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第57話「真犯人はお前だったんだなアストレア」

「ちょ、誤解ですってば!」

「何が誤解だってんだ。よりにもよってお手紙を貰ったとか、舐めてんのか俺を?」


「だって考えてもみて下さいよ。神聖ロマイナ帝国でうちみたいな小国が、露骨な諜報活動をできるわけがないじゃないですか」


「そりゃ、まぁな」


 アストレアの言葉に、リュージは確かにもっともだと気持ちを落ち着かせた。

 視線で話の先を促す。


「大国の中の大国である神聖ロマイナ帝国は、諜報力もシェアステラ王国の比ではありません」


「下手なことをしたら墓穴を掘る、か。その気になれば、俺のことまで調べ上げられるだろうな」


「はい。ですから、あくまで普通の情報収集の延長で、カイルロッド皇子についても入ってきた情報を都度都度(つどつど)チェックしていた程度なんです。監視だってしていません」


「つまりこっちの諜報活動がバレたから、おびき出すためにお誘いが来たわけじゃないってことだな?」


「そこは間違いありませんね。なにせ諜報活動なんてしていないんですから、バレようがありません」


 アストレアが小さく肩をすくめた。


「それじゃあどういうことなんだ? 誰が何のために、カイルロッドの動向を封書で知らせるなんてことをしたんだ?」


「そんなことを私に聞かれても……」


 アストレアが困ったようにつぶやいた。


「まぁいい。つまりまとめるとだ。少なくともシェアステラ王国がカイルロッドを調べたいと思っていることを見抜いた奴がいて。目的は分からないが、そいつが情報を流してくれたわけだ」


「……そういうことなんですかね?」


 アストレアはどうにも納得のいかない様子で、曖昧な表情で首をかしげた。

 リュージも自分で言っておきながら、無理のある推理だと思いかけて――そこで、はたと気が付いた。


「ああそうか。そういうことか」

「はい?」


「つまりお誘いを受けているのは、シェアステラ王国じゃなくて俺なんだ」

「リュージ様をですか? それこそなんのために?」


「さあな。もしかしたら俺が姉さんとパウロ兄の仇をとって回っていることに気付いて、俺をどうにかしたいと思っているのかもな」


「さすがにそれはないんじゃないですか? だって私以外にリュージ様の復讐を知る人はいませんよ? まぁセバスは、うすうす勘付いているでしょうけど。いろいろと調べてもらっていますし。ですが彼は絶対に裏切りませんよ。絶対です」


 リュージにアレコレ頼まれた調べものを、アストレアが自分で調べているわけではない。

 新女王となってからのアストレアは本当に多忙であり、代わりに調べているのは長年忠義をつくしてきた、最も信頼できる側近の専属執事セバスチャンだ。


 セバスチャンは元・王国騎士団長を務めるなど極めて有能であるため、リュージの目的や行動に気付かないはずがない。


 しかしセバスチャンの口から秘密が漏れることが決してないことを、その人となりをよく知るアストレアは確信していた。


「ふむ……。話をまとめると、お前以外に俺の復讐を知る人間はおらず、なのに俺を誘い出そうとする手紙が来た、と」


「ええ、まぁ。そうなりますね」


「なるほど、謎はすべて解けた」

「本当ですか? でしたらぜひ答えを聞かせてください」


 思わずと言った様子で身を乗り出したアストレアに、リュージは言った。


「これはお前が仕掛けた罠だったんだな」

「……え?」


「つまり真犯人はお前だったんだなアストレア。仕方ない、殺すか」


「なんでそうなるんですか!? むしろ私はリュージ様の一番の協力者だと思うんですけど!? リュージ様に頼まれていろいろ調べてあげましたし、復讐の後始末をしたり、証拠を揉み消したり、もろもろ便宜を図ってあげていますよね!?」


 予想だにしなかったひどい濡れ衣を着せられて、さすがのアストレアも声を荒げた。


「えっ?」

「いやあの『えっ』て……、ええっ!?」


 リュージのまさかの反応に、アストレアが真顔になる。

 しかしリュージはあっけらかんと言った。


「ははっ、冗談だっての。なにマジな顔してんだ。これくらい笑って流せよ」

「リュージ様が言うと、ちっとも冗談に聞こえないんですが……」


 どうにも納得のいかないアストレアだった。



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