第28話 グラスゴー会長の罪
「7年前……?」
「ああそうだ、7年前だ。7年前の夏に、神聖ロマイナ帝国第十二皇子カイルロッドが、この国にお忍びでやってきた。その時に接待を任されたのが筆頭御用商人だったハインツ=グラスゴー、お前だ」
「はて? カイルロッド皇子の訪問は極秘だったはずだが、なぜお前のような者がそのことを知っているんだい?」
「今質問しているのは俺だ。黙って聞けよ」
「てめぇ、グラスゴー会長に対して何を偉そうに――ぎゃあっ!」
話に割って入り、リュージの胸倉を掴もうとしたゴロツキリーダーを、リュージが容赦なく斬った。
スパンと驚くほどに間抜けな音がして、ゴロツキリーダーの首が胴から離れ、ゴトンと落ちる。
「うるせえんだよ、永遠に黙ってろ」
「……!」
「――っ!」
荒事には慣れているはずのグラスゴー会長と最高幹部も、一片の容赦もない殺戮を見せられて一瞬息をのんだ。
リュージが残る2人への脅しの意味も込めてゴロツキリーダーの首を刎ねたことは、当然2人とも理解している。
しかしそれでもそのあまりに狂気じみた躊躇のなさに、2人は底知れぬ恐怖を禁じ得ないでいた。
「さてと。静かになったところで話を戻すぜ? その時お前は町娘をさらわせたよな? 黒髪のよく似合う美しい女だ、覚えてないとは言わせない」
「やれやれ……まさかそんなことまで知っているとは、お前さんはいったい何者だい?」
ここにきてグラスゴー会長が、最大限の警戒心を露わにした。
目を細めてリュージが何者かを見定めんとする。
「俺の名前はリュージ。お前がさらわせた町娘の弟だ」
「あの時の娘の弟……まさか復讐か……」
グラスゴー会長の中で全てが繋がった。
リュージという男が何者なのか。
リュージがここに何をしに来たのか。
この瞬間に、グラスゴー会長は全てを理解した。
「そうだ。そして俺が知りたいのは拉致実行犯の名前と居場所。それともう1つ、助けに向かったパウロ兄を殴り殺したやつらの情報だ」
「……もし断ると言ったら?」
「正直に教えたくなるまで、お前を容赦なく痛めつける」
鋭利な刃のごとき獰猛な殺意を剥き出しにしながら言ったリュージに、
「……ふっふふふ」
グラスゴー会長が小さく笑った。
「なにが可笑しい?」
「正直に教えたくなるまで容赦なく痛めつけるだと? 馬鹿め! この屋敷には300人を超える私兵がいるのだ!」
「それがどうした?」
「くくっ、強がっても無駄よ! 300人を相手に、たった1人の剣士風情に何ができるものか!」
「事ここに至って反省の色すら見せないとは、本当にどうしようもない大悪党だな、てめぇは」
リュージの中で憎悪がマグマのように煮えたぎっていく。
果てしのない怒りと憎しみが、リュージの身体の中を荒れ狂った。
(こんなクズのせいで……! こんなクズのせいで姉さんとパウロ兄は……!)
「なにを言おうとしょせんは多勢に無勢よ! 者ども、曲者だ! であえ、であえ!」
グラスゴー会長の声が屋敷に響くとともに、あちこちの部屋から武器を持った私兵たちが次々と姿を現した。
「へへっ、なんすか会長?」
「仕事っすかい?」
「こやつは王宮御用商人たるグラスゴー商会の本屋敷に忍び込んだ不届き者よ。今すぐ斬って捨てな。生かしてこの屋敷から帰すんじゃないぞ」
グラスゴー会長の命令を聞いた私兵たちは、にやつきながらリュージを取り囲んだ。




