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第65話「いいかリュージ、刀を振るうってのは殺すってことだ」

「そ、それは――」


「そういや昔も似たような話をしたっけな。なんだお前、全然変わってないじゃねえか」

「ぐ……」


「いいかリュージ、刀を振るうってのは殺すってことだ。たとえ相手が師匠だろうが恩師だろうが関係ない。なさねばならぬ宿願を成就させるためには、立ち塞がるヤツは全て、斬って斬って斬り捨てる。それこそ自分の親だろうが、子供だろうがな。それが剣士の覚悟ってもんだ」


「でも……」


「でももヘチマもねぇんだよ。覚悟のない剣士に待っているのは、ただただ無価値な死だけだ。何も為すことのできない、惨めな犬死だ。オレに殺されてここで終わるお前のようにな」


「…………」

 サイガの言葉にリュージが唇を噛んだ。


「おいおい、さっきはあんなに饒舌(じょうぜつ)だったのに、今度は急にダンマリか? ああそういや、お前にはこの言葉を教えていなかったな」


「言葉……?」


「神明流では『気』を自在に操れるようになって二流。針の穴に糸を通すような精緻なコントロールができるようになって、初めて一流だ。だがその上、超一流ともなればさらに別の要素が求められる――それがなんだか分かるか?」


「それが……覚悟?」


「そうだ。全てを斬り捨てる剣士の覚悟だ。精緻な『気』のコントロールをたったの7年で身に着けたお前は文句なしに一流だ。ぶっちゃけ俺よりも才能がある。だがその甘っちょろい頭の中は、超一流には程遠いのさ。お前はまだ超一流の境地に達していない――いや、かすりもしていない。てんで覚悟が足りていないからだ」


「超一流の境地――」


「少なくともその境地に達していれば、今頃オレの命はなかったろうよ。だがお前はたどりつけなかった。なぁリュージよ、おまえの覚悟はそんな程度なのか?」


「俺は……俺は……」


「剣を極めるとは、迷いを捨て、全てを斬るという決してブレない覚悟を持つことに他ならない」


「だけど俺は、復讐するって強い覚悟を持って――」


「だが現にお前はオレを斬れないでいる。師匠だからといって殺すのをためらっている。なぜか? 復讐のために全てを斬り伏せる覚悟が、お前の中でこれっぽっちも定まっていないからだ。一言で言うと甘いんだよ」


「だって……だって師匠は、師匠じゃないか! 俺に戦うための力を、いやそれだけじゃない! いろんなものを与えてくれた師匠を、斬れるもんかよ!」


「あーあ、まだ分かんねえのか。本当にどうしようもない甘ちゃんだな、お前は。よくそれでここまでやってこれたもんだ」


「俺……は……」


「まったく、才能があり過ぎるってのも罪なもんだな。覚悟も無しにここまで来れてしまうんだからよ」


 サイガの声に失望が混じっていることを、リュージはひしひしと感じ取っていた。

 それはサイガからはただの一度も向けられたことがない感情で、リュージはそのことがどうしようもなく恐ろしかった。


「師匠……俺は……」


「思い返せば出会った時からそうだった。だがな、それじゃあ早晩行き詰まる。たとえ誰が相手であろうと、何が立ち塞がろうとも、全てものともしない確固たる覚悟が! たった1つの切なる願いを叶えるために、他の全てを斬って捨てる覚悟が! そんな剣士の覚悟がお前にはないからだ!」


「でも……っ!」


「お前は一流の剣士だよ。よくぞたったの7年で神明流の技の数々を極めてみせた。その才能は見上げたもんだ。だが超一流には程遠い。お前のママゴトのようなぬるい考えじゃ、守るものも守れない。それこそ7年前のようにな」


「――っ!」


「奪われるだけの惨めな負け犬にまた戻るのか?」

「俺、は……」


「もう一度問うぞリュージ。お前の覚悟はそんな程度のものなのか?」

「俺は、俺は……だって……」


 リュージはその問いに、どうしても答えることができなかった。


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