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第68話 剣士の覚悟

 リュージが全てを斬る覚悟とともに放った神明流・相伝奥義『紫電一閃(しでんいっせん)』は、サイガの腹を横一文字に深く斬り裂いていた。


 致命的な一撃を受け、立っていられなくなったサイガの巨体が、力なく地面に崩れ落ちる。

 内臓をズタズタに斬り裂かれたサイガは、口からありえないほどの大量の血を吐きこぼしていた。


「カハ――――ッ」


 崩れ落ちたサイガに、リュージは慌てて駆け寄った。


「師匠! なんで今、刀を抜かなかったんだよ!?」

 倒れ伏すサイガの身体を必死に抱き起こしながら、リュージは大きな疑問を問いかける。


 神明流・相伝奥義『紫電一閃(しでんいっせん)』を打ち合って白黒つけるはずだったのに、なぜサイガは抜刀しなかったのか。

 サイガがリュージよりも遅いはずがはない。


「刀を抜けずに殺されることがあったとしたら、それは俺だったはず。なのに、どうして――」


 突然の事態にひどく混乱しているリュージに、サイガがゆっくりと語りかける。

 

「へへっ、バカやろうが……可愛い(まな)弟子を斬る師匠が、どこにいるってんだ……」


「なに言って……だって俺は剣士として未熟だって、ふさわしくないから斬ってやろうって。そう言ったのは師匠じゃないか!」


「ばーか、俺が何十年もかけて、ようやっと習得にいたった神明流を……お前はたったの7年でマスターしたんだぞ? お前ほど……剣に愛された奴はいねえっつーの……。『気』の扱い方だって天才的だ……。オレがお前の才能に、どれだけ嫉妬したと、思ってんだ……」


「師匠が俺に嫉妬するだなんて、そんなことあるわけないだろ。だって俺は師匠に全然(かな)わなくて、一度も勝ったことがなくて──」


「そりゃ単なる経験の差さ……安心しろ。あと3年もすりゃ、オレじゃ、何をどうやったって、お前には勝てなくなる……お前には、本物の天賦(てんぷ)の才がある……」


「だったら、さっきはなんであんなことを言ったんだよ? 俺にはがっかりしたって、そう言ったじゃないか!」


「んなもん、お前に覚悟を決めさせるための嘘に、コホッ……決まってんだろ……」

 サイガの口調が少しずつ辛そうに、そして目に見えて弱々しくなっていく。


「嘘……だって?」


「お前の根っからの優しさは、いつか必ずお前を殺す……。優しいお前は……いつかどこかで迷ってしまう……。そんな迷いのある剣じゃ、斬れるものも斬れなくなる……さっきオレと相対した時のようにな……」


「あの時の俺は確かに迷っていた。師匠と殺し合うってことを、受け入れられないでいた。てんで覚悟が決まってなかった。でも、だからって――!」


「オレはお前に、覚悟を持たせたかった……師であるオレを斬ることで……目の前の敵全てを斬り伏せる、剣士としての強い覚悟を、お前に持たせたかった……」


「まさか最初からそのために全部仕組んでいたのか? シェアステラの大使館にカイルロッド皇子の情報を漏らしたのも、もしかして師匠だったのか?」


 パズルのピースが次々とハマっていくように、リュージの中で全ての情報が繋がっていく。


 国家機密であるはずのカイルロッド皇子の動向が記された、差出人不明の手紙。

 あの手紙は、リュージを呼びだすためにサイガが出したのだ。

 なにせサイガはカイルロッドの用心棒をしていたのだから、その動向を知るのはなんら難しいことではない。


 そして神聖ロマイナ帝国の皇子という地位にあり、最も近づくのが難しいカイルロッド皇子を殺す千載一遇のチャンスともなれば、少々情報の出所が怪しくてもリュージが来ないはずはない。


 全てはリュージに覚悟を決めさせ、超一流の剣士の境地にいざなうため。

 真剣勝負で斬り合うこの状況を作り出すためにサイガが打った、布石だったのだ――!


「かはっ、こほっ……ははっ、すまんな……こんな下手くそなやり方しかできない、不出来な師でよ……」


 サイガは謝りながら、ほんのわずか、動かない身体をどうにか動かして小さく頭を下げた。


「そんなことはない! 師匠は最高の師匠だよ! 俺に色んなことを教えてくれて、戦う力を与えてくれた! そりゃメチャクチャなことも多かったけど、でも今だってこうやって、俺の足りないところを教え諭してくれてるじゃないか!」


「嬉しいことを、言いやがって……だがその話は今はいい。もう、オレには……ほとんど時間が残されてないからな……無駄話は、なしだ」


「師匠……」


 サイガに諭され、リュージは押し黙った。

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