プロローグ的な
私ことライラ・ブラッドレーは、後々、悪の帝王として世界を恐怖で満たし、暗黒の時代を築く男の姉に産まれてしまった。
どうして知っているかというと、私には「ある物語」の記憶がある。
この世界には預言者という存在もいるけれど、それよりももっと明確に。具体的に。
これから先の未来を知っている。
『大魔法使いアリシアの冒険』
前世で大好きだった本。
天涯孤独の少女アリシアが、相棒の精霊猫と出会って魔法を覚醒させて、やがて国一番の大魔法使いとなるまでの物語。
そのなかで、同じく天涯孤独で世界一の魔力を持ったアスランという青年がいる。
彼は圧倒的な魔力で人々を従わせ、従わないものは殺していった。
やがてアリシアとアスランは対立し、最後は世界樹の力を借りてアスランを倒し、世界は平和になる。
――の、アスランさんの姉です。
本当にありがとうございました。
正直、私は小市民なので、世界平和のために弟を悪の帝王にさせてはならない!とかそういうことは考えていない。
たぶん無理だし。
ただ物語のなかで、アスランが天涯孤独とされていることから、たぶん私は死んでいると思われる。
いや、ぜったい死んでいる。
というか殺されてる説すらある。
弟に。
死にたくないし、せめて死ぬならやさしく殺してほしい。
そんな多大な打算でもって、私は弟と仲良く……までは無理かもしれないけど、せめて好感度は上げておきたい……!
ーーという私の甘い考えは目の前の光景でペシャンコになった。
弟、アリをつぶしてる。
プチプチやってる。
無理だこれ。