第29話「うん。仕方ない。お前ら全員、皆殺しだ」
「やれやれまったく。なるべく殺さないって約束したんだけどな。でもこれは仕方ないよな、うん。仕方ない。お前ら全員、皆殺しだ」
「ははっ、まだそんな戯れ言を言っているのかい? 己の置かれた状況も理解できぬ愚かな青二才めが! 己の力を過信したまま死にゆくがよいわ!」
自らの優位を信じて疑わないグラスゴー会長は、意気揚々と言い放つ。
しかしそれはもはや、リュージの怒りの火に油を注ぐだけの意味しか持ち得なかった。
「お前こそ、まだ俺の実力がわかっていないようだな。いいぜ、なら見せてやるよ、神明流の誇る対軍奥義を――たった1人で軍隊すらも相手にできる絶剣技をな」
「対軍奥義だと? ふん、そんな虚仮威しが通じるものかい。1人で軍隊を相手にするなど、そんなことはおとぎ話に出てくる勇者や英雄にしかできぬことよ」
「虚仮威しがどうか、その目でしかと確かめるといい――神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』」
リュージの『気』が一気に膨れ上がった。
膨大な『気』が身体の隅々にまで巡っていく。
「じゃあ行くぜ――?」
その言葉が発せられた瞬間。
リュージを取り囲む輪の最前列にいた私兵6人が、首から真っ赤な鮮血を吹き上げてその場に崩れ落ちた。
リュージの激烈な踏み込みからの横一文字が6人の首を叩っ斬り、たったの一太刀で瞬時に絶命させたのだ。
「え……?」
「は……?」
状況を認識できていない私兵たちの間抜けな声が、ちらりほらりと上がる。
もちろんそんな決定的な隙を見逃すリュージではない。
まるで冬の晴れた日に舞う風花のごとくリュージの姿が乱れ舞い、鋭い銀閃がきらめいた。
目にも止まらぬ高速機動から放たれる連続の斬撃。
しかも一太刀が2人3人、3人4人と同時に斬り殺していくのだ。
神明流・皆伝奥義・五ノ型『乱れカザハナ』。
大量の『気』を消費することで身体能力を猛烈に高め、1人で大多数の相手と同時に戦う神明流の対軍奥義は、300人という小さな兵団規模になる私兵たちを相手にしても、後れを取ることはなかった。
「な、なにが――ぎゃぁ!」
「ぎはぁっ!?」
「ぎぁっあ!?」
グラスゴー会長の豪奢な大邸宅は、瞬く間にリュージという死神によって描かれる地獄絵図と様変わりした。
容赦のない殺戮の嵐により、物言わぬ死体だけが恐ろしい速さでどんどんと数を増やしていく。
あっという間に100人ほどが斬り殺されたところで、私兵たちはついに力の差を悟り、これは無理だと恐れをなして逃げ始めた。
最初の1人が逃げれば後は早い、私兵たちは一気に総崩れの状況になる。
「ぐぬぅっ、なにを逃げ出しておるか貴様ら! ええい、金貨10枚……いや金貨100枚だ! あやつの首を獲った者には、金貨100枚と最高幹部の座を用意してやるぞ!」
しかしグラスゴー会長が発破をかけたことで、逃げ出していた半数ほどの私兵が取って返してきた。
そして無謀にも再びリュージに向かっていっては、
「たった金貨100枚ごときで、1つしかない命をドブに捨てるか。ま、お前らクズの命がどうなろうが、俺には関係ないがな」
新たな死体となってその場に転がることになった。
結局、そう大した時間もかからずに、300人以上いた私兵は最終的に220人以上が斬り殺され。
残りの80人は、命からがらにほうほうのていで逃げ出していた。
そして今、
「あ、悪魔だ……お前は悪魔だ……」
「なんだお前、まだいたのかよ。てっきり最初に逃げ出すもんだとばかり思っていたが、意外と忠義に篤いんだな。けど悪いが俺は、お前には特に用はないんだ」
最後までグラスゴー会長の側に居続けた最高幹部が、リュージに一刀のもとに斬り伏せられ。
残されたのは、広大な屋敷にグラスゴー会長ただ1人だけとなった。