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第55話 真っ赤な嘘

 セルバンテス大公への復讐を果たし、数日かけてセルバンテス城からシェアステラ王国王都の王宮にある自室へと戻ってきたリュージのところに、


「お久しぶりですリュージ様、お元気そうで何よりです」


 アストレアがやってきた。

 実に半月ちょっとぶりの再会になる。


「ん、ああ」


 しかしリュージはベッドに寝転がったままで顔だけアストレアに向けると、少しおっくうそうに答えた。

 いつにも増して不遜な態度は、もし誰かが見ていれば女王陛下に対する不敬罪だと大きな声で非難することは間違いないだろう。


 しかしながらこの部屋にはリュージとアストレアだけしかいないし、なにより当のアストレアがまったく気にしてはいないので、問題はなかった。


 むしろ久しぶりにリュージと会えて、激務続きで溜まっている疲れが楽になりました、といった感じのハピハピなアストレアである。


 短期決戦で圧勝したとはいえ、父でもある先王の弟を討った内戦の事後処理にアストレアは忙殺されていた。

 さすがに忙しすぎて、ここ最近は国政改革も後回しになってしまっている。


 なにせ身体が2つあっても足りない程に忙しいのが、今のアストレアなのだから。


「帰ってきたのなら、挨拶くらいしに来てくれても良かったんじゃないですか? 2日くらい、リュージ様の方から会いに来てくれるかなって、待っていたんですけど」


 アストレアが上目づかいで、ほっぺをちょこっと膨らませながら意見する。

 その姿は、誰もが認める聡明な女王としての普段の凛々しい姿からは想像もできない程に、とても可愛らしく可憐だ。


 アストレアがリュージに心を許しているからこその、この表情と態度だった。


「大きな内乱を終わらせたばかりの女王ともなれば、それはもう忙しいと思ってな。邪魔にならないように、俺から会いに行くのは控えていたんだ」


「リュージ様……えへへ、お気遣いありがとうございます。そんなこととは露知らず――」


「悪い、今のは真っ赤な嘘だ。今回は行って帰っての強行軍だったから、正直少し疲れていてな。あと単に面倒だったのと、なにより特にお前に用はないから会いには行かなかった」


 やけに嬉しそうに笑いながら言ったアストレアが、リュージのパッと思いついた口から出まかせに踊らされたままでいるのは不憫でならなくて。

 だから心優しいリュージは、正直に真実を告げてあげた。

 こう見えてリュージは優しい男なのだ。


「……ですよね、はい。まぁ実際、今は戦後処理で目が回るほど忙しいですからね。うん、そうなんですよ、ええ、はい……」


 ションボリと肩を落として力なくつぶやくアストレア。


「だろうな。なにせセルバンテスが治めていた東部の広大な領地が、丸々空いたんだからな」


「そうなんですよねぇ。しばらくは代官を派遣して直轄統治するにしても、いつまでも空けっぱなしにするわけにもいきませんし」


「領地を持たない宮廷貴族や名のある騎士たちは、その辺りを見越して論功行賞であわよくば領地持ちになろうと、新女王のお前に取り入るべく、今頃必死のアピール合戦をしているんだろうな」


「ええ、まぁ……」


「またとない千載一遇の機会だもんな。アピールをするために、取って付けたような理由で、クソ忙しいお前に謁見を求めに来る奴らの顔が目に浮かぶよ」


「だからいちいちテンション下がることを言うのはやめてくれません!? ほんと、調整にめちゃくちゃ苦労しているんですからね!?」


 広大な元セルバンテス大公領を細分化し、それぞれに新たな領主と、直轄領には代官を配置する。


 口で言うのはとても簡単だが、今回の内乱での活躍を精査した上で、


・統治経営能力が領地の大きさ・収入に見合っているか、

・野心はないか、

・隣国との関係はどうか、

・王家や上級貴族との姻戚関係はあるか、

・その他利害関係やら隣り合う領主の個人的な人間関係、


 などなど、もろもろ全部を調整して、地図の中に落とし込まないといけないのだ。


 内戦が始まって以降、アストレアの睡眠時間はいまや2時間を切ることもざらだった。

 1日でいいから心ゆくまでぐっすり寝たい――それが最近のアストレアの切なる願いである。


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