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第21話 おざなり、嫌味、被害妄想


 リュージは夢を見ていた。


 子供の頃の夢だ。

 姉がいて、パウロがいて、裕福でないながらも幸せだった子供の頃の夢。


 しかしその幸せは『あの日』を境に崩壊した。


 リュージは夢を見ていた。

 幸せいっぱいで始まる夢は、終わる頃にはいつも必ず、悲しみと怒りと慟哭(どうこく)に塗りつぶされていた――。



 深い眠りからリュージが目を覚ますと、視線の先には見知らぬ天上があった。

 真っ白な天井だ。


「昔の夢か……最近はあまり見なかったんだけどな……」


 わずかな感傷に浸ったものの、リュージの思考は急速に現実に戻り来ると、即座に現状を把握しにかかった。


 清潔なベッドに寝かされている。

 拘束もされていない。


 愛刀はすぐ手が届くであろう右手側の壁に立てかけてあった。


 神明流・皆伝奥義・十ノ型『不惑』をアストレアに使用したあと、限界まで『気』を消費したせいで倒れてしまったのだと、すぐに思い至る。


「はぁ……アストレアの目が治ってくれたから良かったものの、十ノ型『不惑』は本当に使えない技だな。師匠が死に技だと言ってたのがよく分かるぜ」


 毎回毎回使うたびにぶっ倒れて戦闘不能になっていたら、そう遠くない内に命を落とすことは間違いない。

 例えば戦闘中に大けがをした自分に使ったとして、しかしそのまま気を失ってそのまま倒れたらなんの意味もない。


 リュージが思わずため息をつくと、それに呼応したかのようにお腹がグーっと鳴った。

 起きて早々かなりの空腹を感じている。


「おはようございますリュージ様、ご気分はいかかですか?」


 と、ベッド脇から声がかけられた。

 刀があったほうとは反対側、ベッドの左側からだ。


 アストレア王女――いや今はもうアストレア女王――だった。


「アストレア……まさかずっとついて看病してくれたのか?」


 リュージはベッドから上体を起こすとそう尋ねた。

 身体にだるさはまったく感じず、既に完全回復している。


「はい――と言いたいところですが、残念ながら違います」

「そうか、違うのか」


「ええ。誰かさんのせいで、シェアステラ王国でこれまで主流派として国を動かしていた主だった貴族が軒並み討たれ、新たに1から国を作り直さなければならなくなりましたので」


 アストレアの小さな嫌味を、


「ふうん。それは大変だったな、お疲れさん」

 リュージはさらっと右から左に聞き流した。


「感想がむやみやたらと軽いですね!? ほんとにほんとに大変で大変で、新女王となってからずっと毎日寝る間も惜しんで働いてたんですよ? 毎日3時間睡眠ですよ!? 今もどうにか10分ほどの時間を捻出して様子を見に来たところ、偶然にもリュージ様が目を覚ましたというわけなんですけど!?」


 極度の睡眠不足は、本来は落ち着いた性格であるアストレアを若干のハイテンションに変えていた。


 疲れに疲れているアストレア本人は当然気付いておらず、リュージは気付いていたけれど特に指摘するつもりはなかった。

 アストレアの精神状況なんぞに特に興味はないというのが、その主たる理由だ。


「正直だな、ずっとついていたと言えば俺の心証が少しは良くなったろうに」


「そんな嘘をついたってすぐにばれますよ。なにせもう3日目ですからね、リュージ様が倒れてから。ずっとついていたなんて言ったらすぐに嘘だとバレちゃいます」


「3日だと? まさか俺は3日も寝ていたのか?」


 どうりで腹が減っているはずだった。

 驚くとともに、改めて神明流・皆伝奥義・十ノ型『不惑』は使えない死に技だと、リュージは再認識していた。


「はい。ここは王宮の奥にある私の私室の1つで、信頼できる私専属のメイドに、この部屋で極秘に面倒を見てもらっておりました」


「それは迷惑をかけたな、助かったよ」

 言って、リュージは深々と頭を下げた。


「そこは普通に感謝してくれるんですね。忙しいと言った私には、やたらとおざなりな言葉をかけただけだったのに」


「三日三晩も意識を失い面倒を見てもらったのは俺の失態だから、当然感謝はする。だがお前が忙しいのは女王であるお前の義務だから、特にそれについて俺が思うところはない」


「なるほど……今の会話で、少しだけあなたの価値観を理解できた気がします。リュージ様は究極の個人主義なのですね」


「それは嫌味か?」


「いいえ、ただの感想ですが? そんな風に感じたのは、リュージ様の被害妄想じゃないでしょうか?」


「ちっ……」


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