『青春 18勇者きっぷ』で異世界に来たので、ユニークスキルで生き延びます
『青春 18勇者きっぷ』で異世界を訪問して早三年。魔王を倒さないと元の世界の切符が手に入らないなんて聞いてないよ。
魔力を持たないオレは、仕方なく最下層の労働者として土木作業をしてその日暮らしの生活をしていた。
甘かった。異世界に行けばニートのオレも勇者として美女に囲まれて、冒険の旅に出られると思っていたのに。
工事現場の近くをきれいな女の人が通る。
いきなり、現場の男が風魔法で一陣の風を巻き起こす。
女の人のスカートめくれて、チラッと下着が見えた。
「きゃっ」
顔を真っ赤にして、足早に現場を去る女性。
周りの男たちは下卑た笑い声を上げて、女性の後ろから、いやらしい野次を飛ばした。
オレは何もできず下をうつむいていた。
「すまねえな、兄ちゃん。こいつら本当に下品でよ」
隣の班長がオレに謝った。
「こいつら、こんな事くらいしか楽しみがねえんで」
班長が火炎魔法で、タバコに火を点けた。
「まあ、こらえてやってくれ。
こいつらだって、まともに魔力が使えれば、もっとましな仕事につけたんだ」
班長は、タバコ吸うと煙をスパーと吐き出した。
「えっ……」
「いや、とんでもないです。
オレ、そんなこと一つも思ってませんから」
「オレ達が下品って言いたいんか?」
さっきの男がこちらを見た。
「本当だから、しょうがねえって」
班長は、オレの肩をポンと叩いた。
「ほんとにそうじゃないんです。
出来ればオレもそういうことしてみたいんですよ」
「だったら、やればいいじゃないか」
「だけどオレ……
魔法が使えないんです」
「「ハハハハハ」」
全員が笑い出した。
「そんなことか」と班長。
「そんなこと?(怒)」
「悪い悪い。よかったら教えてやるよ。
とりあえず、得意な魔法やってみな。直してやるから」
「得意も何も、全然魔法が使えなくて」
「とりあえず、タバコに火を点けてみるか」
「分かりました。出でよ、ファイヤーボール!!」
「「ギャハハハハハ」」
また、全員が噴き出した。
「オレ、魔法を使うのにいちいち呪文を唱える奴は初めて見た」
さっきの男は、目から涙を流して笑い転げている。
「魔法使うのに一々呪文唱えていたら煩わしいだろ。
心に炎のイメージを描いて意識を集中するんだ。
ほら」
班長は、小さな火を起こして見せた。
なるほど、オレは今まで呪文を唱える事ばかり意識して、
イメージを描かなかったからダメだったのか。
よし、心にイメージを描いてっと、
やはり、何も出てこない。
「それじゃ、ダメだ。心の中にはっきり実在する炎が見えるまで意識して」
「そっか、絵のようにか……」
「そうとも、炎の絵が見えるまで待ってからだ。
やってみな。出来るはずだ」
そうか、イメージを描いてじゃタイミングが早すぎたのか。
目の前に実際に炎が現れるくらい集中しよう。
オレは目をつぶり、心の中に炎をイメージした。
だんだん、それが現実の炎と区別がつかなくなった。
(出でよ、ファイヤーボール)
オレは心の中で叫んだ。
何も出てこない!
いや、意識の集中が低いんだ。(出ろ、出ろ。)
それは、数秒間だったのか、数十秒間なのか分からない。
オレは炎が出現することに全神経を集中し続けた。
何も変化がなかった。
オレは石のように固まった。
が、気を取り直して、テレ隠しに少しおどけたように言った。
「オレは火属性の適性がないのかな。今度は風でやってみますか」
「いや、やっても無駄だ。どんな子供でも小さな炎くらい出せる。
こりゃ、適正以前の問題だ」
風を起こした男が、バカにしたように笑う。
「そうだな、どんな適性の子供でも教えなくても炎くらい出せるから火事にならないように、
最初に教える魔法は水魔法だもんな」
「まあ、そういうな。オレたちだっと、兄ちゃんと大して変わらんだろう。
タバコに火を点けるレベルの魔法しか出来んのだから」
班長がやさしくフォローしてくれた。
「ちくしょう。生まれつきの魔力の大きさの違いで差別されるなんて。
オレだって、竜巻レベルの風が起こせれば、上の学校に進学できたんだ。
そうすれば、今頃もっといい仕事だってありつけたのに」
何か、昔の嫌なことを思い出したのだろう。
風男がオレを見る。
「もしかして、魔力ゼロの人間とか」
「バーカ、そんな奴いねーよ」
「いたら、マジ生きてる価値ねえな」
「もしかして、異世界人とか」
一人の男が言った。皆がハッとする。
「異世界には魔法が使えない人間がいるらしいぜ。
最近こちらに出没してるらしい」
「そんな奴がいたら刈らねえとな」
皆がこちらを見る。だんだん、物騒な話になって来た。
「今日は調子が悪かったのかなぁ。いつもなら炎くらい楽勝なんですけど」
オレは、何とかその場をごまかそうと無意識に口笛を吹いた。
「「あー!!!」」
現場の連中が全員叫んだ。
やばい、緊張している場面で口笛とかふざけてると思われたらしい。
「おい、今のもう一度やってみろ」
風男がすごい目でこちらを睨んだ。
その場の全員が真剣な目でオレを見ている。
場が凍り付いている。とても、断れる雰囲気ではない。
オレは口笛を吹こうとしたが、緊張してうまく音が出せない。
唇を濡らしたが、フーフーという音しか出せない。
とうとう、コツを思い出した。唇をすぼめると口笛が吹けた。
「「うおー!!!」」
現場の連中が興奮してる。
「お願いします。もう少しだけ聞かせてください」
オレは少し落ち着きを取り戻した。
大きく息を吸って、『ふるさと』を吹いてやった。
「まじか……」
「こ、こんな高等魔法見たことないっす」
「オレ、感動して涙が止まらないっす」
「鳥肌が立ちました」
「風魔法の応用ですかね」
風男は先ほどの態度はどこへやら、土下座をして謝った。
「先生、すいません、少しくらい風魔法が使えると思ってオレ天狗になってました。
お許しください」
「師匠、よかったらオレたちにもその魔法をご伝授ください」
オレは彼らに口笛を教えたが、何度やっても口笛を吹けなかった。
この世界の人間は口笛が吹けないみたいだ。
「じゃあ、これなら出来るか?」
オレは「舌鼓」を打って見せた。
口の中で舌を上に丸めて口の奥で弾いて、「カンッ」と音を出す。
だが、これも異世界人には出来ないようだ。
「ちくしょう、ちくしょう。やっぱり、オレには素質がないのか」
風男は泣きながら地面を叩いた。
「子供の時からやらないと、こんな超絶技巧は無理か」
班長が呟いた。
オレは余裕を出して笑いながら言った。
「そうですね。子供の方が柔軟だから。
オレはガキの頃から、誰にも教えられずに吹けましたよ」
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