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第6話 シェアステラ国王ライザハット

 まるで赤子の手をひねるがごとく、いとも簡単に周囲の兵士を無力化したリュージは、次に跳ね橋を引き上げていた鉄の鎖を斬りにかかった。


 数本の太い鉄鎖を束ねた巨大な鎖も、リュージの神明流の前では絹糸と大差はない。


「神明流・皆伝奥義・一ノ型『ダルマ落とし』!」


 岩をも砕き斬る横薙ぎの一閃が、跳ね橋を釣り上げていた鎖を苦もなく断ち切ると、


 ジャラジャラジャラジャラジャラ――ドゴォォォォォン!


 滑車を鎖が派手にこする音がして、跳ね橋が轟音とともに対岸へと下りた。


 いや下りたというより、落ちたと言ったほうが正しいかもしれない。

 どちらにせよ、堀と跳ね橋の2つの障害を、リュージはいとも簡単に攻略してみせた。


 そして、


「神明流・皆伝奥義・二ノ型『カワセミ』」


 刀の切っ先に強烈な剣気を込めた一気の突きが、巨大な城門を吹き飛ばしてぶち破った。


 巻き込まれた場内の兵士が何人も吹き飛び、やぐらの上にいた兵士が激しい衝撃で落下する。

 3つ目の障害も難なくクリアしたリュージはそこで後ろを振り返ると、水堀の向こうにいる青年リーダーに、さっさと来いと手招きをした。


 人間の常識をはるかに超えたリュージの行動の前に、呆けていた青年リーダーはそれでハッと我に返る。


「みんな! 見ろ、道は開けた! 行くぞ! 一気に城内になだれ込め!」


 すぐに周囲に声をかけ、気勢をあげて跳ね橋を渡り始める。

 最初はわずかな集団だったそれは、しかしすぐに人々の大津波となって一気に王宮内へとなだれ込んだ。


 もちろん兵士たちは、それに応戦しようとする。

 しかし圧倒的なまでの多勢の前にはいかに王宮を守る正規兵といえども、なすすべなどありはしなかった。


 それに加えて指揮官や部隊長といった指揮系統を、リュージが片っ端から殺して回っていたため、門を守っていた守備隊はすぐに持ちこたえられなくなって瓦解した。


 そしてリュージはというと、大騒ぎになっている王宮内の最奥へ向かって駆けていた。

 目指しているのは、この国の王がいる『王座の間』だ。


 見えてきた豪奢な扉を守る近衛騎士2人をこれまた瞬殺すると、リュージは扉を蹴り開けて王座の間へと乱入した。


 玉座の間では宰相や大臣たち、この国の為政者たる10人の重鎮貴族たちが、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論を行っていた。


 といっても首謀者をギロチンにかけろだの、政治犯をどんどんと投獄しろといった、自らの失政を棚に上げた自己中心的が極まりない議論であったが。


 そしてその一番奥にあるきらびやかな王座に座った、ぶよぶよに太った醜い豚のような男がこの国の王たるライザハットだった。


 この国を動かすまさに心臓部へと、リュージは踏み込んだのだ。


「何者だキサマ!」

「下がれ下郎が!」

「ここを王座の間と知っての狼藉か!」

「無礼者め、わきまえよ!」 


 王座の間を守る近衛兵が剣を抜き、槍を向け、重鎮貴族たちが口々にリュージを非難する。

 しかし、


「神明流・皆伝奥義・三ノ型『ツバメ返し』」


 リュージの息をもつかせぬ連続の斬り返しで、彼らはまたたく間に死体の山と化した。

 この時点で、既にこの場で生き残っているのは、玉座に座るライザハット王ただ一人だけ。

 一辺の情け容赦すらない、恐ろしいまでの殺しぶりだった。


「ま、まさか今の一瞬で全員を殺したのか!? なんということを! こ、このようなことをしでかして、貴様はなにが望みなのだ……!?」


 容赦のない殺戮を目の当たりにしたライザハット王は完全に腰を抜かし、恐怖に声を震わせる。

 長年続いた平和で完全に平和ボケしていたところに、目の前で凄惨な殺戮劇を見せられたのだから、それもまた仕方のないことではあったのだが。


「どうも初めましてライザハット王。早速だが、今からあんたには俺の質問に答えてもらう。誠実に答えなければ、あんたもああなる」


 リュージはうすら笑いを浮かべながら、親指で死体の山を指差した。


「質問……だと……?」

「そうだ。もう一度言うが、嘘を言ったと俺が思った瞬間にお前の首は飛ぶ。心しておけ」


 リュージがわずかに目を細めると、


「わ、分かった。答える、誠実に答えるから、命だけは助けてくれい!」

 ライザハット王はコクコクコクコクと、情けない程に何度も首を縦に振ったのだった。


「じゃあ聞くぜ。7年前の夏、神聖ロマイナ帝国のどの皇子がこの国に来た? 名前を言え」


「7年前? 神聖ロマイナ帝国の皇子? 何の話をしておる?」


「神聖ロマイナ帝国には20を超える皇子がいる。7年前にどいつが来たかと聞いているんだ!」


「す、すまぬ、だがあまりに昔のことでよく覚えていない――」


 その言葉を最後まで言う前に、リュージの刀の先端がライザハット王の右目を突いて容赦なくえぐった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 目が! ワシの目がぁっ! 痛い! 痛い痛い痛いイタイ!!」


 ライザハット王が右目を抑えながら玉座から転がり落ちる。

 そのままのたうち回って、痛い痛いと子供のように絶叫し泣きわめいた。


 しかしリュージは抗議の声を意にも介しはしない。


「うるせえんだよ、静かにしろよ。大の大人がこれくらいでぎゃーぎゃー泣きわめくんじゃねぇ。右目が無くても左目がありゃ見えるだろ」


 小馬鹿にしたように言いながら、リュージはライザハット王の腹を蹴り飛ばした。


「グフッ――! な、なにを馬鹿なことを申すか! このワシの右目が、右目が――!」


「俺は静かにしろと言ったんだが? 右目だけじゃなくて、左目もなくしたいのか? それとも今すぐ死ぬか? なんなら選ばせてやるぜ?」


 リュージが笑いながら刀を振り上げると、


「ひっ!? ぐっ、ぐぐっ……ひぐっ、うぐっ、ぐ……」

 ライザハット王は必死に痛みをこらえながら押し黙った。


「なんだよ。やりゃできるじゃねえか。俺は素直なやつは嫌いじゃないぞ」

「た、頼む、どうか命だけは助けてくれ」


「それはお前の返答次第だな。じゃあもう一度聞く。だが次はない、それだけは肝に銘じておけ」

「わ、分かっておる」


「7年前の夏にここに来たのは神聖ロマイナ帝国の第何皇子だ? すぐに死にたくなけりゃ、死ぬ気で思い出せ」


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