第5話 シェアステラ王国暴動
この日、シェアステラ王国・王都にある王宮を、無数の群衆が取り囲んでいた。
この地に王家が誕生して以来、最大規模の大暴動だった。
重税に次ぐ重税に耐えかね、税の軽減を求めて立ちあがった民衆たちは十万人をゆうに越え。
それが王宮をぐるりと取り囲んで、あちらこちらでシュプレヒコールを繰り返している。
しかし王宮は幅15メートルはあろう巨大な水堀によって守られており、水堀を渡るための跳ね橋も上げられてしまっている。
そのため群衆は王宮を包囲こそしたものの、それ以上は近づくことはできないでいた。
そんなアリの這い出る隙間もない程の人込みの中を、リュージは――真っ黒な軽鎧をまとったハタチほどの黒髪黒眼の青年だ――すいすいと抜けていくと、なんなく最前列へと到達した。
そして水堀の手前で群衆の先頭に立ち、扇動するように拳を突き上げながら声を張り上げている青年に向かって声をかけた。
「あんたがこの暴動のリーダーだな?」
「税を下げろー! 圧政を改めろー! 俺たちは人間らしい暮らしを要求する! ……ん? そうだけど、なんだい君は? 見ない顔だね?」
「ちょっと通りすがってな。ところで必死に声をあげてるみたいだが、あんたたちがいくら取り囲んで声をあげても、何も変わりゃしないぜ?」
「なんだと?」
軽い口調で笑いながら言ったリュージに、リーダーの青年は怒りの顔を向けた。
しかしリュージはうすら笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「だってそうだろ? 中の奴らは籠城して時間を稼いで、近隣貴族からの援軍の到着を待っているんだぜ? 援軍が到着次第、城の中と外から挟撃されてこんな暴動程度、一晩も立たずに鎮圧される。そしてリーダーのお前は晴れてギロチン送りだ」
「何を分かったようなことを! ならば何もせずに座して死ねと君は言うのか! もはや日々の暮らしすら真っ当に送れない人間が、この国には山ほどいるんだぞ!」
リュージの小馬鹿にしたような物言いに、リーダーの青年が激高した。
「だから俺から提案がある」
「提案だって?」
「今から俺が水堀の向こうに渡って跳ね橋を下ろし、門を開く。だからあんたは群衆をまとめて、一気に王宮に突入するんだ。それで勝てる」
「はっ、何を言い出すかと思えば、そんなことができたら苦労はしないさ! 見たまえ、この巨大な水堀を」
リーダーの青年は、大量の水を湛えた水堀を指さした。
深い堀には水が並々と注がれており、民衆が集まっただけの烏合の衆で、簡単に攻略できるようなものではない。
「泳いで渡ろうものなら、兵士たちはやぐらから容赦なく矢を射かけてくるだろう。仮に渡れたとしても、攻城用の破城槌もなしにどうやってあの巨大な鉄の門を開くというんだい」
「俺ができるかどうかじゃなく、あんたにやる気があるのかどうかを、俺は今聞いているんだけどな?」
「なんだと!」
またもや煽るようなリュージの物言いに、気色ばんで声を荒げたリーダーの青年だったが、
「それだけ血気盛んなら大丈夫か。ま、ちょっと見てろ」
不敵に言ってのけたリュージの堂々たる態度を見せられて、気圧されたように黙り込んだ。
やれるもんならやってみろこの青二才が――そんなリーダーの青年の冷ややかな視線を浴びながら、リュージは力ある言葉を紡いだ。
「神明流・初伝『剣気発生』」
その言葉が発せられるとともに、リュージの身体に強大な『気』が満ち溢れる。
神明流・初伝『剣気発生』は、人間が持つ『気』と呼ばれる生命エネルギーを活性化させて身体内に巡らせ、身体能力を大幅に向上させる技だ。
初伝とあるものの、リュージの使う神明流の奥義は全てこの剣気をまとうことで使用可能になる。
そのため初伝でありながら、同時に神明流の本質でもあり、神明流そのものとも言える奥義でもあった。
「おらよっと」
リュージは溢れんばかりに身体に満ちる力を強く両足に込めると、一気に跳んだ。
助走もなしの一足飛びで、15メートルはある巨大な水堀を軽々と飛び越えてみせる。
リュージが王宮の門の目の前に着地すると、門の外で対岸を観察していた数人の兵士が呆気にとられた顔でリュージを見つめた。
「おいおい、ここは既に戦場なんだぜ? なにを呆けてんだ? 対岸の火事、水堀の向こうは別世界だとでも思っていたか?」
リュージが言い終わると同時に、そこにいた兵士が全員崩れ落ちた。
すでに全員が絶命している。
リュージが着地と同時に刀を抜刀し、斬って捨てていたからだ。
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