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第74話 全復讐完了:カイルロッド=デルピエロ

「世界よ、真白く瞬け――」


 尋常ならざる速度で菊一文字が鞘走った。

 抜刀ととともに、世界が瞬きしたかと思うほどの鮮烈な光がほとばしる。


 それは神明流・皆伝奥義・八ノ型『シンゲツ』をも超える神速の抜刀術にして。

 それは神明流・皆伝奥義・七ノ型『天のイカズチ』をも超える絶大なる威力を誇る。


 そしてなにより全てを斬る剣士の覚悟が込められた!


 これが!

 これこそが!


 神明流の誇る卓越無比にして、絶対不敗の究極の一振り――!


「神明流・相伝奥義『紫電一閃(しでんいっせん)』!」


 リュージの持てる全ての『気』を注ぎ込んだその綺羅星のごとき一刀は、抜いたと思った瞬間には既に、カイルロッド=デルピエロの胴体を上下真っ二つに分割していた。


「ばか、な、この、ボクが……」


 カイルロッド=デルピエロの上半身が、重力に引かれて地面に落ちる。

 少し遅れて、支えるべきものを無くした下半身がバランスを失って地面に崩れ落ちた。


 いかに強大な大罪魔人といえども、腹のまん中で上下真っ二つにされては生きていられるものではない。


 色欲の大罪魔人カイルロッド=デルピエロは、リュージの放った究極の一振りによって、悪夢を振りまき続けたその生に、完全なる終止符を打たれたのだった。



「姉さん、パウロ兄、終わったよ。(かたき)は取ったから」


 物言わぬカイルロッド=デルピエロの亡きがらを見下ろしながら。

 両手首に巻かれた赤と青のミサンガを通して、天国にいる2人に語りかけるようにして。

 リュージは万感の思いを込めて呟いた。


 パウロが殴り殺され、ユリーシャが凌辱の末に命を絶ってから7年と10カ月。

 リュージの長い長い復讐のための戦いは、ついにここに完遂されたのだった。


 大願の成就によって、張りつめていた復讐者としての緊張の糸が、リュージの中でプツリと途切れる。


「ぁ――」


 その途端、リュージの身体がグラリと傾いて、そのままリュージは力尽きたように地面へと倒れ込んだ。


 大罪魔人カイルロッドを斬る。

 そのための究極の一振りに、生命エネルギーたる『気』を己の限界を超えて注ぎ込んだことで、リュージの身体にはもうわずかな力すら残っていなかった。


 大罪魔人という超越存在を斬るには、人間としての限界まで命を震わせ、『気』を高める必要があったからだ。


 文字通り全ての力を使い果たし、もはや指一本動かせないでいたリュージは、迫りくる己の死をひしひしと感じ取っていた。


 リュージの命の灯は今まさに消え去ろうとしていた。


 それでもリュージは薄れゆく意識の中で、これ以上ない満足感と比類なき達成感を覚えていた。


「姉さん……パウロ兄……俺はやったよ……」


 なぜなら、こうしてユリーシャとパウロの仇を討てたことが、リュージにはこれ以上なく誇らしかったのだから。


 だけど、ただ1つだけ。


「あすと、れあ……」


 薄れゆく意識の中で、リュージは残る全ての気力を振り絞ると、かすかに唇を震わせてその名を捨ててつぶやいた。


「あす、と……れ、ぁ……」


 アストレアの顔を。

 アストレアの笑った顔を。

 もう一度見ることが叶わなかったことだけが。


 満足感と達成感にその身を委ねるリュージにとって、ただ1つの心残りだった――


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