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第59話 師の夢(1)


 リュージは夢を見ていた。

 普段は滅多に見ることのない、師匠であるサイガ=オオトリと神明流の修業に明け暮れていた頃の夢だ。



 山奥にあるわずかに開けた川べりで、焚火(たきび)がパチ、パチと小気味よい音を立てながら燃えている。


「くっそ、いてぇ……」


 リュージは明々と燃える焚火を挟んでタイガと向き合って座りながら、赤く腫れた頬をさすっていた。


 1週間前からリュージはサイガに連れられて、この地域を荒らしまわっていた巨大な暴れ熊の退治にやってきていた。


 体長5メートルを超える狂暴な大熊がこの地域の人々を震撼させており、連日のように家畜が襲われ、狩りに向かった猟師が何人も返り討ちにあっていた。


 業を煮やしたこの地方の行政府は、虎の子の駐留騎士団を投入して大規模な山狩りを行ったのだが、それでも仕留めることができずに、ついに凄腕の剣士であるサイガに暴れ大熊を討伐して欲しいという依頼が回ってきたのだ。


 今日はついにその大熊と合間見えたのだが、早々に、


『よし、リュージ。こいつはお前が1人で殺ってみろ』


 そうサイガに言われたリュージは、いきなり初めての『実戦』に臨むことになった。


 リュージは習得中の神明流を駆使し、苦戦しながらもなんとか暴れ大熊を倒すことに成功したのだが。


 途中で倒したと思って気を抜いた瞬間に、死んだ振りをしていた大熊の反撃を受け、顔に一発いいのをもらってしまったのだ。


 神明流の『気』によって瞬間的に防御力を極限まで高めていなければ、今ごろリュージの頭と身体は永遠の別れを済ませていたことだろう。


「だははっ! あれは死んだと思って油断したお前が悪いんだよ。俺はちゃんと気付いていたぞ」

 リュージのあわやの失態を、サイガがあっけらかんと笑い飛ばす。


「だったら教えてくれたら良かったじゃないか」

「ばーか、言ったら修行にならないだろ。危険には自分で気付けるようにならないと意味がねーんだよ」


「それで俺が死んだらどうするつもりだったんだ?」

「だが死ななかっただろ? ほら見ろ、俺の見立て通りだ」


「それはそうだけどさ」


「だがまぁ、かわせないと判断した瞬間に、気を高めて全力で防御に徹した。油断はしたが、ちゃんと次の最適行動を取ることはできていた。さすがは俺の弟子だな」


「なにが『さすがは俺の弟子だな』だ。言っておくが俺はまだ修行中なんだぞ? いきなり実戦とかスパルタ過ぎるだろ」


「残念ながら戦場じゃ、修行中の若造だろうが、老い先短い老兵だろうが、誰も気にかけてくれないんだよなぁ。そんな甘い気持ちじゃ、どれだけ高度な戦闘技術を身に着けようが、すぐに死ぬぞ?」


「ぬぐ――っ」


 痛いところを突かれたリュージが、言葉に詰まった。

 ()ねたような、いじけたような顔を見せる。


「でも、ま、初めてにしては本当のよくやった。修業した通りにちゃんと戦えていた。リュージ、お前には戦う才能がある」


「お世辞はいいっての。師匠から見たら俺なんて、生まれたてのヒヨコみたいなもんだろ。あーあ、俺も早く師匠みたいに強くなりたいなぁ」


「なぁリュージ」

「ん?」

「そもそも強さとは何だと思う?」


 問いかけてきたサイガの声が――さっきまでの酒飲みのだらしないおっさんではなく――真面目な剣士の声色をしていることを機敏に感じ取ったリュージは、目をつぶってアホな自分なりに「強さ」について考えてみた。


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