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第77話 エピローグ(3)契約の話

「俺の復讐は終わった。よって最初に交わした契約――復讐に必要な情報を俺に渡し、俺が動くための隠れ(みの)になるというアストレアの義務は完全に果たされた」


「なるほど、そういう話ですか。言われてみればそうですよね」


「ああ、晴れて契約満了だ」


「正直なところリュージ様といるのが当たり前になり過ぎて、今の状況が契約によるものだとは、今の今まですっかり忘れていました」


 アストレアとしては、目を治してもらったお礼はどれだけしてもしきれないと思っている。

 リュージはそれを契約と言うが、アストレアにしてみれば神の奇跡を与えてもらったようなものであり、そもそも契約以前の問題だったからだ。


「なんだ、忘れていたのかよ? らしくないな。疲れているのか?」


「リュージ様が私の心配をしてくれましたよ!? 明日は雨でしょうか?」


 わざとらしく驚きながら立ち上がったアストレアに、


「窓から見える空の感じだと、明日も晴れだろう。そうでなくとも今は乾期で晴れが多いからな」


 軽口で返してくるだろうと思っていたリュージがまたもやマジレスをし、アストレアは恥ずかしさを隠すようにコホンと小さく咳払いをして席に座り直した。


「でもそうですよね。私たちの契約はこれで終わり。王都を騒がせたクロノユウシャさんともお別れ。寂しくなりますね」


「そのことなんだが」

「はい、なんでしょう?」


「俺はこれからもクロノユウシャであり続ける」

「とおっしゃいますと?」


 アストレアが再び小首をかしげた。


「契約の更新がしたい」


「更新ですか? せっかく終わったのに、また私となにかしらの契約を始めるということですか?」


「そういうことだ。具体的には、これから俺に、アストレアのために剣を振るわせて欲しい。アストレアの国政改革が理不尽にねじ伏せられそうになった時、俺がクロノユウシャとしてその理不尽をねじ伏せる」


「その気持ちはとても嬉しいしありがたいのですが、これまでのようになんでもかんでも殺して回るというのは困ります。こう見えて私は、清廉潔白な女王として通っているんです」


 一部の後ろ暗い者たちからは、敵対者を容赦なく殺戮して回る『キリング・クイーン・アストレア』などと恐れられてはいるが――リュージの復讐がたまたまアストレアの利害と一致してしまったせいなのだが――世間一般のアストレアの評判は『クリーンで潔白な理想に燃える改革者』だ。


「不要な殺しは一切しないと約束する」


「言っておきますけど、『必要だから殺した』理論はなしですからね? もう騙されませんから」


 前回、それでリュージにいいように言いくるめられたこともあって、アストレアはやや警戒感を(あらわ)に問いかけた。


 しかしリュージは一辺の曇りもない瞳で言った。


「剣を振るう以上、死人はゼロにはできない。だが限界まで努力をする。他にもアストレアの出す条件は全て飲もう。決して約束は(たが)えないと、姉さんとパウロ兄と菊一文字──師匠の形見の刀に誓う」


 その言葉を聞いて、アストレアはリュージの本気度を理解した。


 リュージが最も大切にしている亡き3人に誓う──それはつまり絶対に約束を破らないという、リュージの確固たる意思表明に他ならなかったからだ。


「それはまた破格の条件ですね。それでそんな破格の条件を出したリュージ様が、対価として私に求める条件とはなんなのでしょうか?」


 一国を預かるアストレアとしては、それは必ず確認しなければならないことだった。


 リュージの力は、最も身近にいたアストレアが誰よりもよく知っている。

 リュージの力がなければ、例えばセルバンテス大公が挙兵した時など、早期解決どころか泥沼の内戦に陥っていたかもしれない。


 リュージの力は、それこそ万の軍勢すら凌駕(りょうが)する。


 そんなリュージの力を好きに使えるとなれば、断る理由はない。

 が、それでも。

 リュージの出す条件によっては、女王としてはノーと言わざるを得なかった。

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