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第82話 アフターエピソード(3)クロノユウシャ

「耳の穴かっぽじってよく聞けよ。俺の後ろにはアストレアがいる。つまりお前らの行動は既にアストレアに筒抜けであり、謀反の動きも何もかも全部を把握しているってことだ。そして今日その動かぬ証言も得た。他ならぬお前たち自身の口からな」


「ばかな、まさかそのようなことが……」


「終わりだよモレイオス男爵。お前とお前の仲間にあるのは国家反逆罪による死、のみだ。一応アストレアに言われてるからな、ここでは殺さずにちゃんと裁判にはかけさせてやる」


 かつてのリュージなら、アストレアの命を狙う悪人と分かった以上は殺した方がはるかに手っ取り早いと考えただろうが、今は違う。

 悪人であっても、アストレアの求める正しい手順を踏むのが今のリュージだ。

 アストレアとの約束をリュージが(たが)えることはない。


 こうしてモレイオス男爵の企みは(つい)え、もはやこれまでと思われた――が、しかし。


「か、かくなる上は……者ども出会え、出会え!」


 モレイオス男爵のその声に、廊下から数十人ほどの武器を持ったガラの悪いゴロツキがぞろぞろと現れた。


「おいおい、俺とやるってのか?」

 その意図を察したリュージが、思わず苦笑する。


「ははははっ!」

「何がおかしいんだ?」


「よくよく考えてみれば、たった1人で何ができるというのだ! ここでお前を殺してから、王都各地に伏せてある戦力を結集して勢いそのまま王宮に攻め込めばいいだけの話ではないか! 我々には大戦力があるのだ!」


「大戦力、ね……まぁいいさ。やるってんなら、ここから先はどうなっても知らないぜ?」


 リュージの心に、激しい怒りの炎が燃え上がってゆく!


「ハハッ、威勢がいいのぅ」


「自分の命を狙う愚物相手であっても、公平な裁判にかけさせようとする心優しきアストレアの想いを聞き入れないとは、本当に救いようがない。俺は悲しいよ」


 リュージは怒りを激しく膨らませながら――しかし殺意は完全に封じ込めながら――師匠であるサイガの形見、菊一文字を音もなくスラリと抜いた。


「御託はもうたくさんだ! お前らやってしまえ! こいつを倒した者には盛大な褒美を取らしてやるぞ!」


 モレイオス男爵の命令を受けた浪人やゴロツキどもが、


「ヒャッハー!」×たくさん


 一斉に剣を抜くとリュージに斬りかかった。


「やれやれだぜ――神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』」


 リュージの身体が、冬に乱れ舞う風花のごとく荒れ狂った。

 鋭い斬撃が舞い踊るたびに血しぶきが――飛ぶことはなかった。


 片刃である菊一文字の刃を返したリュージは、峰打ちによって相手という相手を片っ端から昏倒させていく。


 配下のゴロツキたちや、謀反を共に行う同志たちが目にも止まらぬ速さでリュージにしばき倒されてゆく様を、モレイオス男爵はポカーンと呆気にとられて眺めていた。


 全員が気絶して倒れ伏すまでに、そう長くはかからなかった。


「な、な、なんの冗談なのだこれは……」


 リュージの圧倒的なまでの力を目の当たりにしたモレイオス男爵は、声を震わせながらへたり込むように尻餅をついてしまう。

 常軌を逸した圧倒的すぎる剣の技を見せられて、腰を抜かしてしまったのだ。


「さてと、これで残るはお前だけだ。モレイオス男爵、反乱を企てた代表者として何か言いたいことはあるか?」


 数十人をシバキ倒したにもかかわらず、疲れた素振りすら見せないリュージに、


「お、おとなしく裁判を受ける……い、いや。受けさせていただきます」


 モレイオス男爵は腰を抜かしたまま震え声で呟いた。


「まったく。最初からそう言ってりゃいいんだよ」


 リュージはモレイオス男爵も峰打ちで気絶させると、その身体を軽々と担ぎ上げて王宮に戻り、アストレアが極秘裏に編成した『クーデター特別対策チーム』へと引き渡した。


 こうしてモレイオス男爵を中心としたクーデター計画は、『クロノユウシャ』リュージの活躍によって事なきを得た。


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― 新着の感想 ―
[一言] その後芋づる式に馬鹿貴族が逮捕されるけど…仕事が出来る人間も中にはいるから質が悪いのが最大の悩み…
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