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第52話 薄汚れた騎士道(2)

「お前らは生きているだけで害悪だ。お前らみたいクズしかいないから、弱者はいつも虐げられ、奪われ、好き放題に(むさぼ)り尽くされるんだ」


「ブタだのクズだの……我ら近衛騎士に対する数々の(そし)り、もう許さんぞ……!」


「勘違いするな、許さねぇのは俺の方だ」

「なんだと?」


「てめえらのそのクソみたいな騎士道が、守るべきものを守らないでいたせいで! 姉さんは男どもに何度も犯され、パウロ(にい)は顔の形が判別できなくなるまで殴り殺された! ったく、最初は見逃してやろうと思っていたが気が変わった。今からてめえらには、その愚かな騎士道とやらの贖罪をさせてやる」


 その言葉とともに、リュージが目にも止まらぬ高速の抜刀術を抜き放った。


 わずかに遅れて、端にいた近衛騎士2人の首がゴトン、ゴトンとカボチャを落としたような音をたてて床に落下した。


「神明流・皆伝奥義・八ノ型『シンゲツ』」


 その太刀筋は見えない月=新月のごとし。

 速さに特化した、目にも止まらぬ抜き打ちの一閃である。


「ひぃっ!? 首がっ!?」

「ひっ!?」

「なにが――」


 残った近衛騎士たちの顔が、驚きと恐怖に染まった。

 今の一刀を目で追えた者は、この中には1人もいなかった。


 当然だ。


 騎士道などという生ぬるいお花畑の中で、ぬくぬくと既得権益を享受してきた愚かな近衛騎士ごときに、姉の復讐のために命を懸けて会得したリュージの神明流の太刀筋が、見えるはずなどないのだから。


「まずは2人――」


 鮮烈な殺意のこめられたリュージの黒い瞳が、残った近衛騎士たちをにらみ据えた。


「ひっ!」

「ぎゃぁっ!」

「あがぁっ!」


 そしてリュージが刀を振るうたびに次々と悲鳴が上がり、近衛騎士たちは抵抗らしい抵抗も出来ずに、ただただ惨めに斬り殺されていった。


 ものの1分も経たないうちに、12名いた騎士は、老騎士とすぐそばにいた若い騎士の2人だけになってしまった。


「な、なにが起こっているというのだ……? こ、これは強い弱いのレベルではない。もはやこれは悪鬼羅刹(あっきらせつ)の所業だ。なんの冗談なのだこれは……」


 大公の間に新たに増えた10個の死体に囲まれて、老騎士が恐怖におののきながらつぶやいた。


「次はボクが相手をする!」


 しかし恐怖に震える老騎士を守るようにして、隣にいた若い騎士が剣を構えるとリュージに相対するように前に出た。


「ば、バカ者! お前はまだ近衛騎士としては、生まれたばかりの雛鳥にすぎぬ。なにより結婚を間近に控えておる身。ここはワシが引き受ける。ザッカーバーグ、お前はすぐに逃げよ。これは部隊長による命令であるぞ!」


 老騎士が強い口調で出した命令を、


「まさか、あなた一人を放ってはいけません! 未熟なこの身とはいえ近衛騎士の栄誉を授かった者として、ボクも最後までここで戦います!」


 しかしザッカーバーグと呼ばれた若い騎士は、これを強い口調で拒絶した。


「ならぬ! お前は生きよ! お前が死ねば残された者はどうなる! ここは逃げよ!」


「仲間を見殺しにして自分だけおめおめ逃げるなどと、近衛騎士としてそのような生き恥をさらすわけにはまいりません!」


「真に大切なものを守るために、時に生き恥を晒してでも生き残ること。これもまた騎士道と心得よ!」

「ですが!」


「お前も見たであろう、こやつの強さと非道さは人の手に余る」

「それは――」


「こやつは人の道を完全に踏み外した、まさに人外。この世に生まれ落ちた悪鬼羅刹(あっきらせつ)じゃ。人の顔をした異形、悪魔の申し子なのじゃ!」


「だからと言って――!」

「ザッカーバーグ!」


「いい加減うるせえんだよお前ら。俺を無視しながら、好き放題悪しざまにディスってんじゃねぇ」


 なぜかリュージそっちのけでお涙頂戴のやりとりを始めた2人に、リュージはイラついたように言うと、


「神明流・皆伝奥義・九ノ型『とうざんさんたんネムるがごとし』」


 若き近衛騎士ザッカーバーグの胸にむかって鋭い突きを放った。


「あガ――っ!?」


 心臓を強烈に打たれ、その鼓動を一瞬にして止められたザッカーバーグは、そのまま糸が切れたマリオネットのように力なく崩れ落ちた。

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