第27話「クズども、話はすべて聞かせてもらったぜ」
「どうされますか、グラスゴー会長」
「もちろん叩き潰します。今すぐにでもミカワ屋に私兵を向かわせなさい」
「お言葉ですがグラスゴー会長。さすがに正面からの殴り込みは、誤魔化しがきかないのでは……」
荒事には慣れた最高幹部も、真昼間に殴り込みをかけろと言われては、さすがに動揺を隠せない。
「我がグラスゴー商会が長年積み上げてきた利権が、一夜にして全てミカワ屋に奪われたのですよ? グラスゴー商会のメンツは丸つぶれです。これはもう、あちらさんには命でもって償ってもらわねば落とし前はつきません。違いますか?」
「ち、違いません」
「ある程度までは金でなんとでもなります。責任は全て私が取ります。後のことは考えなくてもよろしい、ただちに私兵を総動員しなさい。100でも200でも構いません。これは戦争です。あちらさんが生き残るか、こちらが生き残るかのね」
有無を言わさぬ会長の物言いに、最高幹部が「御意」と答えようとした時だった――、
「クズども、話はすべて聞かせてもらったぜ」
いつの間にかその場にリュージがいた。
逃げたゴロツキリーダーを当然のごとく尾行していたリュージは、屋敷に忍び込むと、気配を殺して物陰に潜んでいたのだ。
「な、いつの間に!?」
「いつからそこにいた……!」
「ひぃっ、お前はさっきの魔人野郎!?」
驚きを隠せずにいる3人に向かって、リュージは呆れたように口を開いた。
「まったくよ。王宮御用達の御用商人ともあろう者が、商売敵を平然と暗殺しようとするなんてなぁ。しかもそれが失敗したら、今度は正面から殴り込んで落とし前を付けさせるとか、それもうカタギのやることじゃねえぞ? 盗賊団も真っ青な鬼畜の所業だぜ」
「こ、こいつだよ会長! こいつが例のめっぽう強い剣士だ!」
「ほぅ、お前がミカワ屋に雇われた用心棒かい。なんでも見かけによらず、たいそうな凄腕だそうじゃないか」
「ま、腕に自信はあるかな」
平然と言ってのけるリュージに、グラスゴー会長がニヤリと悪い笑みを浮かべて言った。
「どうだい、向こうの5倍、いや10倍の報酬を用意しよう。こっちに付かないかい?」
「ちょ、会長!? なに言ってんすか! こいつは手下を50人以上も殺した奴なんすよ!?」
「馬鹿野郎、だからじゃないかい。こんな手練れを放っておく手はないでしょうが。それでどうだい、黒ずくめの剣士くん。過去は水に流してうちの用心棒にならないかい? 君ほどの腕前だ、うちができうる最高の待遇を保証しよう」
端から見れば、あまりに突然のヘッドハンティング。
しかし用心棒は金が全ての欲深い人間が多いため、極めて有効な手であることをグラスゴー会長は熟知していた。
「悪いが俺はミカワ屋の用心棒じゃあないんでね。だからその話は乗りようがない。さっきのは単に俺の用事のついでで、一方的に手を貸しただけだからな」
しかし、ことリュージにはその手は通用はしなかった。
「一方的に手を貸した、だって?」
「サブリナ=ミカワには昔、ちょっとした縁があったのさ。知り合いが殺されるのは誰でも気分が悪いだろ?」
縁というのは他でもない。
リュージは昔、パウロの仕事場にお使いに行ったときにサブリナ=ミカワと少しだけ話したことがあった。
パウロにも負けず劣らずの実直で優しい『できるお姉さん』の姿に、リュージはいたく感心したものだった。
もしかしたら淡い初恋のようなものを感じていたのかもしれない。
もちろん今となっては、全てが遠い昔話なのだが。
「昔の縁だって? そんなもののために、天下のグラスゴー商会にケンカを売ったというのかい? ははは、なかなかに常軌を逸した思考の持ち主だねぇ」
「俺の頭のネジが飛んでるのは自分が一番わかってるさ。それよりここからが俺の本題だ。7年前の件についてグラスゴー会長、あんたに聞きたいことがある」