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第63話 師と弟子、神明流vs神明流

「言って分からないなら、やるしかないか。悪いが師匠、ここは押し通らせてもらうぞ! 神明流・初伝『剣気発生(はっしょう)』」


 リュージが刀を構えた。

『気』をコントロールし、戦うための力を身体中にみなぎらせる。


「いいぞ、いつでもかかってこい」

 サイガがそう言った瞬間――いや、最後まで言い終わる前に、


「神明流・皆伝奥義・一ノ型『ダルマ落とし』!」


 リュージは鮮烈な踏み込みから、不意打ち気味に鋭い一撃を放った。

 分厚い岩をも易々と斬り砕く横薙ぎの一閃が、サイガを急襲する!


 ギィンッ!


「おいおい、いきなり不意打ちかよ? オレはもう60を過ぎてんだぞ? お前には老人を敬う敬老の精神ってもんが、足りてなさすぎるんじゃないのか? やだねぇ、最近の若者は」


 しかしサイガは軽口をたたきながら、その一撃をいとも簡単に受け止めて見せた。


「なにが敬老精神だ。今のを技も使わずに軽く『気』をコントロールしただけで受けとめる相手に、そんなもん持つ必要はねえっつーの」


 サイガの規格外の強さに、リュージは呆れたように言った。

 並の騎士なら、今ので刀ごと身体が上下真っ二つに分離している。


「いやいや、老人は敬えよな? 大事なことだぞ? しかもオレはお前の師匠なんだ。世の中、礼儀や礼節ってもんがあるだろう。せめて俺が話し終えるまでは待てよな」


「残念ながら、師匠から礼儀や礼節なんてもんを教えてもらった記憶は、これっぽっちもないんだよなぁ」


 リュージにあるのは、例えば無人島で1カ月生き延びろと言われて放置されて、必死に生き延びて。

 なのに2か月経っても迎えにやってこず、このまま冬になったら間違いなく死ぬと思って、自力でなんとか本土までの20キロを泳いで帰ったら、


『もうそんなに経っていたか? すまんすまん。ま、無事に帰ってきたんだし、いいじゃねぇか。ダハハハハハっ』

 と酒瓶片手に尻をかきながら、ブッと屁をこいてあっけらかんと言われた――そんな記憶ばかりだった。


「まったくお前は本当に口が達者だな。何事にも慎ましいオレじゃ、舌戦(ぜっせん)は勝てる気がしねえぜ。だいたい俺の口は、酒を飲むためについてんだからよ」


「完全にアル中の発言じゃねぇか」


「ってわけだから、やっぱりオレは剣術(こっち)だな。今度はオレから行くぜ? 初手で死ぬなよ? 神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』」


 今度はサイガが目にも止まらぬ連続技を放った。


「く――っ、神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』!」

 それをリュージは『気』の消費が大きい対軍奥義で迎え撃つ。

 

 ギャン! ギン! ギャリン! ギンッ!

 これでもかと激しく火花を散らして、何度も何度もぶつかり合う刀と刀。

 

 本来、五ノ型『乱れカザハナ』は三ノ型『ツバメ返し』のほぼほぼ上位互換の技だ。

 だからリュージは『気』の消費が大きい分だけ、優位に打ち勝てるはずだった。


 しかし、


「ぐぅっ――! このっ!!」


 猛烈な連続技の応酬の中、押し込まれ始めたのはリュージの方だった。

 打ち合えば打ち合うほどに、リュージはじりじりと防戦一方に追い込まれていく。


 キンッ! ギィン! ギャン、ギン、ギャン!!


「どうしたどうした? 達者なのは口だけか?」

「くっそ――っ!」


「『気』のコントロールが甘い。もっと身体の奥深くまで『気』を感じろ。そして丁寧に練り上げて、今度はそれを身体の隅々まで行き渡らせろ」


「うっせぇ、言われなくとも! ぐぅ――っ!!」


 ギンッ! ギィン!


「頭じゃなくて、身体全体で『気』をコントロールしろ。技を出すために『気』を使うんじゃない、『気』の発露が自然と技に昇華されるんだ。それが神明流だと、何度も教えただろう?」


「耳にタコができるくらい何度も聞かされたっつーの! ぐぅ、このっ!!」


 ギャリン、ギン! ギン! ギャン!!


 なぜ格下のはずの技で、こうも圧倒的に打ち勝てるのか?


 それはサイガが『気』をコントロールする精度が、リュージのそれよりもはるかに高いからに他ならなかった。


 瞬間的に『気』を高める練度はサイガがリュージを圧倒している。

 使い手の『気』のコントロール精度が技の威力に直結するのが、神明流という剣術の最大の特徴なのだ。


「さてと、いい感じに身体があったまってきたな。準備運動はこれくらいでいいか。じゃあ、ペースを上げるぞ?」


「今のが準備運動とか、相変わらずの化け物ぶりだな!? ぐぅッ、速い――!?」


 ギンギンギン! ガンギン! ギャリンギン!!


 サイガの攻撃が、さらに激しさとキレを増していく。

 サイガにとって今までの斬り合いは、文字通りウォーミングアップに過ぎなかったのだ――!

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