、それでええやろう。その形で正式に依頼させてもらうわ」

「ありがとうございます」


 そうやって2人は握手をし、書類での手続きを終わらせた。三会さんは残っていたカステラを食べ、麦茶を飲みほした後、挨拶して帰っていく。


「さて、決まりだな。歪みを閉じに行こうか」


 灰賀さんは書類をデスクに戻し、外へ出る用意をし始めた。ルナさんが灰賀さんに話しかける。


「今回は私も同行でいいんだよね?」

「ああ、光君も含めて3人でいく」

「お~。3人の仕事か~、楽しみだね!」

「…注意しなきゃダメだぞ。どんな危険があるかはわからない」

「…もちろん。わかってる」


 そういい、彼女も準備を始めた。僕も手荷物を確認する。たいした物もないのですぐ終わった。他の2人も終わったようだ。


「それじゃあ行こうか。船着場の場所は事前に聞いてある。ここから歩いて数十分ってとこだ。管理してる人にも話を通してもらえるらしい。んじゃ出発!」

「おー!」

「お、おー…?」


 こうして僕の初依頼は始まった。

三会さんはグラサン似合うタイプ。ヤクザっぽい見た目の人です

次回2つめの歪みになりますお楽しみに〜

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